投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
コトコトコト…
なんだか体がフワフワ飛んでいるみたい。
パタ…パタパタ…
雲の上?それとも波に漂ってるのかな。
もう少し・・・・・このまま・・・・・
スー…
ふわっ。
(あ、いい匂い)
「アシュレイ」
「ティア、起きてたか。めし食うか?お粥持ってきたぞ。」
「うん…そうだね…食べるよ。」そう言いながらティアが布団に肘をついて起き上がろうとする。
アシュレイは慌ててティアの背中を支える為に右手を添えグイッと押し上げると、今度は左手をティアの額に当てた。
「ああ、熱だいぶ下がったな。」アシュレイの厳しい顔つきが、くるっと柔らかい表情に変わる。
だがすぐにまた睨むようにティアを見ながら、「まだ今日は休めよ。会社には連絡しとくから。」と言った。
ティアはなぜか嬉しそうに「わかった、そうする。」後はよろしくね、とアシュレイに微笑みかけるのだった。
ガラガラ…
「・・・・−」「・・・・・・・」
深い海の底から体が浮上するように、ティアの意識は覚醒していった。
(いつの間にか眠っていたのか。)
「?」誰かの気配を感じたような気がしてティアが目を開けると、ちょうど部屋の入口が閉まったところだった。
すると廊下の先からアシュレイの声が聞こえてきた。
「こらアラン、シャーウド、勝手に部屋開けるな!ティアが目覚ますだろ!」
どうやらアシュレイの弟妹が学校から帰ってきて、この部屋の襖戸を開けたらしい。
「ごめんなさい、姉さん。ティア兄さんの風邪どう?良くなった?」
「ああ、熱も下がったし、もう大丈夫だ。お前らは早く手洗え。母さんがホットケーキ焼いたぞ。」
わーという嬉しそうな声が遠ざかっていく。
やがてティアもまた静かに眠りについていった。
しばらくしてまたティアが目を覚ますと、今度は視界いっぱいにストロベリーカラーが拡がっていた。
「…どうしたの?」
「ん?母さんが様子見て来いって。」
「じゃなくて、なんで笑ってるの?」
「それはこっちのセリフだ。お前なんかいい夢でも見てたのか?俺来たときスゲェ口の端上がってたぞ。」
「ああそれはね、見てたんじゃなくて感じてたんだよ・・・・・」
「何を?」きょとんとした顔でアシュレイが聞くと、
「君たち。それにこの家。」そう言うとまたティアは笑う。
「…ふーん?」なんだかよくわからなかったけど、ティアが楽しそうだったので、つられてアシュレイも微笑み返した。
「明日は会社に行くよ。もう大丈夫。でも」そう言うとティアはアシュレイの手をぎゅっと握って目を瞑る。
アシュレイは黙って手を握り返し、もう片方の手でティアの髪の毛をずっと撫で続けた。
その手があんまり優しくて、髪を撫でられながらティアはうとうとし出す。
なんだか柔らかいものが唇に触れたような気がしたが、これも夢なのかな、そう思いながらティアは意識を手放した。
「ティア、今帰りか?」
仕事を終え最寄り駅で電車を降り、愛しい妻の笑顔を思い浮かべながら足取りも軽く家路を急いでいた背後から、聞き慣れた声に呼び止められた。
振り返るとそこにいたのはアシュレイのいとこ・柢王。
「柢王か。駅で会うのは久しぶりだな」
「このところ残業続きでな」
今日からしばらくは太陽の出てるうちに帰れそうだ、と笑う男につられティアもほほえむ。
「そういえば、最近どうだ」
「どうって何が?」
「アシュレイだよ。うまくやってんのか?」
「もちろん。アシュレイはいい奥さんだよ」
朝食用の味噌汁を吹きこぼれるほど沸騰させたり、あじの開きがぼりぼりとスナック菓子のような音が出るほどこんがり焼いたりという、まだまだ家事に不慣れなところもティアにはいとおしくてたまらない。それらすべてが自分のための努力であるところも。
ティアがプレゼントした、レースのたくさんついたエプロンをつけて家事に奮闘するアシュレイの姿を思い出だけでくすぐったいほど嬉しい気持ちと、夫婦になれたのだという実感がこみ上げてくる。
「でも、いろいろあるだろーが。同居じゃなかなかイチャイチャできねーとか」
ネフィーさんはともかくチビどもの前じゃな、と豪快に笑う柢王は妻の桂花と一人息子の冰玉の三人暮らし。
冰玉が生まれる前は二人暮らしだったが、最近は桂花がどうしても冰玉を優先するし「教育上よくない!」と怒られるので結局柢王も以前のようにはイチャイチャできないのが実情なのだが。
「どうだ、久しぶりに一杯」
「そうだね……軽くなら」
よっしゃ! と嬉しそうに笑った柢王は行きつけの駅前にある赤ちょうちんに足を向けた。
まずはビールを軽くあおりながら落ち着いた二人。
お通しの枝豆をつまみながら柢王がふと思い出したかのように口を開いた。
