投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
「すっかり良いな。さすがは龍鳥、ずば抜けた治癒力だ」
数日前、足に深いキズを負って帰ってきた冰玉の患部を見て、感心したように桂花はつぶやく。
「お前の薬が効いたんだろ」
柢王は、龍鳥に向いてばかりの恋人の気を引こうと、その体に後ろからからみつき、叩かれた。
「人の目があります。よし、いいよ。冰玉、遊んでおいで」
腕をあげてやると冰玉は、真っ青な美しい翼を広げ空高く舞った。その足元がキラリと光る。
昨夜 冰玉に土産だ」と柢王がアシュレイから受けとった足輪。
「俺からだって言うなよ。アイツ(冰玉)俺のこと嫌ってるだろ」
苦笑しながら渡されたそれは、リングが鮮やかなサファイアで、ブラックダイヤモンドとパープルダイヤモンドのチャームがついてた。
細くシンプルなデザインは、飛行の妨げにならないよう考慮されており、いずれも硬度の高い石なので、そう簡単にキズつかないはずだ。
しかし冰玉は日々成長している。
今のサイズにぴったり合わせてオーダーされたこの足輪が、すぐに合わなくなるのは目に見えていた。
「俺らの色だな。硬度の関係もあったんだろうが、お前や冰玉が触れられるよう、水晶はさけたんだゼ、きっと」
「どうせすぐ合わなくなるのに、こんな高価なものを簡単に買って来るあたり・・・あなたと良い勝負、やはり王子ですね」
皮肉な言い回しだが、その表情はおだやかなものだった。
木洩れ日に手をかざし、自分たちの上を旋回する姿を見上げていると、後ろから柢王を呼ぶ声が。
振り向くと、浮かない顔をしたアシュレイが立っていた。
「アシュレイ、いつ戻ったんだ?」
「今さっきだ。昨日のショップに行ってた。頼んでないモンが入ってたから返しに行ったんだけどサービスだったらしい。結局またいろいろ買っちまって・・・・じゃなくてっ、ヘンなんだ!俺が保護した鳥以外の動物がみんな、いなくなってんだ」
「みんな?」
柢王と桂花が顔をあわせ首をかしげる。
まさか示し合わせてゾロゾロと天主塔の領域から出ていくはずもないだろうし、どういうことだろう?
「みんなケガもすっかり良くなってたし、ここにいろって強制してたわけでもないから別に良いんだけどサ、いっぺんに・・っておかしいよなぁ?」
「確かに妙だな・・・ヨシ、冰玉に訊いて探すか」
「頼めるか?俺もう1回、向こうの方を見てくる」
柢王の申し出にホッとして、アシュレイは塔と反対の方へ走っていった。
その後姿を見送りながら柢王が苦笑する。
「あいつ、マジで動物に弱いな」
「そのようですね」
「ま、天主塔領内にいたんだから、危険な目にあったわけじゃないだろーけど」
「それはそうですね。なにしろここは守天殿の結界に護―――」
言いかけた桂花が柢王を見ると、こちらの意図を察したのだろう、頷いて塔内へと走り出した。
「こら待て!なんてすばしっこい」
「痛っ!咬まれたっ」
「こっちに入れっ!言うことを聞かないかっ」
逃げ回るリスを捕まえようと走る者。うさぎに手をかまれ悲鳴をあげる者。嫌がる小鹿の尻を懸命に押す者。みんな例外なく顔や手に噛みキズもしくはミミズ腫れがあり痛々しい。
目の前で繰り広げられる騒ぎのわりに、作業が進まずティアは額をおさえた。
「すまないがもう少し急いでくれないか」
「は、はいっ守天様」
汗をかきつつ応えた男の後ろから、ふいに押し殺すような低い声が響いた。
「近衛を使って動物たちをどちらへ?守天殿」
「桂花っ!・・柢王も?ど、どうして・・・」
「アシュレイが心配してたぜ。保護した動物が消えたって」
「もうっ?!」
「・・・・・いい加減、大人になりましょう守天殿。くどいヤキモチは別れを招きますよ」
「な、なんのことかな?とつぜん怖いこと言い出して」
「真実です。この事態、バレたときの言い訳は用意してあるんでしょうか?」
「・・・・・」
「あなたほどの方がなにも考えてないと?」
「〜〜〜〜すまない」
「どうなっても今度ばかりは知りませんよ」
ティアにトドメをさしつつ、アシュレイに見つからないうちに手を打たなければと考える。
天界一の美貌と頭脳をもっているはずなのに、恋人のこととなるとバカ丸だしのこの男のことを、最近では柢王に頼まれなくても、面倒みてしまう。一種の職業病だ。
この2 , 3日も、柢王が天界にいるにも拘らず、天主塔に泊まりこんでいたのだ。書類をため込んでいる守天のために。(それを聞いて妬いた柢王がくっついてきた)
