続・曼珠沙華〜二章〜
「それで三日も眠ったままなんだね」
ティアの言葉に柢王は頷いた。
あれから目覚めない桂花を心配して柢王はティアの力を借りにきたのだ。
「とにかく診せて、そこに寝かせて」
長椅子に桂花を寝かせるよう指示する。
眠る桂花の額に手のひらをかざす。
ティアの手のひらがポウッと光り桂花の中に吸い込まれていく。
少しして桂花の瞳が開かれた。
「桂花」
ティアがそっと声をかける。
桂花は眉を潜めて怪訝そうにティアを見つめる。
「桂花!!」
待ちきれないかのように柢王がその横から腕をさしのべる。
桂花は瞬時にその手を払いのけ怯えたように身を引いた。
「おい、どうしたよ」
桂花は後退りながら不審そうに柢王を見つめる。
しばらく見つめ続けていたが、やがてくすんでいた紫の瞳が光りを取り戻したように透きとおり始めた。
「・・・ていおう?」
柢王が頷くと安心したように桂花は肩の力を抜き嬉しそうに語りかける。
「髪、短いね」
「――――!?」
柢王が答えないのをまったく気にせず今度はティアを見つめる。
「だれ?」
「・・・・」
「――――」
柢王、ティア共に無言である。
「李々は?そうだ俺、李々を探していたんだ」
「李々って・・・・!」
「俺―――――――?」
柢王とティアは同時に声をあげ、顔を見合わせた。
ティアは黙って首を横に振った。
意味不明ながらも自分のことは認識していることに少なからず安堵した柢王は、桂花を安心させるため口を開いた。
「ティアは俺の仲間だ」
「仲間?」
「ああ。李々はあとで一緒に探してやるからちょっと待ってろ」
優しく言うとティアを促し部屋を出た。
「柢王、あれって・・・」
「ああ、すっかり記憶ねーみたいだな」
「それに退行しているようだね。まるで10の子供みたい。それにしても何でおまえは分かるんだ?」
「あたりまえだっ!!」
忘れられてたまるものかと柢王。
「それより、どうするつもり?」
「うーん、とにかく連れて帰る。状況次第で力を貸してくれ」
何気なさを装う軽い口調で返すものの結構きてるなとティアは思う。
「何かあったら知らせてくれ、いつでも構わない」
「ああ、悪いな」
部屋に戻ると桂花は落ち着かない様子で辺りを見回していた。
そんな桂花を柢王は優しく微笑み抱き寄せる。
「行こう」
「・・・どこに?」
「――ん、李々を探しにさ」
頷いた桂花を抱え柢王は窓から飛び立った。
それから数日後、柢王は又しても桂花を連れ天主塔にきていた。
「行って、調査して、帰るのに三日だな」
不機嫌そうに柢王は口を開いた。
人界での緊急事態で休暇中の柢王に出動要請が出たのだ。
こんな時に…と無視しようとしたものの遠見鏡でその様子を見たティアが柢王の立場を心配し桂花を預かると申し出た。
「仕方ないさ。おまえは元帥なんだから。桂花のことは心配しないで」
言って、今度は警戒心丸出しの桂花にティアは優しく笑いかける。
「桂花もそんな硬くならないで」
桂花はじっとティアを見てコクンと頷いた。
柢王が人界に向かった頃、桂花は薬で眠らされていた。
急の事態にも対処できるようにと秘書の時に使用している部屋ではなくティア自室の隣が割り当てられた。
部屋には厳重に結界が張られ、信用できる数人の使い女以外は知らされていない。
強力な薬を使ったから当分は目を覚ますことはないだろうとティアは仕事のたまっている執務室に戻った。