「そういや、こないだチビに小遣い借りたんだけど、桂花には秘密な」
「……って、小学生に!? 何を考えてるんだおまえは」
チビからお前辺りにバレそうだから先に言っとくわ、と言う柢王にティアは唖然。
チビとはアシュレイの弟。
利発な少年で柢王とは仲がいいのは知っているが、よりにもよって。
このところつきあいが多くてさ〜とあっけらかんと笑う柢王に呆れつつ、察しのいい桂花のことだからもう気付かれているかもしれないぞ、とは思うが敢えて口には出さない。
「千円貸してくれー、給料が入ったら利息つけて返すから、って言ったら快く貸してくれたぞ」
「子供に変な知恵つけるんじゃないよ……」
呆れかえりながらもこの気のいい男は初対面から印象は悪くなく、親戚というよりは自分の友人としてのように付き合えている。
アシュレイにもその家族にもなんら不満はないが、親戚という内側の存在ながら外でこんな風に何気なく話せる存在がいるのは実にありがたい。
「ところでティア、おまえ会社に弁当持って行ってるんだって?」
「よく知ってるね」
桂花が言ってたぜ、アシュレイが毎日頑張って作ってるらしいって、と柢王が笑う。
「愛妻弁当かー、いいよな。俺は外に出てることも多いし弁当は持って行けないからな〜。やっぱり海苔や桜でんぶでハートマークとかなんだろ?」
「いや、さすがにそれは……」
からかうように言ってきた言葉を苦笑しながら否定する。
義父の山凍の分も一緒に作っているのでハートマークはないが、出来合いの弁当を買ってきたり、外に出て食べていた頃と比べれば昼食が楽しみなのは事実。
(……早く会いたいな)
最近はさすがに慣れてきたものの、結婚前や結婚当初は料理のたびに傷を作っていた妻の顔が思い出されてたまらなくなる。柢王には悪いが、今日はもうこれくらいで帰ろう。すぐに帰れば皆と一緒に食事がとれる時間には帰宅できるだろうし。
「柢王、悪いけどそろそろ……」
ティアが言うと同時に、携帯の着信音がピピピピピピ、と鳴った。
「ん? メールだ。なんだ?」
柢王が胸元のポケットから携帯をとりだしてメール画面を開く。
「えーと……『帰りにスーパーで冰玉のミルクを買ってきてください。あと、忘れているでしょうけど今日の夕飯はあなたの好きな茶碗蒸しです。片付かないからできたら早く帰ってきて』?」
妻からのメールを読みあげながら柢王の頬がゆるんでいる。
仕事中、無性に茶碗蒸しが食べたくなってメールでリクエストしておいたのだ。冰玉のミルクは日曜日家族で出かけた際に買ったばかりだから、まだ買わなくても間に合うはず。ということは。
「素直じゃねーな」
言えばいいのに。寂しいから早く帰ってきて、って。
「……帰ろうか」
ほほえましさにつられて笑顔になったティアが、携帯を見つめる柢王に声を掛ける。
「そうすっか。よし、帰りにケーキでも買っていってやろ」
「それじゃうちも買っていこう」
きっと久しぶりのケーキをアシュレイも喜ぶに違いない。
「おやっさん、わりぃけど月末までツケといてくれ」
「またか〜? しょうがねえなおまえは。ケーキ買う前にうちのツケを精算してくれよ」
立ち上がり、椅子の背に掛けておいた背広に再び腕を通しながら店主と豪快に笑い合う柢王に、思わずティアは目を見張る。こんなことばかりしているから桂花に金遣いが荒いだのなんだのと怒られてしまうのだ。まったく。
「……今日は私が払うよ」
「そっか? わりいな、ティア」
ごちそーさん、とあっけらかんと笑う柢王に、苦笑するしかないティアだった。
「……これは?」
「土産のケーキ。好きだろ?」
差し出された箱を受け取りながら、桂花は思わずため息をつく。
全くこの男は。
冰玉をあやす背中を見やりながらとりあえずケーキを冷蔵庫へ。
「小学生にお金を借りるような人が、よく買えましたね」
「あ〜……ありゃでもすぐに返したぞ。つか、なんで知ってんだ?」
「知りません。食事にしますよ」
「怒るなよ」
「怒ってません」
「じゃあ、あとで一緒にケーキ食おうぜ♪」
「…………今度やったら、お小遣い減額ですからね」
左腕に冰玉を抱きかかえ、右手で桂花の左手をきゅっと握ってきた男を見上げながら、再度ため息をついた桂花であった。
再び新婦控え室。
コンコンコン。。。ガチャ。
入り口にいるスタッフと着替えを終わらせているのか入っても良いのかどうかを確認し入室するティア。
スタッフに何か頼み事を指示して出て貰っている。
ティア 『用意はできましたか?会場に行く前にお願いがあるので聞いて頂きたいのですが。
それとご一緒におられるアシュレイさんにも。。っ!?』
突然名前がでてびっくりしているアシュレイ。だけど見覚えのある顔?というより忘れられる顔なんかじゃない!
