投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
「ううーーーむ」
昼下がりアシュレイは卓袱台にひじをつき唸っていた。
つけっぱなしのテレビも、かじりかけの煎餅もそのままで。
と言うのも昼過ぎにきたティアの『今日は定時で帰ります』メールのせいだ。
二人はめでたく結ばれたものの上司エンマの妬みから、早出、残業あたりまえ、休日返上とティアの過酷労働が続いている。定時帰宅など結婚以来初めてのことだ。
「今朝はいつになく白い顔してたな。 貧血かも・・・よぉし今夜はいっちょ俺が腕をふるって」
意気込んだのも束の間、イザ献立を考えると何も浮かばない。
間の悪いことに頼みの母は、お隣さんから譲り受けた宿泊券で家族と共に温泉旅行。
「食材見て決めるか」
今更ながら時間の無駄を悟ったアシュレイはヨッシャと立ち上がると台所にむかった。
いつもどおりにエプロンに手を伸ばし、今朝洗ったことを思い出す。
エプロンなくとも家事はできるのだが、割烹着を主婦の制服と着こなす母を見て育ったアシュレイには外せないアイテムだ。
「参ったな・・・そういえば柢王にもらったヤツがあったような」
思い出すと同時に押入れに直行。ゴソゴソとそれらしき箱を引きずり出す。
「これだ」
満足気に呟き箱を開けると、うっすら見覚えある白いエプロンがあらわれる。
ティアと一緒になった祝いにと有名デザイナーにかけあい柢王がプレゼントしてくれた逸品だ。
「やたらビラビラが・・・。 けど動きやすいし、ま、いっか」
一般のものよりフリルが多く、丈は短い。けれど動きに支障がないのでアシュレイはサッサとそれを身につけた。
あの時鏡を見れば!!後々アシュレイは後悔することになるのだが、その時はまだ何も気づかない。
光りの加減によって現れる『Eat Me』のロゴと誘うようなウィンクいちご柄を。
「ちわー、三河屋でぇすっ」
勝手口からの聞きなれた声にアシュレイは台所にひきかえした。
御用伺いの空也だ。
空也は現れたアシュレイを見るなりカチンと固まった。
「ちょっと待ってくれ」
空也を見ずにストック確認を始めたアシュレイは彼の奇異な様子に気付かない。
「んーーー、母さん出かけてるから何が切れてるのか・・おっと醤油がねーな、いつもの濃い口醤油一升・・・と」
「――――奥さんお留守なんですか?」
復活進行形の空也がシドロモドロつぶやく。
「そ、隣から温泉旅館の宿泊券もらって家族総出で出かけたんだ。俺も行くつもりだったんだけどティアが休みがとれなくてさ。アイツひとり置いてくわけいかねーだろ」
「なるほど。・・・それで・・・」
(今日はふたりきりなんですね)空也は言葉を飲み込んで、したり顔で頷く。
「醤油は玄関先に置いておきますね」
彼なりの気遣いを見せ「まいどー」の声をかけると空也は急いで立ち去った。
「なんでぇっ、アイツ」
逃げるような空也に眉をひそめ、アシュレイは冷蔵庫を開けた。
賢明な母はアシュレイが料理をするなど思いもしなかったのだろう。中は見事にスッカラカン。
「チッ!!よおしっ、まずは買い物、買い物っ」
舌打ちしながら買い物籠を引き寄せると、白いエプロンをはためかせ、アシュレイは外へ飛び出した。
「レバニラ、餃子に焼肉、ドジョウにうなぎ」
慌てて出てきたものの献立は何も決まってない。思いつくまま精のつく料理を口にし歩いていると、馴染みの本屋にさしかかる。
毎度買い物の際、立ち寄る場所だ。だが今日は、と通り過ぎようとし立ち止まる。
「その手があるな」
閃きを感じポンと手を打ちアシュレイは、意気揚々と本屋へと入っていった。
「ううーーーーむ」
「何かお探しですか?」
本屋ナセルがアイュレイの背後から声をかける。
「今晩の献立」
料理本に顔をつっこんだまま、アシュレイはぶっきらぼうに答える。
そんなアシュレイの態度にもナセルは終始笑っている。
立ち読みにうるさいと評判のナセルだが、心酔しているアシュレイは何時何時でもフリーパス。茶や菓子まで出る特別待遇だ。
「なにか要望でも?」
