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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.133 (2007/07/16 21:40) title:天真慈義(後)
Name:花稀藍生 (p1030-dng27awa.osaka.ocn.ne.jp)

 
 南の太子が重傷を負ったことは天界にすぐ広まった。ティアは守護主天として自ら南領
に赴き、手光でその傷を癒すことを天主塔から打診したのだが、当のアシュレイが頑とし
てティアの治療を拒んだのだった。
 ・・・それから一週間後。関係者以外面会謝絶の状態から、寝台の上に起きあがれるよう
になったアシュレイへの見舞いの許可がようやく下りた。
 それを待ちかまえていたティアは、同じように待っていた柢王を誘って天主塔より見舞
いの一団を仕立てると南領へ飛んだ。
「急がば回れだよ、柢王。」
 こんなでっかい一団を仕立てて飛ぶよりも、直接二人で南領に会いに行く方が早いと
柢王は最後までごねたが、天界最高の貴人である守護主天本人とその見舞いの品を掲げた
一団は、先に到着していた並み居る天界中の貴族の見舞客達を押しのけて、一番最初に通
されることとなったのを見て、「なるほど」と納得した。

「魔風窟に行ってたことな、ティアにずっと前からバレてた。」
 人払いされた部屋に入って来るなり開口一番そう言った柢王の言葉に、寝台の上のアシ
ュレイはあんぐりと口を開けて柢王とその隣に立つティアを見た。
「傷はもういいのか?」
「・・・傷は、まだ痛む?」
 柢王が見舞いの品である小さな卓上遊技盤、ティアが柔らかな色彩の香りはさほど強く
ない花束を寝台の上に置いた。 あんぐりと口を開けたままのアシュレイは、ようやく我
に返って何か言おうとし、結局何も言えずに、こっくりと頷いた。
 頷いた形のまま、なかなか顔を上げようとしないアシュレイの赤毛に指を突っ込んで
ぐしゃぐしゃとかき回したのは柢王だ。
「・・・もういいだろ。教えてくれよ、アシュレイ。」
 柢王の指が離れると、アシュレイは一旦顔を上げ、どこか泣き出しそうな表情で柢王と
ティアの顔を見た。 
 何かを言いかけ、結局言えずにまたアシュレイはうつむいた。掛け布を握るその指は白
く変わっている。
 そのアシュレイの様子に、出直した方がいいかもしれないなと二人が視線を交わした時、
アシュレイが小さな声で、とぎれとぎれに言った。
「・・・・・俺が、嫌だったんだよ。 ・・・お前が人にひどく言われるのは、嫌だったんだよ。
だって、・・・俺をかばって出来た背中の傷なのに、・・・それを知らない奴らにその傷を見ら
れた時に、・・・お前が、・・・・・お・・・臆病者・・・って言われるのなんかさ、嫌だったんだよ」

