投稿(妄想)小説の部屋

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No.547 (2005/03/17 14:40) 投稿者:Mp

梅雨の季節

「はぁ」
 今この胸を痛ませる考えに、思わず溜息が出た。オーバーヒートしかけた頭を、少しでも冷やそうと雨にうたれに出たというのに、結局城に居た時と同じことを考えている。
「お前は、ずっとだったかもしんねえけど、俺は急にだったんだぞ…」
 自分を悩ませる原因の人物を思い浮かべてアシュレイは再び溜息をついた。最近になってようやく関係を修復した、上品に凶暴な親友は、自分のことを好きだと言った。無論アシュレイ自身もそうだった。けれど、彼の言う好きと自分の好きは少し違う気がしていた。思いを告げてからの彼は自分の何もかもを知りたがった。初めは、離れていた間をすこしでも早く埋めたいからなのかと思っていたが、そうではないようだった。なにかにつけて自分のやることに干渉して、危ないから、怪我するからと、少しでも危険があると知ると阻もうとした。まるで幼い子供を守る母親のように…要するに過保護がなのだ。
「…いい加減やべーかも」
 降りしきる雨のせいで、服が水気を含んで体にまとわり付いている。それ以上になんとなく体が重いその上まずい事に熱っぽい。立ち上がろうとも考えたが、肌に降る雨が自分のことをあやすように心地よくて、このまま打たれておけば熱も下がるかも…などと後で思えば馬鹿な事をやってしまった。

「…?」
 少し外の空気を吸いたくて桂花は買い物がてら街に出ていた。ふと見慣れた色を雨の中に見つけ、目を疑った。
「…猿?」
 この辺りで一番大きな木の下に、天敵である南領の王子アシュレイが座り込んでいた。いつものような荒々しさが無く、ひどく弱々しげに見えた。いつもならば自分から彼に近付か無い桂花も何か、その異様さにひきつけられる様に近付いた。
「…そんなところで寝るつもりか?濡れ猿」
「…。」
「猿?」
 こんなに近づいているのに反応が無い。さすがに心配になって、警戒しつつも、アシュレイに触れた。途端とアシュレイがずるり横に倒れた。
「…猿!?」
 泥水の中に倒れこんだにも関わらずアシュレイは、ぴくりとも動かない。どうして東領にこの男が居るのか、一体何をしていいたのか、薬師のサガかもしれないが、そんな事を考えるより先に体が動いていた。

「…ん」
「よお、アシュレイ気分どーよ」
「…柢、王?」
 アシュレイはストロベリーローズの瞳を薄っすらと明けて声のするほうを見上げた。
「何やってたんだ? お前。俺になんか用でもあったんか?」
「…たぶんそう」
 いつに無く幼いしゃべり方に柢王は眉をひそめた。
「なんかあったんか?」
 柢王できるだけ優しく声を掛た。アシュレイ素直にうなずいた。
「…ティアのこと」
 熱のせいかつ強がりの仮面が外れているのか、ぽつぽつと素直に離し始めた。
「…あいつ、俺のこと女かなんかと勘違いしてる…守られるのは、俺じゃないのに」
「お前が無茶ばっかすっからだろ?」
「人のこと言えねーくせに」
「全くだ」
 後方で桂花が薬の入った盆を持って立っていた。
「桂花〜」
「…!」
「気分はどうだ。濡れ猿」
「け、桂花!」
 ていおうが慌てて桂花を制そうとした。しかしアシュレイの方が起こる気配は無く、渡されるままに薬を飲んでいた。
「ア、アシュレイ?」
「…あのさ」
「なんだよ」
「俺、多分お前らの事、羨ましかったんだと思う。」
「「は?」」
 二人が同時にアシュレイを見た。
「…いろいろ言ってたけど、お前らの関係って対等だろ」
「まあな」
「それがモットーですから」
「けど、俺らは違うんだ。いつだってティアは俺を男として扱わない。」
「それは…」
 答えに詰まる。桂花が何度か守天に忠告した、そのままの事を、アシュレイは気付いていた。
「で、その八つ当たりみてーにお前らに当たってたから、それ謝りに…そのつもりだったんだけど」
 アシュレイが自嘲気に笑った。彼にはひどく不似合いだった。
「ま、そんなわけだから。ワリ、くだんねーこと言って」
 迷惑かけて悪かったな、桂花につぶやくとアシュレイは反応も見ずに、あっという間に光の矢になった。
「…どーしましょうか?」
「しっかたね、ティアんとこ行くぞ」
「そうですね。しおらしい猿なんて鳥肌が立ちます。」


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