「バテバテの家のモンにスタミナつけてやろうと思って、何か精のつくものをっ・・・・駄目だ!!難しすぎる!!」
パタンと本を閉じアシュレイは、クルッとナセルに向き直る。
途端ナセルはピキンと固まった。
原因はもちろん『Eat Me』とウィンクいちご。
(アシュレイ様っ、なんて情熱的な!!そりゃバテるでしょう若旦那)byナセル
「やっぱレバニラかな〜」
ナセルの脳内思考など知るよしもなくアシュレイはブツブツつぶやく。
「レ、レバニラ!!駄目ですっ!!そっ、そりゃ精はつきそうですが・・・」
「あん? おまえレバニラ嫌い? じゃあ餃子はどうだ?」
「いえ、餃子はっ・・・」
「えーーーっ!!なんだよっ、じゃあ焼肉っ」
「焼肉っ!! そんな、あからさまなっ!!」
「もういいっ!!」
何を言っても否定するナセルにアシュレイは怒って外へと飛び出した。
「ナセルの奴、俺が料理のひとつもできねーと思ってやがるっ」
悪態を吐きドスドス歩いていると八百屋にさしかかる。
色とりどりの野菜や果物に引き寄せられ、アシュレイは立ち止まった。
店に踏み込みグルリと見回すと、何故かニンニクが目についた。
直感を感じ手を伸ばしかけたアシュレイだったが、目眩を感じしゃがみこむ。
突如襲った強烈なニンニク臭のせいだ。
臭いは更に強くなる。
それもそのはず、臭いの元がアシュレイの隣にいるのだから。
いつの間にアシュレイの横にいたのは、全身紫でコーディネートしているヨボヨボ老人。
その奇抜な装いは、まるで変わったオブジェのようだ。
老人は異臭でへたり込んでる人々にはお構いなしに、ヨロヨロ押してきた歩行器の上によじ登り、ニンニクの山に狙いを定めるとピョンと一気にダイブした。
息を呑む外野は何のその、両手いっぱいニンニクを抱え、アシュレイ同様しゃがみこんでいる店主にニンニク臭の浸みこんだ貨幣を渡すと、慣れた様子で歩行器の荷台に詰め込んだ。
そして勇ましく拳をふりあげると「ニンニクパワーぢゃ!!」と雄叫びを揚げ、くの字に曲がった身体には信じられないスピードで歩行器(ニンニク)と共に去って行った。
アシュレイが立ち上がれるようになった時には、もはや一欠けらのニンニクも残ってはいず。
「ちっくしょーーーう!!」
別段ニンニクが必要というわけでもないのだが、なけりゃ欲しくなるのは人の常。
主旨のズレには気付かずに、今やニンニク獲得を使命にアシュレイは白いエプロンをはためかせ全力で駆け出していった。
マンションの台所で桂花はお弁当を作っていた。
「桂花〜。ちょっとエプロンの中脱いでみねー?」
柢王の手が桂花の肩口に伸びる。
ペチッ!
「もう何してるんですか!朝っぱらから・・」
「いや〜。後姿がそそるっつーか。」
「ほらほら。もうすぐ猿達が来ますよ。」
ピンポーン
「おーい。柢王、迎えに来たぞー。」
「柢王、桂花、お待たせしました。」
今日はフグ田家と波野家の新婚カップル同士、海水浴に行くことになっているのだ。
ティアが運転するレンタカーで、4人は勝○海水浴場に到着した。
この海水浴場は、比較的こじんまりして、きれいな砂浜が広がる穴場なのだ。
この辺の情報は、事前にナセル(じんろく)から入手済みだった。
海についた一行は、さっそく水着に着替える。
アシュレイも桂花も、この日の為におニューの水着を用意してきた。
アシュレイは、キャロットカラーのセパレートで、フリルスカートを合わせている。
サザ○ヘアとあいまってとてもかわいらしい。
「おかしくないか?ティア・・」
「とってもかわいいよ!アシュレイ。」
一方桂花は、白雪色のシンプルなデザインだが、背中や胸元の刺青が美しく露出されている。
腰には棕櫚の柄のパレオを纏っていた。
「サイコーに色っぽいぜ!桂花。」
「・・・///」
ランチを済ませた後、体を焼き終えた柢王は、桂花をゴムボートに乗せて、海でまったり過ごしていた。
アシュレイは泳ぐのを止めて、パラソルの下で寛いでいるティアの元に戻ってきた。
「ティア、暑くないか?アイス買って来てやるよ。何味がいい?」
