暑気払い〜part1〜
この所、彼は拗ねていた。
仕事といえどもたまには連絡くらいくれたっていいじゃないかと。
人界に下りてしまえば鉄砲玉のごとく飛び回るアシュレイを思いティアは深いため息をついた。
だが今日はアシュレイの居場所を掴むことに成功した。
ちょっと汚い手は使ったものの手に入れた利益は大きい。
遠見鏡の前に立つティアの頭には、もはや少しの罪悪感も残っていなかった。
時は2005年
場所は島国日本。東京、六本木。レンガのビルの地下にあるクラブ『イエロー・パープル』
本日はイエロー・パープル月一恒例のゲイナイトデー。
アシュレイと同じく人界パトロールに下りている柢王が暑気払いと称してアシュレイを誘い、女ぐせの悪い柢王に『女のいない店なら』と条件をつけ此処で落ち合う約束をしたのだった。
遠見鏡に『イエローパープル』が映し出される。
「えっとアシュレイはーーーーと・・・」
ティアはまるで自分がアシュレイと待ち合わせをしたようなワクワク気分で店内をグルッと見回す。
開店したばかりだというのに店の中は活気に溢れている。まだ、アシュレイも柢王も来ていないようだ。
下界の店の様子一つ一つがティアには珍しく興味深く眺めていると一人の青年の姿に自然と惹きこまれた。
年の頃は二十代半ばごろだろうか。
色素が薄いというより余り日差しに当る生活をしていないのだろう。象牙色の肌に柔らかそうな茶色の髪の毛。男にしては線の細い綺麗な青年だった。
隣には、これまたハンサムな金髪青年が寄り添い魔法のような言葉で美青年の反応を引き出している。
その一言に照れたように俯き、困ったように首をかしげ、悔しそうに唇を噛み締める。その初初しい表情をしばらく見つめティアはポンと手を叩いた。
「そうか、昔のアシュレイを彷彿するんだ」
昔のアシュレイは可愛かったなぁ〜。勿論いまも可愛いけれど。。。アシュレイが知ったら激怒するような自分勝手な回想にふけるティアだった。
「忍!?どうしたよ」
「何かさっきから誰かに見られているような気がして・・・」
「斜め上からかぁ?」
呆れたように二葉が返す。
「変だよねぇ」
首を傾げる忍に一瞬でニヤッと浮かべたいたずらな微笑を隠し真面目な顔で二葉が切り出した。
「いや、俺が最近読んだ本じゃそれって自分を見て欲しいというメッセージだそうだぜ。ほっとくと危険だ。今日はもう帰ろう!!」
「・・・なんで?」
「そりゃ、治療が必要だからさ。その本には治療法がバッチリ載ってたし。早速、帰って試そう!!」
「・・・試すの?」
「・・・とにかく善は急げだ」
二葉は引っ張るように忍を立たせ、凄い勢いで出口に向かって行った。
「守天殿。またしても悪い病気が出たようですね」
執務室の重い扉を開けて桂花が姿を現し、メッと激をとばす。
「・・・悪かった」
シュンとして遠見鏡を消さそうとしたティアに「待ってください!!」と桂花の制止の声がかかった。
桂花の視線をたどり遠見鏡を覗き込むとアダルトムード漂う二人連れが映し出されていた。
その一人が柢王であることは言うまでもない。