チルドレンズ・パニック(1)
年の瀬も迫った12月末。今日は都内某ホテルの一室で『今年もお疲れ様! 来年もがんばろうね! 忘年会』が行われていた。
仕事で遅れる予定のメンバー以外は、すでにつつがなく宴会をはじめていた。
ころが、始まって一時間も過ぎた頃みんなに異変が起きていたのだ。
それは・・・。
今日の宴会にお呼ばれされなかった(なんせ悪役だから)冥界教主と、仕事が終わらずどうしても今日は参加できなかったが「僕だけのけもの!?」と不満げな悠と、「絹一の小さい頃が見てみたい!」というレイママの3人の陰謀であった。
宴会開始の直前に従業員のフリをした手下を使って、全員のドリンクに冥界教主特製『冥界印のチッチャクナ〜レ!』なるものを入れておいたのだっ!
その若返りの薬の効き目は個人差があるものの、効力は2〜3日ほどで元に戻るらしい。
一樹・卓也・柢王・香・ギルはあまり効かなかったらしいが、それでも13歳くらいまで縮んでしまっている。
忍・桔梗・アシュレイ・桂花・絹一・ルカは5歳くらい。
ほっぺたなど思わず指で突つきたくなるほどプニプニしていて、全員攫ってしまいたいほどプリティである。
最初はみんな戸惑ったものの、今ではすっかり開き直ってしまった年上組と遊びたい盛りのちびっこ達は、かたや走り回る元気者もいれば、かたやちびっこハーレムを作り、やりたい放題やっているものもいる。
すでに宴会場というよりも、プチ保育園(?)と化している。
「!」
バイトですっかり遅くなった二葉と、入り口で合流した、こちらも仕事を放っぽって駆けつけたらしい慧嫻と共に宴会場の扉を開けた瞬間、思いきり戸惑う。
目に飛び込んできたのは、たくさんの子供の姿。
年齢差はあるが、見目麗しい子達ばかりである。大人の姿は見えない。
広い会場を所せましと子供達が遊んでいる。
(あれ? この部屋じゃないのか。)
てっきり会場を間違ったと思った二葉と慧嫻が、踵を返して出ていこうとすると背後から少年の声が呼び止める。
「こらっ。どこ行くんだ? 二葉。慧嫻。」
声のした方に振り返ると、何人かの子供達と遊んでいた中学生くらいの子が自分達の方を見ている。
(なんだぁ? 俺に子供の知り合いなんていねぇぞ。しかもコイツ、人のこと呼び捨てにしやがって。生意気だぜ。)
内心、ぶつぶつ言いつつ、その子をよく見てみると・・・。
なんと小さい頃の一樹にそっくりではないか。
二葉は思わず
「兄貴・・・? なわけねーか。」
とつぶやく。
一樹に似ているその子は、フフフッと怪しげな笑みを浮かべながら言った。
「当たり。俺だよ、二葉。一樹だよ。」
「「ええっっ!!」」
二葉と慧嫻は同時に叫ぶ。
「なんだよっ、どうしたんだ? その姿は・・・。」
と二葉。
「ほっ、本当に一樹なのか・・?」
と慧嫻。
「気がついたら何故か、ここにいるみんながこの姿になっちゃってたんだよ。」
一樹はこんな状況なのに動揺すらしていない。余裕の態度だ。
「って、兄貴! そんな落ちついてる場合じゃ・・・。それに忍や桔梗達は・・・?」
二人はあわてて一樹の方へとかけよる。
「だってしょうがないじゃない。心当たりなんてないし、原因がわからないもの。でもみんなピンピンしてるし可愛いし、いいんじゃない? ほら、ちなみにこの子が忍だよ。でこっちが桔梗ね。」
おひざだっこしていた忍を二葉に預け、桔梗を抱き上げると周りの子供達の説明をはじめる。
「この子が絹一くんで、こっちの髪の長い子が桂花。でそっちの子がルカだよ。」
すでに忍に夢中になってしまった二葉はアウトオブ眼中なのか、一樹は慧嫻にむかって天使のように愛らしい笑みを浮かべている。
「ねぇ、慧嫻。この子達の面倒見るの、手伝ってくれない?」
子供の武器である可愛さを全面に押し出している。
その可憐な笑顔に心臓を貫かれた慧嫻はもはや文句などあろうはずもなく。
小悪魔一樹にいいように翻弄されてしまっている。
一方二葉は。
忍のぷくぷくほっぺやクリクリの目、どこもかしこも小さくてキュートな身体を眺めつつスキンシップにいそしんでいる。
傍から見れば、ただの危ないお兄さん・・・、いや、・・・変態である。
あまりの可愛さに『なぜ小さくなってしまったのか』『どうしたら元に戻るのか』などの問題は、とうの昔にどこかへすっとばし、彼の頭の中はただいま脳内妄想炸裂・驀進中である。
(ちなみにその内容はというと、『ちっちゃい忍とお風呂編』とか『ちっちゃい忍と添い寝編』とか『ちっちゃい忍と-以下略-』とか。エンドレスループである。・・・欲望に忠実な男、二葉・フレモントである・・・。)
「ふたばぁ。あれっ! あれっ!」
ふいに、きゅっと抱きしめていた小さな身体がテーブルの方へ腕を伸ばす。
「ん? どした?忍」
どうやらのどが渇いているらしい。
忍をひざの上に乗せたまま、二葉がオレンジジュースの入ったグラスを持たせてやると両手で持ち、満足そうにコクコクと飲んでいる。
「忍、これも食べるか?」
皿の上に飾ってあったサクランボを口元まで持っていくと、パクっと頬ばる。
(くぅっっっ!! 可愛いぜっっ、忍!!)
ぺっと、サクランボの種を吐き出した忍の口元をおしぼりで拭いながら、二葉は脳内妄想その1をためしにお願いしてみる。
「なぁ、忍ぅ。俺のこと、二葉お兄ちゃんって呼んでみな?」
忍は二葉を見上げて小首をかしげると、少しはずかしそうに二葉のお願いを口にした。
「ふたばっ、おにいちゃん?」
二葉は無言で幸せを噛みしめる。
ぐりぐりと忍に頬ずりをしながら、心の中でガッツポーズをきめている!
妄想一つ目の達成である。