「ありがとう、アシュレイ。じゃあバナナ味を頼む。」
「わかった。じゃあ行って来るな!」
「人が増えてきてるから気を付けてね。」
「すみませ〜ん。バナナ味のアイスを一つ下さい。」
「うちにはバナナ味は置いてないんだよー。」
アシュレイは隣の海の家に向かう。
「バナナ味のアイスありますか?」
「ごめんねー。バナナ味はないなー。バニラの間違いじゃなくて?」
「すみませーん。」「うちはバニラしかないよ。」
バナナ味を探す内に、ふと気付くと見慣れない景色が広がっていた。
知らぬ間に隣の海水浴場まで来てしまっていたのだ。
「彼女〜、一人?」
アシュレイは二人組みの男に声を掛けられた。
「いや、4人で来たんだけど、迷っちゃったみたいなんだ。」
「ぼくらも4人なんだ。向こうに二人いるから一緒に仲間を探してあげるよ。」
「ホントか!」
───その頃
「どうしよう柢王!アシュレイがアイス買いに行ったきり戻らないんだ。
海の家にもいないし・・。」
「どうせ迷ってるんだろ。俺が連れ戻してくるさ。ティアと桂花はここにいろよ。」
アシュレイは、男達に持て囃されながら、‘隣の海水浴場’でティア達を探していた。
「一緒のお友達も君みたいにかわいいの?」
桂花のことかな・・?
「うーん。桂花はかわいいっていうより、きれいかな。スタイルがいい。」
男達は、目配せして小さくガッツポーズを作っている。
「おい、アシュレイ!」
「あ、柢王!ちょうど戻る所だったんだ。アイス見つからなくて・・。」
柢王はアシュレイの腕を引っ張り、肩を組んだ。
「俺の連れに何か用か!」
「ちっ、なんだ〜。男連れかよ〜。」
男達は立ち去って行った。
「全くお前は警戒心が無さ過ぎるな。ティアが心配してたぞ。」
「ごめんな。わざわざ迎えに来させちゃって・・。」
その後二人は和気藹々と肩を組んだまま、ティアと桂花の元に戻った。
「アシュレイ!大丈夫だった?怖い目に合わなかった?怪我はない?」
「ごめんな、ティア。バナナ味見つからなくて・・」
「君が無事戻っただけで十分だよ!」
ティアはアシュレイに抱きついて、しきりにその存在を確かめている。
「───柢王。ずいぶん猿と仲がよろしいようで。」
「へっ。いや、あれはだな。変なやつらにアシュレイが引っ掛からないようにだな・・。」
「そんな人達、いないようでしたけど?」
「いや、向こうにいたんだよ。そのまま、話が弾んでだな・・。
桂花〜。すまんっ。機嫌直してくれよ〜。今日の夕飯は俺が作るから。」
「今日は外食でしょう?」
「じゃあ欲しがってた鍋買ってやる!」
「ル・クルーゼですよ?」
もちろん桂花は本気で疑ってはいなかったが、
たまにはこんな柢王もかわいくて、もう少しだけこのままでいよう、と思ったのだった。
END
ガラガラガラ!ガッシャン!玄関の戸を荒々しく閉める音。
ドタドタドタ。。。バタン!。。
こんな時間に誰が帰ってきたの?子供達はまだ学校だしお父さんもアシュレイも仕事に行っているはず。
玄関に行くと放り出されたアシュレイの鞄と靴。アシュレイが帰ってきたのね。。ふぅ。いやに早い帰りだこと。。
アシュレイの部屋からまたも騒がしい音がする。。物を投げつける音、一体何があったの?
ガッシャーーーン!!!窓ガラスまで割る程だなんて!
いくら強気でお転婆娘のアシュレイでも普段から物に当たる事をする訳ではないのに。
アー 『ちくしょうっ。ちくしょうっ。ちくしょうーーーー!!!』肩で息をしつつそれでも怒りはおさまらない。
どうしてこんな目にあわなきゃなんねえんだよ!そんな悪い事してなんかねぇって!?
グラインダーズ『一体どうしたの?。。シュレイ?ここを開けなさい!!』なにかで襖を開けられないようにしているみたい。
とたんピタリと止む音。。。あまりに静かになりすぎて逆に不安になる。
アー 『なんでもねぇよ。。少しほっといてくれ。。』ふるえる涙声、まだ落ちつかねえ。。
本当に何があったのだろうか?みんなが帰ってくるころには浮上していればいいのだけれど。。。
事の起こりは数日前に遡る.