昨日、午前中に仕事のノルマをこなしたティアは、アシュレイのために作らせた服を着てもらおうとウキウキしながら彼の部屋を訪れた。
しかし部屋はモヌケのから。
急いで執務室へ戻り、「どこにいるのーっ?」とバルコニーから叫んでいたら「守護主天ともあろうお方がそんな大声をはりあげて#」と桂花に叱られた。
「南の方なら出かけられたようですよ。先月南でオープンした、動物専用の小物やエサを扱っているショップに注文していたものを受け取りに行くとかで」
柢王に話しているのを横で聞いていたので、まちがいない。
それを聞くとティアは無言で席につき、『桂花に決められたノルマ』以外の書類に目を通しはじめたのだ。
おかしいとは思った。思ったけれど、積極的に執務をこなしてくれるなら文句はないと、深く考えなかった。
「まさか、こんな手段にでるとは」
ため息も自然に漏れてしまう。
「アシュレイ怒るかな・・・?」
いっこうに温まらない桂花の瞳をさけ、柢王に問うと「確実だろ」と一刀両断。
「どうしよぉ」
ようやく我にかえってあせり始めた守天は、柢王と桂花の周りをウロウロ歩く。
自分との時間より動物を優先されたことにショックをうけた彼は、動物たちを拉致してどうするつもりだったのだろう。
「守天殿、彼らをどうなさるおつもりだったんですか?」
「え?う〜んと・・」
「夜になったら勝手に森へ帰すつもりだったんだよなぁ、ティア」
「ま、まさかぁ、いくらなんでも・・アハハハハ」
(―――そのつもりだったんですね!!)
まったく、どうしてこうろくでもないことを考えるのか。そんな暇などないくらい執務に追われているはずなのに。いや、余裕が無さすぎておかしくなるのだろうか。
「とりあえず、シカ以外は箱に入れて外へ運びだしましょう」
「元に戻しちゃうの?」
「当然です!」
「そ、そんなに怒らないでよ桂花」
機嫌をとろうと、すり寄ったティアに「くっつくなよ」と割りこむ柢王。
「お前らなにやってんだ」
凛と響いた声に、ギクリと三人の動きが止まり、ティアが目だけでそちらを伺う。
「・・・やぁ、アシュレイ」
「これは一体どーいうことなんだ?俺に分かるように説明しろ、ティア」
アシュレイの指さす先には、箱を持ってウサギを追い回している近衛の姿が。
「えと、えぇとね、つまり・・・」
たじろぎながら柢王にヘルプ信号を送るティアと、ブンブン首を振る柢王。
緊迫したようすに気づいた近衛たちも立ち止まりこちらを見ている。
その気まずい沈黙を破ったのは桂花だった。
「どうやら守天殿はあなたの為に彼ら(動物)をこの部屋に連れて来させたようですよ」
「俺のためぇ?」
「動物たちを大切に思っているあなたを喜ばせようと、この部屋で彼らと一緒にパーティーを開くつもりでいたそうです。あなたが昨日仕入れてらしたエサとか、小物をつけてあげる良い機会だと」
「・・・じゃあなんで鳥たちだけ集めなかっ―――そっか、鳥目だから夜になったら自分の巣に戻れなくなるもんな」
イイエ。おそらく捕まえられなかっただけのことです・・・・・・心で答える桂花。
「そっか、そうだったのかティア。ヨシ、そうと分かれば手伝うぞ。準備だ準備!俺が昨日買って来たこいつら専用のごちそうも持って来るからなっ♪」
意気揚々と出ていったアシュレイにホッと胸をなでおろすティア。
「ありがとう、桂花」
「守天殿。礼は要りませんから、このような事、これっきりにしてください」
それ以上ティアと話していたら、朝まで説教してしまいそうな自分を自覚して、桂花は背を向けた。
自室からせっせと荷物を運び、張りきるアシュレイの姿を、とろけそうな視線で追うしあわせなティアは、ウサギたちの鋭い視線に気づいていない。
「ティア、ありがとな。天主塔に動物たちを入れてパーティーなんて、できると思わなかった」
「君が喜んでくれるなら、なんだってするのが私だよっ!!」
ちゃっかりアシュレイの肩に腕をまわして、調子のいいことを言うティアを、動物たちより物騒な視線で見据えているのは桂花。
「柢王・・・・・いつか吾は、あなたの大事な友人に毒を盛ってしまうかもしれません」
「ハハッ、そー言うなよ。恋は盲目って言うじゃん。それより、そろそろ御役御免だろ?帰ろうぜ。盲目さ加減じゃティアに負けないとこ、証明してやっから」
「フ」
大きな柱の影でどちらからともなく、そっと指をからめる。
賑やかな部屋の片隅で、淫靡な空気をまとったカップルは、誰にも気づかれぬうちにそこから抜け出していった。
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