桂花・アー 『あっ!』
ティア 『いちごちゃん!?』
アー 『お前〜っ!この前の痴漢野郎!!って何が いちごちゃんだ!』
真っ赤になるアシュレイ。思わず出た言葉が間違っているのは気が付いていたが思いあたる(いちご)に過剰反応気味。。
桂花 『アシュレイ、痴漢は違いますよ。あの時は吾も側にいたでしょう?もしかして今日の新郎役の方ですか?
お願いとは何でしょうか?って何2人とも赤くなっているんですか!?』
(そういえばあの時も『いちご』に反応していた。。何故?)
桂花が分からないのも無理はない。側にいたと言えど本当はたまたま通りかかっただけだし騒ぎがほぼ終息してからだから
知っているのは結果だけなのだ。。
電車の中で痴漢にあっている女の子を見るに見かねたアシュレイは止まった駅のホームで犯人らしき人を引きずりおろし
駅員に引き渡そうとした。しかしその隙をみて犯人は逃げ出した。逃がしてたまるかっ!と追いかけるアシュレイ。
ホームから階段を駆け上がり追いついた犯人と乱闘騒ぎに発展。犯人に蹴りでとどめを入れようとしたらやはり場所が場所。。
自分が足を踏み外し数段下にいたティアを巻き込みながらころげ落ちていった。
アー −−−ごめんっ!大丈夫か!?ってなにすんだよ!!
偶然とは恐ろしい。下敷きになったティアの上。。よりによって可愛い小柄のイチゴパンツが彼の正面に丸見えだったのである。
一方ティアといえば軽いとはいえ成人女性1人を受け止めつつそのまま階段下まで落ちれば無事でいる訳がない。
アシュレイがティアになにかしら言っているのだが思考が働かずただ真っ赤に表情を変えるアシュレイが可愛く見える。
そしてしっかりイチゴ模様が目の裏に焼きついたティアはその顔に間抜けにも一筋の鼻血。誤解するなというのも無理というもの。。
アー −−こんの変態!!(。。バチン!!)
真っ赤になりつつ反応するが彼がまったく関係ない事に思い出すも時すでに遅し。誤解されたまま張り倒され気を失ったのである。
しかしよほどイチゴが強烈だったのだろう。気を失っても何度か小さく『イチゴ』とつぶやいていた。
それを聞いたアシュレイ。相手は怪我人にもかまわずにまた拳骨で一撃。。いくらなんでもやりすぎである。
今度こそ撃沈状態のティアにしまった!と首根っこ掴んで前後に揺らすが気を失った人間に何をしても無駄というもの。。
これでは一体どちらが被害者でどちらが加害者なのだか。(いやこの場合加害者はどちらでもないのだが)
アシュレイの頭の中は真っ白になってしまったのでる。。
遠くから階段をころがり落ちる様子を見かけた桂花は、アシュレイがすぐ下の人を巻き込んで落ちていったのも見えていた。
夕方のラッシュの人だかりをかき分けなんとか側にたどりつけば顔面蒼白で放心状態のアシュレイと横たわった見知らぬ男が1人。
騒ぎを聞き駆けつけた駅員と警察に分かるだけの事情を説明しその時の騒ぎは落ち着いたのだが。。
どう考えても無関係の人間を巻き込んでいるはずなのに何度この真相を聞き出そうにもアシュレイは絶対言おうとしないのだった。
ティア 『痴漢は誤解だと思うけど?。ええと。。いちごは可愛くて君にお似合いだった。。から。』
桂花 (何も律儀に答えなくても)。。なんとも。。ため息。。
ますます赤くなるアシュレイ。。
アー 『似合いって言うな〜っ!!!』(こいつには2度と会いたくなんかなかったのに!)