アシュレイが痴漢を追いかけ階段から足を踏み外し数段下のティアを巻き込み下敷きにしてしまったあの日にはまだ続きがある。
怪我の無い様に受け止めてくれたのにまったく無関係の男性(ティア)を痴漢呼ばわりし更に拳骨でとどめをさしてしまった事件ー。
なんとか謝りたくて警察に相手の身元を聞き搬送先の病院に桂花と一緒に行って見れば、
やはり頭を打っているから念のため入院して安静にしなくてはならなくて謝る事はおろか顔を見ることも出来なかった。
ネフィ 『ふーん?君があれを痴漢呼ばわりしてくれたの?』ジロジロジロ。。なんて生意気な女。。
こんな小猿をかばって自分は犯人呼ばわりされるなんて?恥さらしもいいとこだねぇ。。クスクス。。
アー 『なっ!初対面の人間に失礼じゃねぇ?』一体だれだこいつ!?ここで笑うか?言葉より態度が気に入らない。
その後駆けつけた警察によって容疑者は捕まっているから誤解は解けているはず。それが分かってはいても一族の恥は恥。
第一印象最悪状態。これから喧嘩が始まるような険悪ムードの怪しい雰囲気の中。
桂花 『申し訳ありませんが?』お互い落ち着きませんか?
一緒について来た桂花。あまりにもアシュレイの様子がおかしくて心配して付いて来てみれば相手はなんて礼儀知らず。
といっても怪我をさせたのはこちら側だから強く出ることは出来ないけれど。
某デパートで働く桂花は様々なタイプのお客様に気持ちよくご来店いただく為、またリピーターを作る為それなりの努力をしている。
そしてタイプ別に対処方法を変えるのだが今回のこの人物像はどうにも掴めない人柄だった。。というより直感的には近寄りたくない。
だがそうはいってはいられない。アシュレイがどうしても謝りたいというから少しは助けになるかと思えばあの人の家族がこれ?
一方ネフィ。初めてその存在に気がついたように桂花を見るが、遠くから見るより近くで見るほうがやはり美貌が際立って見える。
意外とお互い負けてはいない。。(うーん。。気に入ったかも。。この娘ならあれも気に入るかもねぇ♪)
ネフィ 『君は関係ないんじゃないの?それとも何?この子(小猿)のお姉さん?だとしたら全然似ていないねぇ。。』
片や小猿、片や君で。。ホントに面白いったら。。
『なら、君がこの子の代わりをしてくれる?』ふふ。。。お人形さんにしてもいいくらい目の保養になるし♪
桂花 『〜っ!!』ゾワゾワゾワ。。。やっぱり自分の観察眼は外れていない。危険!さっさと終わらせてここから離れないと!
アー 『桂花は関係ないっ!』ふざけんなっ!こいつは柢王の恋人なんだから何かあってたまるかっ!
ネフィ 『もういいよ?あれが目を覚ましたら馬鹿女が謝りに来ていたといっておくから。』いい加減飽きてきたしねぇ。
でもそれなりのお礼はさせてもらうけど?クスクスクス。。小猿にはそれなりの。隣のきれいな娘にはそうだねぇ。。
あの件に使えたらいいのだけれど。。
アー 『!!』馬鹿女?こんなのがあいつの家族?世の中広しと言えどここまで言うとはなんて奴!
アー 『分かった!もういい!!もう知ったこっちゃねぇ!桂花帰るぞ!』桂花の手を引き病院を後にするのだが。。
新規事業提携で某デパートとの打ち合わせで久しぶりに上京してみれば弟が怪我をして入院したとの知らせが入った。
何をやってるんだか。あの弟は?よくよく聞いてみるととある事件に巻き込まれて怪我をしたとのこと。。
馬鹿馬鹿しい。愚弟とは言え一族の一員には変わりがなく、誤解と分かってはいても面白い訳が無い。。
痴漢呼ばわりしたその馬鹿女の身元を調べるよう命じた時、ちょうどその本人が現れたのである。。
そして本人が置いて行った身元証明をするものの控え。これで子猿本人に手を打てるし、
どうやらあの綺麗な娘は知り合いのようだからそこから割り出せばどうにかなるだろう。。独身なら言うことないよねぇ。。
クスクスクス。。今度こそあの弟をまとめて見せようか?で、後を継がせて私は楽隠居♪いい加減自由が欲しいものねぇ。。
(。。。なんか嫌な予感もするけれど?。。)さぁ、楽しいゲームの始まりだよ?
