梅雨の季節
君が好き 誰よりも好きそれは誰にも負けない
でも…君はどう思ってる…?
「は、」
短いため息が何かにつけてこぼれる。これで今日何回目だろうか。ティアは会いに来てくれないイトシビトを想って泣き出しそうになる。最近、気を抜くとすぐこれだ。
「アシュレイ…君今何してるの?」
溜まりに溜まった書類の中に突っ伏して、つぶやく。口に出すと余計に寂しさが込上げてきて思わず涙目になる。
「こんっっっなに、想ってるのに…」
一体何が足りないのか…想いを伝えてしまってからというもの、アシュレイは一緒にいても困ったような顔ばかりでちっとも、恋人らしくない。
「昔のほうがきっと、私たちは好き合っていたような気がするよ」
またぐしゃっと涙腺がゆるむ。
「アシュレイ〜…」
「でっけえ独り言。」
「同感です。」
「て、柢王ッ! 桂花!」
いつの間にか入って来たのか大量の書類を抱えた二人が立っていた。守天塔から飛んでしまったのを拾い集めてきたのだ。
「お前危機感無さ過ぎ。今襲われたらお前絶対死んでるぞ。」
「そうですね。しかもあの独り言は…」
「使い女に聞かれてたら、即日天界のうわさになってたぞ?」
「柢王〜」
気の置けない親友の出現にさらに気が緩む。
「おいおい、何だよ。お前も弱ってんのかよ」
柢王は、親友の弱り加減に呆れながらも受け止めた。
「…一体私のっ何が気に入らないって言うんだっっ!!」
ティアは溜まりに溜まっていた、一週間分の不満をぶちまけて涙をぬぐった。
「もう、一週間も触れてない…。禁断症状で何するか…」
そうして、どこを見ているかわからない眼で低くつぶやいた。
「あ、アブねえ…」
半ば引き気味に桂花に振り返った。桂花もぎこちなく同意する。放って置けば、発狂しかねない勢いだ。これは早期解決を目指さねば、一つのカップルどころか、天界そのものが危うい。
「そ、そういや、さ」
柢王は気をとり直し、今回の本題に入らせようとした。
「アシュレイぶっ倒れたらしーな」
「ええっ!?」
出来るだけなにげなく言ったつもりだったがティアの反応は大きかった。まるで天変地異でも起こったかのような動揺の仕方だ。あえて彼が来たことを伏せたのは、二人の問題だと思ったからだ。
「何だ? 知らなかったのか?」
「知らないよっ! 何時っ!? なんでっ!? 知ってたらすぐにでも治療しに行ってるよ!」
「そ、そ、そうだよな」
柢王は、ガタガタと揺すられながらも心から同意する。
「で、どうされるおつもりで?」
「行く。」
「公務放ったらかしで、ですか?」
「…桂花。そ、それは…」
やはり優等生。いくら進んでいなくともサボることには抵抗があるようで、しばらく迷った挙句顔の前にパンッと手を合わせる。
「お願い。」
「…はぁ。これだもんな…」
「本当にも〜…。」
そうは言いつつも、二人は顔を見合わせて微笑む。
「ありがとう。二人とも」
「今更じゃん?」
「今更です」
そう聞くと、いそいそと仕度をし始める親友の様子を見て柢王はなんともいえない複雑な表情をした。これだけ一生懸命に想って居る彼に、先刻の話をしていいものかと。
「なぁ、」
「なに? 柢王」
アシュレイが倒れたと聞いてあれほど動揺していたのに、会えることへの期待が勝っているのか心なしか血の気が戻っている。
「あのな、ティア」
言うべきか、言わぬべきか。柢王にとっては、アシュレイもティアも大切な友人。できればどちらも傷つくことなく幸せになって欲しい。特に今まで擦違い続けていた二人だから、これからは、皆で、桂花も加え、ふざけあって、笑い合って…そうありたい。だからこそ…。
「アシュレイは、アシュレイなんだぞ。守ることが全てじゃない。あいつと、しっかり話して来いよ。」
ティアはしばらく、驚いたような顔をしていたが、ふっと表情を和らげた。
「うん。ありがとう。」
優しい、優しい友人達。やはり、自分達のためにも、彼らのためにも。はっきりしなければ。ティアは二人に後を任せ、南領へと急いだ。