 ・・・背中の傷は、敵に背を向けて逃げた―――つまり臆病者の証としてみられるのだ。

「・・・あの時、俺に出来たことは、ティアにお前の傷を優先して治してもらうこと・・・、
傷そのものを無かったことにしてもらうこと ・・・それだけだったんだ。 
・・・・でも、俺のわがままのせいで、ティアまで―――・・・」
 自分のせいで傷を負わせてしまった柢王。 彼がその痛みに耐えるのを見るくらいなら、
自分の傷の痛みを我慢した方が、まだいい。
 自分のわがままのために力を使い果たしてしまったティア。二度とそんなことはさせら
れない。それなら自分の傷の痛みを我慢したほうが、まだいい。
「・・・だから、俺・・・・・・・・」
「そうだったの・・・・」
 彼が背中の傷に異常なまでにこだわったわけがようやくわかった。
(柢王の名誉のため)
 そしてアシュレイが城で倒れた後も、頑としてティアの手光を拒んだ理由も。
(私の体調を心配して、無理させないために・・・)
 だからアシュレイは一人で黙って傷の痛みを我慢していたのだ。
「・・・・・ばかだなあ」(×2)
 柢王とティアが、同時に言った。
「何で一人で全部背負い込もうとするかな〜?俺の入る余地を残しとけよ。お前は。」
「私がやりたくて勝手にやったことに、どうして負い目を感じるかなあ。君は。」
 そんなこと、どうでも良かったのに。
 生きているなら、それでよかったのに。
 どんな傷も、いつかは消えるものなのに。
「・・・でも、ありがとな」
「心配してくれて、ありがとう」
 柢王とティアが笑って言うのに、アシュレイは顔を上げた。その顔は赤くなっている。
言うまでもなく怒っているせいだ。
「・・・馬鹿って・・・・・」
 本人にとっては大まじめな、ものすごく深刻な告白だったのだ。それを「ばか」の一言
(しかも二人同時)で片づけられてしまったのである。
「でも、やっぱおまえは ばかだな。 そんなことを考えて闘ってたら、命がいくつあっ
ても足りやしないっての。 ・・・逃げてもいいじゃねえか。 つーか背中見せて逃げたのは
事実だしよ。―――だいたい「逃げる」なんて直裁的な言葉を使うから耳ざわりが悪いん
だ。「戦略的撤退」や「戦術的後退」って言う便利な言葉を知らねえのか?」
「言葉で飾ったって同じだろーが! つーか、バカって連呼すんなーっ!」
 にやにや笑っている柢王に掴みかかろうとするアシュレイを、ティアが必死になって抑
え込もうとしている。
「敵わない相手と闘い続けたってこっちが殺されるだけだろーが。・・・まったく、ホント危
なっかしいヤツだよ。・・・やっぱ、俺がついててやらないとダメだな」
「勝手に話を まとめるんじゃねーよっ!」
 アシュレイが見舞い品の遊技盤をつかんで投げようとするフリをすると、柢王はおどけ
て後ろに下がって顔をかばうフリをした。後ろに下がった拍子に椅子にぶつかった柢王の
剣帯が派手な音を立てた。アシュレイがハッとして手を止める。
「ああ、新しく作った剣帯だ。 なかなかいいだろ?」
 柢王の腰に巻かれた真新しい剣帯に吊られた剣は、シンプルな革製の鞘に収められてい
た。 しかし剣自体の拵えが立派なだけに、違和感が目立つ。
「・・・・・あのな、柢王。こんな事を言ったら怒るかも知れねーけど、俺の知り合いにスゲエ
腕が良い刀工がいる。おまけに性格も底抜けに良いヤツだから、俺の無茶も多分聞いてく
れると思う。・・・だから、俺の出世払いでも許してくれると思うから・・・ 
その、もしよかったら・・・」
 再びしゅんとして言葉を継ぐアシュレイに、柢王は笑って首を振った。
「何でもかんでも背負い込むなって言ってんだろ。―――意地でも取り返すさ」
「・・・魔風窟も魔界も広いぞ。見つけられると思うか?」
「俺が武将になりたいって言ったときに、親父から貰った剣だ。・・・何でも双子が作った剣
らしくてな。兄の刀工が刀身をその弟が鞘を精魂かけて作ったという超・業物らしいぜ?
 本来二つで一つであるはずのものが、離ればなれになったんだ。 きっと互いに相方を
呼び寄せてくれるだろ」
「そう言うことなら、俺も腹を刺された恨みがあるから、その話乗った! 
けど、リターンマッチするにしても、あの魔族の鞭みたいな腕はやっかいだぞ。目と勘の
鍛錬をし直さないとまた返り討ちにあっちまう。 あ、そうだ柢王。俺の武術指南を二人
ほど見繕って多方向から鞭で攻撃してもらおうぜ」
「いや、鞭というより節棍だろ。アシュレイ、お前多節棍の使い手に知り合いいるか?」
「多節棍ねえ・・・。う〜〜ん、姉上の武術指南のヤツがそーゆーの得意だったかも・・。
・・・ていうか、そのテの変な形でエゲツない使い方をする武器ってのは、ほとんどが東国産
だろ。お前こそ知り合いいねーのかよ?!」
「武具の輸出量天界一は南領だろーが。てめーがそれをいうか。 ・・・う〜ん。天界は平和
だから、達人ってのは意外に少ないんだよな・・ 」
「・・・・・・・・君たち。あんな目にあったのに・・・・。―――全っ然 懲りてないね?!」
 今まで二人の会話に口を挟むことが出来ずに黙って聞いていた、「平和な天界」の守り手
である少年がくら〜い声音で言った。
「あったり前だろ」(×2)
 アシュレイと柢王が同時に振り向いて言った。
「懲りたけど、止めようだなんて思ってないぞ。・・・しかし何でバレてたんだよ? まあ、
バレたもんはしょうがないから、今度から魔風窟に行く時はお前にも言うことにする」
「深追いしすぎたのがいけなかったんだよな、あれは。今度から時間をきっちり決めてや
ろうぜ。―――なにしろ、治療も心配も一手に引き受けてくれるお目付役ができたからな。
これでもう、安心して大手を振って魔風窟に出かけられるってもんだ。な?」
 な?と笑って柢王に肩をポンと叩かれたティアは、ふるふる肩を震わせながら、思わず
二人が後ずさるほど厳しい瞳で、キッと二人を睨み付けた。そして
「・・・二人とも無茶ばっかり無茶ばっかり無茶ばっかりして!―――もう知らない!心配
なんか絶対してあげないから―――っ!」
 ―――と、珍しいまでに桃色に上気した顔色で、叫んだのだった。
 ・・・しかし実際のところ、無茶をしたという点なら、ティアも同じだろう。
 天主塔の執務室の遠見鏡で魔風窟の入り口で彼ら二人が倒れるのを見ていたティアの、
現場に到着するまでが異様に早かったその訳は。
「・・・それが何にも覚えていないんだよ」
 何と小鳥に変身して鏡の道を通ったというのだから。 しかも当の本人は無我夢中でや
ったから、どうやったかなど一つも覚えていないため、次は出来ないと言うし、聞いて青
ざめた二人も、二度とそんな危ないことをさせる気はなかった。

