暑気払い〜part2〜
ボトルごとチャージしたバーボンをお先にと柢王は一人あおっていた。
先ほど店内を一周したもののアシュレイの姿はまだ見当たらない。気付のビールで喉は潤った。あとは好みの酒で存分楽しむつもりだ。
噂で聞いたものの好い店だ。女性入りの時は一人で来ようと思いながら辺りを見回す。
幾つなのだろうか。年の読めない美青年に自然と目が留まる。
「チッ、危ねーな」
舌打ちをし立ち上がるとボトル持参でその青年の隣に身体をすべりこませた。
「あんた、待ち合わせか?」
ストレートだが人好きするような顔で訊いてきた男に、一瞬戸惑ったものの絹一は素直に頷いた。
「俺も人待ちだ。それまで一緒に飲まねーか?」
好感の持つ言い回しだったからだろうか、人見知りの激しい絹一だったが気が付くと自然にオーケーを口にしていた。
「それじゃあ、これも何かの縁だ。乾杯といこう」
柢王はグラスを二つ取り上げ手持ちのバーボンを注ぐ。そして、その一つを絹一に差し出した。
軽くグラスを合わせ二人はバーボンを喉に流す。
「やっぱり、一人で飲むより美味しいですね」
透き通った頬を少しだけ赤く染めて絹一が呟く。
そんな様子を見ながら『危ねーよ、その艶が』と柢王は心で呟いていた。
「早く連れが来るといいな」
それから二人は当たり障りのない会話をポツポツ始めた。
「あなたのご職業は?」
自分の仕事内容を軽く説明した絹一は興味深そうに柢王に訊ねた。
「ん〜、てっとり早く言やぁ警備ってとこ。パトロールってやつかな」
「・・・それは大変なお仕事ですね」
絹一は社交辞令で返す反面『こんなハンサムなのに警備員だなんて、世の中不景気続きなんだな』などと考えていた。
「いや、仕事より俺としちゃカミさんに会えない方が応えるんだけどさ」
「単身赴任なさってるんですね」
絹一はしたり顔で答えながらも警備会社にも転勤があるんだとボンヤリ思う。
「もう、数年も帰ってないんだぜ」
と柢王はため息を一つつく。柢王にとって天界の三日と少しが人界の一年なのだが、勿論そんなことなど知らない絹一は目を見開いて驚いている。
「数年も家族に会えない警備員。まるで昔の防人のようですね」
「ああ、あいつらね。よく慰めたもんだ」
まるで知り合いのように柢王は返す。
「同僚のことですね」
絹一はそれを比喩表現と受け取ったようだ。
「いや、慰めたのは妻たちの方」
「・・・・は!?」
絹一は目をぱちくりした。
が、ボトルの減り方を見て酔ってるんだと強引に思い込む。
「ま、この御時勢。仕事があるだけでもいいのかもしれませんね」
と丸くまとめ柢王が空にしたグラスに酒を満たしてやる。
いつもは面倒見てもらう立場の多い絹一は珍しく廻ってきた世話を焼く立場に満喫しきっていた。
遠見鏡には仲睦ましげに酒を酌み交わす二人が映し出されている。店内の音響のせいで柢王達の会話は聞こえてこない。
その二人を瞬間冷凍させるかのような視線で見つめている桂花にティアは怯えつつも声をかける。
「そっ、そろそろ仕事に戻ろうかっ・・・」
振り返る桂花の凍てつく視線の余波を浴び、一瞬ティアの集中力が逸れる。と同時に遠見鏡の画像も少しずれた。
その画像を見ながら桂花が静かに口を開いた。
「守天殿のお待ちかねの方がいらっしゃったようです」と。