それから数日後、イベントモデルの話を力任せに桂花に持っていき、どうやら恋人がいるらしいと判明した時
SPを付けて桂花の監視をはじめたのである。。
ネフィ (せっかく見つけたお人形さんだしねぇ。。逃がさないよ?)クスクス。。
そして桂花の身辺に異変が起きた頃。アシュレイは会社に出勤と同時に上司に呼ばれ、別室で面談を受けていた。。
アー (今日の仕事はあの取材に行く準備をしてと。。。ん?呼び出し?なんだ?)
文殊先生 『アシュレイ君?。。君。。。いや。多分何も分かっていないだろうけど。。相手が悪かったといか言いようがないな。』
アー 『何がですか?』(。。。いやな感じだなぁ。。そりゃ、よく失敗はするぜ?短気だし怒りっぽいし。。)
文殊先生 『言いにくいことなんだが。。今日限り君は会社に来なくていいよ』
アー 『は?何故ですか!何かしたってなら理由もちゃんと言って下さい!納得できない事なら絶対嫌ですよ!?』
文殊先生 『君はただ巻き込まれただけなのは分かってはいるんだけどね。。』
アー 『だから何だってんだよっ!』言葉使いに地が出てくる。。
こんな時でもアシュレイはアシュレイ。ここぞとばかりネクタイを引っ張る。おいおいおいそれでは上司の首を絞めるんじゃないのか?
文殊先生 『っだっからっ。。ゴホッゴホ。。お前は私を殺す気か〜!』
事の真相は。。そうあの人。ネフィがアシュレイの会社に圧力をかけ、アシュレイを首にすれば良し、
出来なければ今後の取材をすべて出来なくするという。。小さな出版社。多方面に渡る仕事があるのにそれでは死活問題。
相手があれほどの相手では無ければいくらなんでもここまではしない。。すまないが諦めてくれ。。
そう言われてしまえば何も言えなくて。。ただ、ただ、会社を辞めるしかなかったのだ。。
そして冒頭に戻る。。。
時間がたって気持ちが落ち着いたアシュレイは明日から何をしようかと考えていた。。
アー (ん?部屋の中が暗い。。もう夕方。いや夜になってるのか。。随分散らかしちゃった。。片付けようか。。
あ〜あ。。せっかく今の仕事に慣れてこれから先頑張っていこうと思っていたのになぁ。。)しょんぼり。。
というより明日から何かと思うこと自体前向きな姿勢でいるアシュレイの良いところなのだが部屋の外から聞きなれた声がする。。
どうやら家族が心配してくれたらしい。ん?柢王の声もする?何でだ?
不思議に思って襖を開けると一家全員勢ぞろい。。あわてて用事がある振りをして各々の部屋に戻っていく。。
アー 『あははは。みんな心配してくれたのか。。というか柢王。なんでいるんだ?』
柢王 『あんまり心配かけんなよ?たまたまここに来たんだけどな。。お前の様子がおかしいからってひきとめられたんだって。』
アー 『そうか?悪かったな。。で?たまたま来た用事は終わったのか?』
柢王 『いや。。まだだけど。お前に頼みごとがあってさ。。また今度でもいいぞ?』
アー 『お?いいぜ?何があるんだ?珍しいじゃんか。。』
柢王 『〜実はな。。』
そして桂花もまた巻き込まれていたことを知るのだった。。
夕飯の支度をしている最中に勝手口からノックの音。
「ちわー、三河屋でーす。遅くなってすいません、ご注文の品もってきました」
どすんとビールケースに一升瓶が3本土間に置かれる。
きざみものをしていたアシュレイは声の主に目を向ける。かぶっているヘルメットから雫がぽたぽたと垂れているのを見て、雨が降り出したことを知った。
「ご苦労さん、アラン。えっ?雨降ってきたのか」
「はい、配達中に急に」
「ちょっと待ってろ」
パタパタとスリッパの音を立ててアシュレイは奥に入っていった。ガス台からは美味しそうな煮物の匂いがただよってくる。
1日に一回はこの家へ来ている。自分がこの町で働き出してからずっと親切にしてくれているお宅で、アランが密かに憧れている人が住んでいる家。
「ちゃんと拭け! 風邪ひくだろ」
ヘルメットの上からバスタオルをかぶせ、きゅっきゅっとアシュレイは拭き出す。
アランは、慌ててアシュレイの目前で手を振り、その勢いのまま拭いてくれている手首を握った。