 ・・・・・・・・・・。
「ティアのヤツ、そんなこと言ってたのか・・・」
 魔風窟の暗い通路を柢王と歩きながら、アシュレイは呟いた。
 ティアと柢王がアシュレイを見舞ってから1か月が経っている。回復期に入れば霊力が
それを後押しするから、傷の治りも早い。 常人よりも強い霊力を持つアシュレイは次の
一週間後には苦い薬を嫌がって王子宮じゅうを走って逃げ回るほど回復していた。
 今、柢王の隣を歩くアシュレイの足取りには何の不安もない。
 ・・・あの一件で、アシュレイと別れた後の柢王とティアが交わした言葉を、アシュレイは
今、柢王から聞いていたのだ。
 ティアに魔風窟行きがずっと前からバレていたことを教えられた時は心底驚いた。しか
しそれ以上に安心した。・・・もうこれでティアに嘘や隠し事をしなくていい事が嬉しかっ
た。・・・アシュレイにとっては、その事のほうがずっと心苦しかったからだ。
「自分のため、守りたいもののために、か。そう言えるあいつは十分に強いと思うけどな。」
「・・・うん」
「俺も大体のところは同じ考えだ。 ・・・でも、俺の場合はそれだけじゃないんだよな。
ティアみたいに綺麗じゃない・・・何というか、言葉だけじゃあらわせない・・もっと深くて熱
いどろどろしたモンが原動力になっている気がする。 ・・・お前は?」
「・・・俺?! ・・・・・俺、は―――」
 突然聞かれて考え込みかけたアシュレイが、ふいに全身を緊張させて小さな声で言った。
「・・・前。右側奥に、複数の気配がある」
「おーおー。ホント勘がいいよなお前。・・・ま、そんじゃ手っ取り早くやって戻るとするか。
あいつが心労でぶっ倒れるその前に。」
「まったくな。・・・どっちが先に行く?」
 すでに彼らは戦闘態勢に入っている。頭の中から余分な事が削り落とされてゆき、体が
熱を孕んでゆく。
「見つけたお前に、復帰戦も兼ねて先攻を譲る。」
「わかった。」
 アシュレイが先に立って足を踏み出し、ふとティアのことを考えた。きっとティアには、
この先の光景は見せられない。綺麗で強いあいつには。
「・・・1。」
 ここから先は、自分たちの領域だ。 美しいものなど 一つもない 場所。
「2。」
 ・・・・・綺麗じゃなくていい。
 綺麗なものを守るために強くなりたいのだから。
「3。」
 血と泥にまみれても、武将になりたいと思っているのだから。
「4。」
 きっと自分も、柢王と同じようにどろどろした熱いものが原動力なのだろう。
 アシュレイはふっと笑って前を見た。
 ・・・けれど、それが冷えて固まったら、宝石に成るかもしれないじゃないか?
「5!」
 ―――そして二人は同時に地を蹴った。


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