チルドレンズ・パニック(2)
バタバタと畳の上を走り回るアシュレイ達につきあっていた柢王は、ティアが会場に入ってくるのに気付くと片手をあげる。
「よっ! もう、仕事片付いたのか? 意外と早かったな。」
「柢王! どうしたの、その格好。みんなもなんか小さくなってるし・・・。仕事は桂花がいないから、はかどらなくて切り上げてきたよ。そうえいば、桂花の姿もみえないけど・・・。」
周りを見回しながら歩いてくるティアに、柢王は肩をすくめる。
「さぁ? 気付いたらコレだ。どうなってんだろうな? 俺の力も使ってみたけどダメだった。」
そう言うと柢王は、卓也と香のいる方へ、慎吾達と一緒に走っていくアシュレイをはしっと捉まえると、ほいとティアに渡す。
「その辺空いてるだろ? 適当に座っとけよ。俺は桂花つれてくる。」
柢王が桂花のお迎えに行ってしまうと、ティアはアシュレイを抱えたまま自分の席に腰をおろした。
「アシュレイ〜。疲れたよ〜〜。」
アシュレイの肩に頭を乗せ、ふぅと小さくため息をつく。
アシュレイは、ポンポンとティアの頭を軽くたたいてなぐさめている。が、そのいたわりの仕草に感激したティアは思いきりその身体を抱きしめて頬ずりをする。
「ティアッッ! 恥ずかしいからやめろ〜〜っっ!!」
舌足らずな喋り方で抗うアシュレイはさすがに真っ赤になって、むにっとティアの顔を押し返しながら、ジタバタともがく。
けれど、そんな姿もティアにとっては思いっきりツボである。
無駄な抵抗だということに気付いてないのはアシュレイ本人だけだ。
「まぁまぁ。結構みんな似たようなことやってるから気にしなくっても大丈夫♪」
「離せってば! ティア〜〜ッ!!」
一進一退の攻防戦をかわしている二人だが、このままだとティアの執念勝ちになりそうだ。
(すぐに元に戻る気配なさそうだし、後で一緒にお風呂でも・・・。あ、添い寝なんかもいいよね〜。)
そしてまた、脳内妄想炸裂中の男が一人誕生した。
(何が原因かは知らないけど、最悪の場合は私の力でみんなを戻せばいいし、アシュレイ可愛いし、もうちょっとこのままにしておこうっ。)
仕事あけの疲れた身体に、予想もしてない事件が起こってもなんのその。
思いがけず、ちっちゃいアシュレイと過ごせることで、結構なハイテンションの守天様であった。
柢王は、一樹達のそばで固まってお絵書きをしている子供達の横までくると、ポンと桂花の頭に手をのせる。
「桂花、ちっとはみんなと仲良くなったか?」
そのまま桂花の髪を優しくなでながら聞いてみる。
丁度、花の絵を描いていた桂花はちらっと隣の絹一の方を見たあと、柢王を見上げて少しはにかんだような笑顔でうなずく。
「へえ。絹一と仲良くなったのか。良かったな」
優しく笑う柢王と桂花のやり取りを、絹一が少しうらやましそうに見ていた。
そうしてしばらく子供達につき合っていた柢王だったが、お腹も膨れさんざん遊んだせいで、今度は眠たくなってきている桂花の様子を見てとり、そろそろ移動しようと後ろを見る。
すると、それまで子供の面倒を見ていた一樹が、今は慧嫻にかまわれていて完璧に二人の世界だ。
とても割り込めそうにない雰囲気なので、仕方なく誰か他のやつに頼もうと卓也と香の二人を呼んで交代する。
「桂花、あっち行こーな? 静かな方が眠れるだろ?」
「ん。」
眠い目をこすりながら、桂花はギュッと柢王の手を掴む。
柢王は桂花の手を引きながら、ティア達より少し離れた壁ぎわに座った。
警戒心が強い桂花が安心して眠れるようにとの配慮である。
桂花を抱きあげて、背中を軽くポンポンと叩く。
人がたくさんいると眠れない桂花が、睡魔と必死に戦いながら不安げに瞳を揺らす。
「ていおう・・・。」
愛しくてこのまま強く抱きしめたい衝動に駆られる。それを押し殺したまま、桂花の頬に手を添えると、コツンと額をぶつけてささやく。
「大丈夫。ずっと俺がついてるから。心配すんな。」
桂花を安心させるために髪や肩をしばらくなでていると、ようやくすうすうと寝息が聞こえてくる。
大人の寝顔も美麗だが、子供姿の寝顔はまだあどけなくとても愛らしい。
穏やかな寝顔を見つめながら柢王は思う。
(くっそー。カメラ持ってきとけばよかったぜ! ちっちゃい桂花の寝顔なんてすげー貴重じゃねーか。誰か持ってるやついねーかな?)
と、周りを目で探しつつ、運良くカメラを発見した柢王は小声でティアを呼ぶ。
「おーい、ティア。ティアっ! ソイツちょっと貸してくんねぇか?」
とても都合が良いことに、何故か今日はインスタントカメラ持参で出席していたティアにカメラを貸してくれと頼む。
柢王は素早く数枚の写真を撮ってしまうと、ほくほく顔だ。
やっぱり類は友を呼ぶ!? どうやらこの人も脳内-以下略-に片足をつっこんでいるらしい・・・。
柢王が桂花の写真を撮っているのを見たティアも、あとで私達も一緒に写真撮ろうね! とアシュレイにせまっていた。