「ありがとうございます。でもアシュレイさん、ヘルメットかぶってますから頭は濡れませんって」
「そっか?」
アランはアシュレイからバスタオルを受け取り、軽く上着に付いた雨雫を拭き取った。
アシュレイはじっとその様子を見ていたが、拭き終わったのが判るとアランからバスタオルを受け取り、肩越しに見える外の様子を伺う。
「結構降ってきたな、気をつけろよ、お前バイクなんだから」
「今日は、アシュレイさんのところで終わりなんです。あと、店に帰るだけだから」
「バーカ、降りはじめはすべるだろ。も少しで終わるんなら尚更気をつけねぇとな」
「そうですね」
自分の事を心配してくれるアシュレイににっこりと笑って「気をつけます」と言うと、アシュレイもニコッと笑ってくれた。
「じゃあまた、お願いします」
パタンと勝手口を閉め、雨の中急ぎ足でバイクへ向かう。
(今日は手首を握ってしまった)
雨の中、つい両手を広げ先ほどのアシュレイの感触を思い出す。
(あーあ、人妻じゃなきゃなぁ。田舎につれてって自分のお嫁さんにしてしまうのに)
出会ったのがちょっと遅かっただけ…。アランはぷるぷるっと頭を振りスーパーカブに跨った。
(毎日会えるだけ上等と思わないと…)
明日もうまくすれば御用聞きと配達で2度会えるかもしれないと、頭を切り替え店までの道を安全運転で戻っていった。
本日のメニューは肉じゃがと、アジの開き。ご飯を炊いて味噌汁作って… 後何にしようか思案していた。
横で李々が、夫:冥界教主の為の酒のつまみを作っている。
雨音はだんだん強くなり、台所に立っている2人の耳にもその音が聞こえるほどに激しく降ってきた。
「かぁさん、とぉさんたち傘持ってったかなぁ」
アシュレイは過去、ずぶぬれで帰ってきて家の中をびしょびしょにしたことがある父親の事を思い出し、心配そうな顔を母親に向けた。
「お父さんは持っていったはずですよ、私が強く言いましたからね」
「ふぅーん」
じゃあ、平気だなと夕飯の支度を続けたが、おもむろに台所においてある子機を持ち、悩むことなくピピピッと慣れた手つきで番号を押し出した。
数回コールすると、相手の声が。
『アシュレイ、どうしたの?』
「あのさー、雨降ってきたから、お前傘持ってたか聞こうと思って」
『えっ、雨?』
社内にいると気づかないのだろう、慌てて外を確認しているようだ。
「もし、持ってってないんなら、駅まで傘届けてやるよ」
『ホントに? 嬉しいなぁ。でも遅くなるかもよ』
「別にいい、駅に着く頃電話くれれば」
『ありがとう、じゃあ電話するね』
「うん」
プチっと電話を切り、母親にティアの迎えに行く事を報告。
何時に電話をもらってもいいようにアシュレイは夕飯の支度を急ピッチですすめた。
母も横で支度をしながら、自分も若い頃は……と、クスクス笑いながら思い出していた。
「いいですね、家の方 迎えに来てくれるんですか?」
横の席の山凍が、電話の対応を見てボソッと言った。
「ええ、雨が降ってきたので心配してくれたようです」
「新婚さんですねぇ」
ティアは軽くテレ笑いを浮かべ、さくさくと今日の分の報告書と次の見積もりなどの書類を片付けだす。いつもより進みがいいのは、さっきの電話のせいに違いない。
天気予報は微妙な状態だったが、会社のロッカーに置き傘をしているから何とかなるだろうと思って、家から出る時は傘を持ってこなかった。
こんな風にアシュレイが気遣ってくれるとは思いもよらず、ティアは嬉しくて頬の肉が緩みっぱなしだ。
気分を引き締めようと、喫煙ルームに向かう。吸うわけではない、コーヒーでも飲んで落ち着こうと思ったのだ。
仕事中にこんなデレデレしていてはいけないと、軽く頬を叩いて気合を入れるが、先ほどの電話の声が耳に残っている。
誰もいない事をいい事に携帯電話をパカッと開く。待ち受け画面には結婚式直前のウェディングドレス姿のアシュレイの写真。
「愛してるよ、奥さん」
早く仕事終わらせるから迎えに来てね と、小さな声で囁いた。
柢王 『迎えに来た 桂花。』
後ろでは柢王に倒されたSP達。うめきながら身動きをとれずにいる。一体何人のSPを倒したのか?
