投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
「ねぇ、卓也。卓也ったらっ」
「―――――ん・・・」
桔梗に肩を揺さぶられやっとのことで半覚醒する。
それもそのはず、卓也は小一時間前にベットに入ったばかりだ。
「今日は休みだ、頼むから寝かせてくれ〜」
「分かってるって、俺もこれから忍と二葉と約束してるし。忍がボイスレコーダー壊れて困ってんだ、使ってないのあったよね、貸してやってくんない?」
卓也はゴソゴソと布団から腕を出すと部屋の隅のダンボールを指した。
ダンボールの上には黒マジックで『不用品』と書かれている。桔梗はそれを開けるといっぱいに入ったガラクタから古いボイスレコーダーを見つけ出す。と同時に丸い掌サイズの塊に手をのばした。
「なんだろ、これ?ゲームかな?・・・ねぇ〜卓也」
「・・・見つかったか?忍が使うならやってくれ」
「サンキュ、それよりコレって・・・」
「―――――そこのものは全部やるから寝かせてくれ〜」
「ハイハイ、じゃ起きたらちゃんとご飯たべなよねっ」
眠そうな卓也を後に桔梗は早々に部屋を後にした。
「おっ、珍しい格好してんじゃん」
「珍しいってよりも俺には懐かしいよ」
待ち合わせの店に現れた桔梗を見、二葉と忍は口を開いた。
「ジャーン、金持チックなちょい悪ハード系でまとめてみました」
「ちょい悪っていうより昔の小沼そのままじゃん」
「違うもん」
言って桔梗は折り返したジャケットの袖をめくり何連ものブレスと一体化した時計やベルトについた皮のホルダーなどを見せここが違うと力説する。
「分かった分かった立派なちょい悪だ。それより何でもいいから食わせてくれ〜」
二葉がもう我慢できないと口をはさむ。
それもそのはず、桔梗と悠の最近おすすめ自然派食品の店でのブランチ約束で彼等は朝からまだ何も口にしてないのだ。
「肉じゃなくてもいいからさ〜」
数日前帰国した二葉は焼肉と言い張っていたが、朝から焼肉×××と忍のブーイングにあい、美容と身体にいいとの桔梗の推しでこの店となったのだ。
「じゃオーダーしよう」
二葉に急かされ桔梗は席についた。
お奨めを中心にオーダーを済ませると桔梗はゴトンと古いボイスレコーダーをテーブルに出した。
「これでよかったら忍にあげるって」
「助かるよ。卓也さんにお礼言わなきゃ」
「それにしても年代モンだな。だから、この機に新しいの買えって」
「いいよ、せっかく二葉が修理屋さん見つけてくれたし」
忍愛用のボイスレコーダーは一樹のお古で今時見ない年代物。それが壊れてメーカーに問い合わせたところ部品がなく修理不可能を言い渡され残念がる忍を見かね二葉が修理屋を探し出したのだ。
「けど今のはマイクもいいし、メモリー量だって」
「でも気に入っているから」
なら仕方ないと二葉は首をすくめた。
「ねぇ、それよりコレ何だろ?ゲームかな?」
桔梗は卓也のダンボールで見つけた黒い機械をテーブルに出した。
「ゲホッ!!ゲホゲホッ・・・ゲホッ」
「オイ、忍」
突然飲んでいたアイスティに忍がむせこみ、その背を二葉がさすってやる。
「忍へーき?」
桔梗も心配そうに覗き込むと忍は苦しそうに目に涙を浮かべていた。
「―――――ご、めん。気管に入ったみたい」
少しの間苦しそうにしていたが、なんとか落ち着き忍は顔をあげた。
「それって・・・」
「ん、ああ。卓也にもらったんだけど何なのかわからないんだよね」
「もらった・・・の?」
「うん。不用品の箱に入ってて、その中の物はくれるって」
「―――――」
「ん、点滅してるぞ」
手に取った二葉がスイッチらしきものを入れると赤い光がピカピカとつく。
「そうなんだ。あれ?動いてる・・・さっきはもっとこっちの端で点滅してたのに」
不思議そうに首をかしげた同時に桔梗の髪が揺れ忍の前に見覚えあるシルバーのイガイガピアスが現れる。