涙目になりながら怒鳴り返すもだんだん声が小さくなる。。表情がころころ変るアシュレイを見ていて飽きないのはなぜなのか。。
ティア− (やっぱり、あの時思った通り。。この娘、表情が良く変わる。。この娘なら。。この娘だったら私の願いが叶うかも
知れない!あの兄が相手では普通の神経ではもたないだろう。。)
桂花 『本当に2人とも!?時間がないのではありませんか?』いい加減急いで欲しいと思いながら桂花が言う。
はっと思い出しティアがアシュレイに向かい
ティア 『あらためて言います。私と結婚してくれませんか?』
アー・桂花 『は!?』(何をいいだすんだ!?)
ティア 『あ。もちろん振りで構わないのです。このままでは桂花さん?貴方と婚約発表になりかねなくて。。
会場に行けば協力者がいますからタイミングを見計らってその方と一緒に逃げて下さい』
桂花 『アシュレイはどうなるんです?そのまま置いては行けないですよ?』
ティア 『こちらも時期を見計らって会場から逃げ出します。どうも実家が絡んでいるようですから花嫁役が違うなら
イベントの発表はしても婚約発表にはならないはずです』
アー 『本当に?絶対大丈夫だな!?』
ティア 『はい。もし婚約発表になっても実家がもみ消すと思います。というより普通のイベントで終わるでしょうね。』
絶対に大丈夫だと言い切るティアにこの数日柢王と桂花の事をなんとかしてやりたくて、でも出来ずにいたアシュレイは
アー (一体こいつは何者なんだ?これだけ大掛かりな事をする程の。。ああ、する奴だな。。)
信用できると思えないのにその手に乗っていいのか悩むアシュレイ。しかし時間が迫っているからもたもたしている場合ではない。
しぶしぶ承諾したアシュレイは予備にあった花嫁衣裳に着替えるのである。。
予備とはいえさすがにこれは純白ではない。どちらかというと代役用に用意してあった丈の短いワンピース?のような赤いドレス。
なぜか最初からアシュレイにあしらえた様にサイズもぴったり。桂花用に用意されていたらまず着れなかっただろう。
なりゆきとはいえ、ウェディングドレスを着れたアシュレイはほのかに微笑み照れながらどうかな?とティアに向き合う。。
でもやはりティアの顔を見ると何かを言いたげに顔を曇らすのだがあまりの可愛さに見とれていたティアはまだ気づかない。
ティア (かっ。可愛い!!やっぱりこの娘をお嫁さんにしたい!)決定的瞬間というべきなのだろうか?
顔を合わせるのも2度目、相手の人柄も知らないのに自分の人生設計にアシュレイの存在が組み込まれたのである。
桂花がモデルに決定したと聞いた時柢王はすごく焦っていた。
某デパート一番の美人で知られている桂花は会社内外にファンが多い。
桂花自身はどんな男性が言い寄ってきても無視を決め込み
あまりにもしつこく無礼な男には自分の身を守る為に覚えた護身術で
片っ端から撃退している。
武術にも長けて知性もあるから並の男では太刀打ちできないのだ。
しかしモデルの話が出た時から会社側が桂花にSPを付けていたせいで
最近はデートはおろか顔を合わせることすらままならない。
前回のデートでプロポーズはしたもののまだ返事をもらっていないのだ。
そこにきてモデル?桂花の花嫁衣裳は俺が用意するに決まってるだろうがっ!
でも何故、桂花なのだろうか。たしかに賢くてあれだけの美貌だから
選ばれる事事態はおかしくは無い。だが桂花は何度も断っていると言っていた。。
今の状況になっているのは会社というより社長命令があった為らしい。
おかしい。いくらなんでもたかが一社員にここまで強要するものか?
そして昨夜とうとう今の状況になった原因がわかったのだ。。
柢王 ーーなんだってこんな事になっているんだ?
ティアーー君が荒れるなんて珍しいね。どうしたの?
