続・曼珠沙華〜四章〜
「嘘だろっ」
ティアは桂花に起こったことをアシュレイに説明する。
「残念ながら嘘じゃないんだ。桂花の今現在の記憶は焼き切れてしまって、どうやら子供反りしてるみたいだ。柢王のことも分かってるのか? 分かってないのか・・・」
「俺のこと、李々って・・・」
「ああ、柢王から聞いた。彼女は桂花を育てた赤毛の女魔族だって」
「女あぁ!!魔族だとぉー!!」
アシュレイは激昂する。
「アシュレイ落ち着いて。柢王が戻るまで眠らせておこうと思ったんだけど・・・。でも頭痛がするみたいだし薬は使えないなぁ
・・・。参ったなぁ〜仕事は溜まってるし西国の視察もあるし」
ティアは頭を抱えた。
「・・・どうすんだよ、あいつ」
「視察は延期してもらうよ」
「そんな簡単に延期できんのかよ?」
「できるよ。私の我儘ってことで・・・」
「駄目だっ!駄目だーーー!!山凍以外、ウチのおやじも東も西もおまえが若輩ってだけで舐めてかかってんだぞっ。延期なんかぜーーーーったいにすんな!!」
「――でも、柢王に頼まれてるし」
「あのバカめっ」
「いや、任せろと言ったのは私だった」
「バカはおまえだっ!!」
がっくり肩を落とすティアにアシュレイは大きな溜息を一つつくと顔をあげた。
「俺があいつを見ててやる」
「ええーーーーーっ!!」
驚くティアに「今回だけだからな」とアシュレイは顔を背ける。
ティアが見下される以上に嫌なことなどアシュレイにはなかったのだ。
「それしか食わねぇーのか?」
桂花を眠らせることもできず、外に連れ出すわけにもいかず。
仕方なくアシュレイは使い女に頼んで食事を運ばせた。
桂花は柔らかな優しい表情をしている。
柢王にはこんな顔をして接しているのだろうか。
だからか自然とアシュレイの態度も優しくなり、世話まで焼いている始末。
桂花の更に料理をとってやるアシュレイを使い女達は呆然とながめていた。
「がっかり〜〜。てっきり守天様のお相手だと思っていたのに」
「でも守天様のお相手よりもアシュレイ様と桂花様が御一緒の方が見る甲斐があるわよっ」
「そうね。一緒にお食事されてるなんてーー」
「・・・」
「あら、あなたドチラに?」
「あのっ、お茶替えに・・・」
「ズルイわっ。あなたさっき行ったじゃない」
「次は私が・・・」
使い女達の間では壮絶なバトルが繰り広げられていた。
食事を終えた二人は何げにバルコニーを見る。
一羽の龍鳥が結果に弾かれては向かい、向かっては弾かれている。
「冰玉っ」
とアシュレイは外に出、冰玉を衣に入れ戻ってきた。
桂花は冰玉を初めて見るように遠くから眺めている。
「あれっ、こいつ足に何かつけてる」
冰玉の足には小さな包みがくくられていた。
解いてやろうとアシュレイは悪戦苦闘するもの解けず、見兼ねた桂花が手を差し出した。
冰玉の足からスルッと包みをはずす。
アシュレイの了解をとって桂花は包みを開く。
中には銀色の粉がぎっしりと入っていた。
その粉に触ろうと桂花が指を伸ばした時、冰玉が嬉しそうにパタパタとツバサをはためかした。
粉が舞い上がる。
銀色の粉の落ちる様子をスローモーションのように感じ、どこかで同じ情景を見たなと桂花は思う。
桂花の腕が強く引かれる。
その手を桂花も握り締めた。
意識が薄れていく。
「不覚だ。ティア、柢王ごめん」
同じく粉を吸い込み意識が薄れたアシュレイはせめてケガをさせないようにと桂花を引き寄せ寝台までたどりついたのが最後の記憶だった。