ステージの真正面に向かい 桂花に向け手を差し出す。まるで王のごとく輝くオーラを身にまとい桂花だけを見て。。
協力者がまさか柢王本人だとは思っていなかった桂花は呆然とステージ中央に立ちつくす。
桂花 (まさか?本当に?)でも嬉しくて、信じられなくて。。
『何故 ここに来たんです?』それでも出てくるのは憎まれ口。可愛くない。嫌われたくなどないのに。。
柢王 『自分のものを奪り返しに来て何が悪い?』近づいて来るのは愛しい男(ひと)。
一歩。もう一歩。見えるのはお互いだけ・・周りの事など分からない。
まるで映画のワンシーン。誰も口を開かない、聞こえるのは観客の息継ぎの音。それすら分からない無音の世界。
桂花 『私は物扱いですか?』震える声。期待なんかしてないしちゃいけない。
(顔をあわせる度に冗談しか言わなくて。。本心を見せたりしなかったくせに!)
柢王 『俺では嫌か?それとも他の優しい男がいいのか?』(自信などあるわけがない。。)
桂花 『ふざけないで!誰が嫌だといいましたか!!』(ずるい男!)
この数日会えない日々がどれだけ辛かったかこの男には分からないのに違いない。
柢王 『なら 俺を選べ!』(頼むから!)
桂花 『〜っ!』どこまで不遜な男!こらえた涙。もう止まらない。心は彼に捕らわれたまま吾の元に戻らない。
柢王 『桂花?。。俺と一緒に年を重ねていってくれないか?』もう遅かったのだろうか?初めて見せる不安げな声。
とうとう重なる手と手。。伝わる温もり。
桂花 『喜んで。。』 (やっと言える。。) すべての答えをこの言葉に込めて。。
その瞬間周りが音を取り戻す。誰もがこれを演出としか思っていない。まさか本当にプロポーズしているなど誰が思うだろうか?
柢王 『やっと 捕まえた。。』ささやくように言われた言葉。
桂花 『。。ばか。。。』 俯いて顔をあげられない。もうどんな顔になっているんだろう?
後ろから1組のペアが近づいてくる。中央2人に花嫁役が両手に抱えてきた花びらを振りまくと中心に桂花の笑顔。
すれ違いざま花婿役が2人に声をかける。
ティア 『逃げるよっ!』 笑顔のアシュレイとティア。楽しげに手を取り合って走りぬけていく。
また1組のペアが近づいてくる。まだ見詰め合う2人。
桂花 『私は走れません』笑いながら自分の足を見せる。なぜか花嫁衣装には不似合いなかかとの低いパンプス?
柢王 『ん?』なぜそれを今言うのだろう。。『は!!』マジか?嬉しさに驚きながら
『定番っちゃぁ、定番だがな!』(世の中の野郎ども!こいつは俺の花嫁だ。ざまぁみろ!)
花嫁役を抱き上げて堂々と退場していく。。なんて大胆なステージか。
誰も花嫁を奪いに来たとは思わない。イベントは好評のうちに幕を降ろすのである。
ネフィ 『やってくれるじゃない。』観客席で見ていたけれどまさかここまで面白い事になるとは。はっ!バカばかしい。
ひとめ見て気に入っていたのに。これならティアのも断らないだろうと思っていれば予想に反してあの小猿?そういえば昔から
あの弟の好みは自分と正反対だった。でも、諦めたわけじゃない。。どうにか次の作戦を練ろうかな。。
ネフィ 『小猿にはとっくに手を打ってるしぃ。ティア?お前には不利だよ♪』
(誤解を解かない限りお前はあの小猿に好かれないだろうねぇ。)クスクス。。
しかし役に立たないSP達。これらが付いていたから小猿がそばにいるのを黙認してきたのに。。考えが甘かったね。。
あの時真っ直ぐに怒鳴り返してきた小猿。もしもティア?もしもお前があの娘を捕えることができたなら今度はちゃんと認めてあげる。
その日がちゃんときたらだけれど?。。
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