行きつけの飲み屋。たまたまカウンターで2人並んで飲んで何かの弾みに意気投合、
その時のあまりの楽しさに味をしめ時々一緒に飲む約束をしている。
今日はその約束の日だった。。
柢王ーーいや。。俺の桂花のことなんだが。
どうも会社で妙な事になっているようなんだ。。
今度の新規出店のレデイース部門の総責任者になって
張り切っていたんだがメインイベントのモデル候補にあがって
辞退する権利がまったくないらしい。
本来ならそんな重要なイベントならプロを雇うなり
有名芸能人を呼ぶなりするだろう?いくら人気があるといっても
素人にってのがおかしい。。
ティアーーそれもそうだね。。辞退も出来ない?
柢王ーーそれなら最悪退職でもと掛け合ったんだが出来なかったらしい。
今じゃ何かあったら困るとSPが四六時中張り付いている。
SPが付くんだぞ?ただの一社員にだ!
おかげでデートどころか話はおろか顔も見れやしねぇよ。。
ティアーー強引な。。あれ?君の恋人、どこのデパート?
柢王ーーー某デパート。
ティアーー。。。もしかしてこれと関係しているかもしれないーーー。
花嫁役控室でアシュレイが憤慨している頃
桂花の控え室の真向かい 新郎役控室。
ティア(遅い。柢王!)
ほぼ用意が終わりもう出番が来るだけになっているのに肝心の柢王の姿がない。。
このままでは自分が新郎役として出るしかなくなってしまう。
柢王が間に合わなければ自分は雲隠れすればいいのだがそれでは
桂花が大恥をかく事になりかねない。何も彼女をそんな目にあわせたい訳ではない。
ダダンッ!控え室の扉を騒がしく開け駆け寄ってくる。
柢王『悪い!あいつらを撒くのに時間がかかった!』
ティア『あいつら?何?』
柢王 『ここ最近ずっと俺についてまわる奴がいやがる。』
(何もしてこないから放っておいたけどさすがに昨夜の動きは変だった。)
今日は朝から姿を消しにかかっていたのだがそれでもずっとつけられていたらしい。
ティア『それで遅れたの?もしかしたら心当りあるかも。
それよりこれに着替えて!』
柢王は慌てて衣装に着替える。直後廊下の様子が騒がしくなってきた。
−−誰かここにこなかったか?
ーーいや、来ていないっ!
−−まだ近くにいるかも知れないぞ。
−−探せ!−−
柢王 『多分それで当りだ。で、お前はどうするんだ?』
テイア『私?一応このあと花嫁に挨拶するよ?
まったく挨拶しないのも不自然だし説明くらいしておかないと。。
会場で君と入れ替わったら私はそのまま消えるから、
すべて終わったら君達もうまく逃げるんだよ?』
柢王 『ああ。そもそもこの事態の発端は何なんだ?って兄さんだよな?』
ティア『うん。巻き込んで済まない。実家が関係していると思う』
テイアの実家は大阪の資産家なのだが代々事業を手広く行っている。
東京の某証券会社で働く事で実家から離れたいティアに
年齢的にもそろそろ落ち着かせ家業の一部を継がせようとしているのだ。
ティア(仕事もそうだけど。結婚相手くらい自分で見つけたい。)
甘い考えだろうけど男なら自分の稼ぎでお嫁さんを幸せにしたいのだ。
(何も不自由なく育ててくれた事には感謝する。。
だからといってなにもかも言いなりになってたまるか!)
前回の電話で母が倒れたと聞いた時、心配して帰郷したティアの目の前にいたのは
日本中から集められた資産家のご令嬢たち。。つまりお見合い相手だったのだ。。
−−ネフィ『このなかかから気に入ったお嬢さんとデートしておいで♪』
ーーティア『そうしたらそのまま結婚まっしぐらですか!?冗談じゃないっ!
私は自分の結婚相手くらい自分で見つけます!
家は兄さん、貴方が継げばいいっ!』
そう言い、実家を飛び出した。
このあとちょっとした事件が起こるのだが。。。
ティア(本当に手の込んだ事をする。。
某デパートの新規出店のイベントにかこつけて大掛かりのお見合い?。
いや婚約発表になりかねない。。一体どこから手を回したのだろう。
いくら大阪で手広く事業を展開しているとはいえ、
都内に大型百貨店を出せる相手とつながっていると思う訳が無く。。
関東に進出して事業を始めようとしているのだろうか。。
お見合いにことごとく失敗してきた実家はどにかうまくまとめたい、
ついでに新しく興す予定の事業提携に某デパートと手を組んだ時
一石二鳥とばかりデパートの看板娘、桂花に白羽の矢が向けられたのである。。
ティア『ほんとにすまないね。着替えは終わった?さて、行くよ?』
柢王 『え?2人とも?まずくないか?』
ティア『うーん。。多分花嫁役は1人じゃないからね。。』
柢王 『はぁ?』
ティア『だから実家の策略。というより兄が・・というべき?