「―――――っ」
間違いない。以前に一度見たことがある忘れようにも忘れられない・・・高一の時、卓也さんが小沼につけさせていた発信機付きのピアスだ。
発信機と受信機が揃ってるなんて悪夢のような偶然だ。
ピアスが発信機になってるなどもちろん小沼は知らない。確か明日は雑誌の撮影が入っていたはず。何としても隠し通さねば。卓也さんが絡むと小沼はメンタルになりグッと表情が曇るのだ。一瞬の間に忍は頭で何通りもの防御策を打ち出した。
〜ピロリロピロリロピロリロリ♪〜
桔梗の携帯が鳴る。
「もしもし、悠?―――え?なに?・・・もしもーしっ、聞こえる?」
どうも電波が悪いらしい。桔梗は携帯を耳に当てながら店の外に向った。その背を見ながら忍は二葉に告げる。
「二葉、それ昔卓也さんが小沼につけてた発信機の受信機なんだ」
「受信機〜っ」
素っ頓狂な声をあげ二葉はため息をついた。
だが、さすが二葉。彼も一瞬で頭を切り替えた。
「キョウにはバラすな」
発信機をつけて監視してたなんてキョウにしれたら明日からの忍のアフターファイブは間違いなく貸し切りだ。
勘弁してくれよ〜こっちには一週間しかいられないんだぜー。声にならない声で二葉はぼやいた。
「とにかく話題を逸らすぞ」
悠を伴って姿を現した桔梗を遠目に二葉は呟いた。
「よぉ」
「久しぶり」
数ヶ月ぶりに顔を合わせた二葉に軽く応じ、悠は席につくと興味深そうにテーブルの上に目を留め口を開いた。
「それ何の受信機?」
「―――――!!」
「受信機?」
突然の爆弾発言にカチンと固まる二葉と忍と別に桔梗はおっとり繰り返す。
「受信機だろ、それ。あれ、発信機も側にあるみたいだ」
悠は受信機を手に取り覗き込む。どうやら彼はレーダーが読み取れるようだ。
「これ誰の?」
「一応、俺のだけど」
答えた桔梗の首、そして腕をまくって腕、最後に髪を掻き揚げ悠は目を光らせた。
「発信機は多分、そのピアスだね。それ贈り物だろ?俺もやられたことあんだよね、しつこいストーカーに」
「・・・ストーカー?」
「そ、メカに強けりゃ自分で作れるものらしいし」
「・・・・・」
絶句し桔梗はうつむいた。
その様子をいまだ固まったまま二葉と忍は見守るしかない。
沈黙の数秒がすぎ忍が声をかけようとしたと同時に桔梗の顔がクッと上がった。
満面の笑みを浮かべて・・・。そして、
「ごめん俺帰るわ。買い物して卓也に食べさせてあげなきゃ」
「ち・・・ちょっと、小沼」
「これって愛だよねー、見守ってた証拠だろっ」
桔梗は嬉しそうに笑うと「俺の分は食べといて」と悠に告げ急ぎ足で帰途につく。
「―――――はぁ・・・」
緊張の糸が切れたのだろう二葉がやっとのこと詰めていた息を吐き出した。
「どういうこと?」
そんな二葉を見ながら悠は首をひねった。
「バカっていうのか、おめでたいのか」
忍の説明を聞き悠は呆れ顔を浮かべた。
「助かった」・・・と二葉。
けれど恋人といえども発信機をつけて監視されていたと知れば普通は怒るものなのだろうが・・・。
「小沼はまるで台風だね」
「それに周りは巻き込まれる」
「アメリカじゃ台風に名前があるけど今にきっとあいつの名もつけられるぜ、きっと」
三人は顔を見合わせ深いため息をついた。
けれども卓也さえいれば、やがて台風も熱帯低気圧に変わることだろうと確信して。
有機野菜のサラダをパリパリとたべながら二葉は思う。本当にこれは身体にいいのだろうか?
いや焼肉でも何でも精神に負担をかけず食事する方が絶対身体の為にいいと思う・・・と。
「夜は焼肉にしような」
二葉の言葉の意味を理解したのだろう、忍はパリパリとサラダを食べながらもコックリと頷いた。
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