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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.236 (2008/10/16 16:02) title:雲の通い路
Name: (109.152.12.61.ap.gmo-access.jp)

 読みかけの本を閉じて顔をあげる。
 澄みわたる空。甘く香る木犀。
 柢王が花街に出かけているあいだ、桂花は庭に花氈を広げ読書を楽しんでいた。
「・・・・空也・・・?」
 向空に小さく、人が向かってくるのが見える。
 だんだん近づいてくる人影がハッキリとしたものとなり、目の前に降りたった。
「桂花殿、お休みのところすみません。柢王様に頼まれていた報告書を持ってきました」
「急ぎですか」
「はい。捜査結果が出次第、報告するよう命ぜられています・・・・柢王様、いないんですか?」
 桂花は頷くと手をさし出した。
「吾がかわりに預かっておきます。ご苦労さまでした」
 しかし空也はそれを桂花に渡さず、となりに腰を下ろす。
「なにしてたんですか?」
「本を」
 脇に置いてあったそれを見せると、「そんな分厚い本、よく読む気になれますね」と、空也は苦笑いをした。
 それには応えず体を横たえ、肘をついた状態で桂花は目をとじる。
 そうすることで追い払うつもりだったが、この程度でへこたれるような相手ではなかった。
「あれ?誘われてるのかな」
 笑いながら空也が美麗な顔をのぞきこむと、研ぎ澄まされた瞳がむけられる。
「はねっかえりの彼女は?」
「元気ですよ」
「それは良かった。吾にかまうな」
「ん〜・・こんなにきれいな人を前にして構うなと言われてもね」
 桂花の、そこだけ異色の髪を手にとり、唇をよせた空也。
 そんな彼の手を振り払う代わりに、紫石英で射る。
「すごいな・・・その瞳・・・吸い込まれそう」
「・・・・・」
「彼女がいても・・・・あなたを前にしたら・・・」
 恍惚とした表情のまま空也がせまる。
――――それ以上近づくな。
 口にしようとした刹那、空也の体が宙に舞った。
「うわっ?!」
 数メートル飛んでいった彼に、すかさず蹴りを入れる男。
「柢王。おかえりなさい」
「おう、いま帰ったぜ。コノヤロッ、コノヤロッ!まったく懲りない野郎だっ#」
「イタイイタイッ!冗談じゃないですか、柢王様っ冗談っ」
「なーにが!目がマジだったっつーんだよ!鼻の下も伸ばしやがって。二度目はないんだバカ野郎っ」
 ゲシゲシ蹴られつづける空也に桂花は笑って止めもしない。
「度が過ぎる冗談は冗談じゃねえんだっ、覚えとけ!」
「二度としません〜」
 半泣きで誓う空也に、ようやく「もうその辺で」と桂花の助けが入った。

「お前もさ、簡単に髪とか触らせてンなよ」
 空也が腰をさすりながら帰っていったあと、柢王は花氈の上で桂花を抱きしめながら唇をとがらせた。
「別に減るものじゃないでしょ」
 わざと柢王の気に触るような物言いをしてみる。
「お前は俺以外のヤツに髪触られてもなんともないのかっ」
「泥とかついた手でなければ別に」
「千回洗った手でもダメだ!」
(・・・・・自分は芸妓に平気で全身触らせてるくせに)
「なんだ?」
「いえ。なんでも」
 ふふ、と笑って柢王の胸に顔を埋めた桂花は、その体から白粉の香りがしないことに気分が良い。
「雲が早いですね」
「風が強いな」
 刻一刻と姿を変えていく空。
 いくつもの雲がこの上を通り過ぎても、変わらない想いがある。
 ただひとりでいい、他の誰も要らない。

 決して失えないものは、この体の温もり。


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