花嫁は4〜5人はいるかも知れない。へたをすればもう少し多く。。
それなら新郎役が1人増えても分からないでしょう?』
柢王『なんんつーー』絶句。。
(そこまでするとはどんな兄なんだか。できるだけ関わりたくねぇぞ。)
−−ネフィ−−まだ見つからない!?
ーーもう時間がないよ!だったら近づけないでくれればいい!?
ーーじゃ。あとは宜しくね。ティアが逃げ出さないようにして。
外の騒ぎの声に兄の声を聞き取ったティア。
ティア (やはり兄さんが!。。それでは逃げ出すのが難しいかもしれない。。)
『今更だけど、もうひとり協力者が欲しいかな。。』
思わしくない顔をするティアに
柢王 『それなら、アシュレイに頼むか?たしか桂花と一緒にいるはずだし』
ティア 『誰?信用できるの?今から呼べる?
というより彼女に迷惑じゃないのかな?』
柢王 『俺の従姉妹なんだ。桂花にSPがついてからの連絡は
あいつが間を受け持ってくれたからな。。』
テイア 『じゃあ、話は早いね。かく乱に協力してもらおうか。』
柢王 『色々迷惑をかける。いつか俺の手が必要になったら必ず呼んでくれ。
このかりは必ず返すからさ。そういやお前のタイプってどんなだ?』
ピタリと歩みを止める。
ティア 『うーん。別に多くは望んではいないよ?
健康的で笑顔が可愛くて。。ずっと一緒にいたいと思える子、かな?』
(さらに言うならこれからの人生笑って幸せに生きていければそれでいい。
少し前にあった子。。あの子が元気で可愛かったな。。。
名前も分からないけど、できたらもう一度会いたいかも。。)
ティア 『。。。いちごちゃん。。』さらにぼそっと一言。。
柢王 『いちごちゃん?それが名前か?』
テイア 『それは違うっ!名前が分からなくて。。そう呼んでいるだけだからっ』
柢王 『そうか?じゃ、あとで探してやっから特徴教えろよ?』
ティア 『そうだね。。そういう手もあるね。あとで宜しく。。
さて予定変更、君は裏から会場にまわって?
場合によっては桂花とそのまま逃げてくれてもいいよ。
大丈夫だね?必ず来るんだよ!』
柢王 『ああ。俺は一度窓から出るか。会場でまた会おう!』
ティア (この部屋までたどりついたんだ。。彼ならうまくやれるはず。。
どうか無事に会場までたどりついて!)
コンコン。
アー『桂花。用意は出来たか?』
お邪魔するよ とアシュレイが顔を出す。。
控え室の中央 純白のドレスを着た桂花が椅子に座りベールをつけるところまで用意をしている。
アー『うわぁ♪綺麗じゃん!』
その声に花の様に微笑む桂花。つられてアシュレイも微笑んだ。
今日は 桂花の働く某デパートが都内に大々的に新規出店し
有名デザイナーによるウェデイングドレスと
ジュエリーアクセサリーの合同発表会を開催する事になっている。
桂花はその目玉のドレスとティアラを付けた花嫁役の一人なのだ。。
桂花『あの方は?』
アー『あいつ?まだ見てないな。』
桂花『。。そうですか。。』
アー『あ、出番までには絶対見に来るといっていたぞ!取材そっち抜けで!』
微笑みが消え 曇り顔を見せた桂花にアシュレイは大慌てで励まそうとするが
桂花『いいえ。。来られないのなら仕方ありません。
お仕事を放り出す様なことをして欲しい訳でもありませんし。』
そう言いながら桂花だって年頃の女性。
ウェデイングドレスは愛する男性(ひと)の為だけに着たいもの。。
仕事でやむをえないとはいえせめて一番最初にこの姿を見て欲しかったのに。
アー『でも、もしかしたら来ているかもしれない。絶対顔だすって!』
アー(柢王なにやってんだよ!もうすぐ出番が来ちまうじゃんか!
絶対行くと言ってたのに!)
Powered by T-Note Ver.3.21 |