投稿(妄想)小説の部屋

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No.537 (2004/11/03 02:18) 投稿者:モリヤマ

プレゼント (前)

 忙しい、なんて言い訳にもならない。
 もちろん、後回しにしていたつもりも毛頭ない。
 なにを贈ろうか、ずっと考えてた。俺なりに気をつけてアンテナ張って。テレビや雑誌や買い物や、二葉が見るもの聞くもの出かけるところ、最近どんなことに興味があるのかとか…。
 普通のなにげないもので充分喜んでくれる奴だって、わかってるけど。できれば二葉が欲しいと思うものを贈りたいんだ。そのほうが俺も嬉しいし。
 でも、どうしてもわからなかった。思いつかなかった。
 …あいつ、いま欲しいものなんてあるのかなぁ。

 そして。
 11月に入っても決まらない二葉へのバースディプレゼントに、とうとう音を上げた俺は、仕事の合間にできた時間で、二葉の従兄弟で俺の親友でもある小沼に相談してみることにした。
「二葉のほしいもの、かぁ…」
 うーん…、とスタジオの壁に寄りかかって腕組みをして考え込む小沼の横で、
「…くだらない」
 と、悠が心底あきれたようにつぶやいた。
 小沼と悠は、昔から仕事が重なることが多かったけど、共同でショップ経営をするようになってからは、尚更一緒にいることが多くなった。
 小沼のマネージャーをしてる俺も、ショップのほうの仕事もするようになって、格段に悠と顔を合わせる回数が増えた。小沼と悠を一緒に車で送迎なんてしょっちゅうだ。だから昔ほど悠に苦手意識はない、…つもりなのに、たまにすごくプレッシャーを感じることがある。…主に、小沼関係だったりするんだけど。
 このスタジオでの撮影のあとも、そのショップのことで打ち合わせたいことがあるからと、とっくに自分の分を撮り終えてしまった悠は、小沼待ちの状態でかなり暇をもてあましているようだった。
「くだらないなら、先帰ればー?」
 そんな悠に、冷たーい感じで小沼が言う。
 でも、冷たい振りで仲いいんだよなぁ…。
 ロスから帰って初めて小沼と悠のツーショット(漫才?)を見たときは、ちょっとショックだった。
 悠と俺は違うってわかってるし、こんなふうに思うこと自体、俺のわがままだって思うんだけど…。やっぱりなんだか寂しい。
 今だって、別に約束とかしてなかったみたいなのに、ショップのことで決めときたいことがあるからって、突然悠から言われて。悠が小沼の家に寄ったり、悠の部屋までふたりを送っていったり…ってことは、今までにも、何度かあったけど。それ以上に小沼が悠の部屋に行き慣れてる感じに、また少し、寂しいって思ってしまった。
「…忍? 忍っっ!?」
「え、あ、なに?」
 突然目の前に、焦ってひらひら手を振る小沼が見えた。
 いけない、いけない。ひとりでトリップしてたらしい。
「…おまえ、最近無理してない?」
 は!?
 俺、が?
「コレ!」と、顔はこっちに向けたまま、悠をビシッと指さして、
「のことは、気にしないで…てゆーか、気になるなら帰らせるしっ。や、むしろふたりだけのほうが全然いいか…二葉のことで、俺に話があるんなら。…うん、もうすぐ終わるはずだから、俺ん家で話そっ? 遅くなったらそのまま泊まってけばいいしさっ」
 小沼は一気にまくし立てた。
 小沼って、たまに俺の保護者みたいなとこ、あるよな…。
 そんなことを考えながら、なんだか心が温かくなる感じがした。
 おまえがそういう奴だから、俺、すぐに頼っちゃうんだろうな。
 二葉の従兄弟だからとか、二葉のことわかってる奴だからって理由より、俺が小沼のことを好きで頼ってる…。
 俺って進歩ないなぁ。そう自己分析しながらも、小沼が俺のことで一生懸命になってくれてる様子になんだか嬉しくなって、ついふきだしてしまった。
「なんだよ、もー! 笑うことないだろーっ!?」
 俺はまじめに話してんのにー! と、なんとか笑いをこらえようと鋭意努力中な俺の両肩をぶんぶん揺さぶってキャンキャン言って来る小沼がまた可愛くて、どんどん顔がにやけてしまうのを抑えるのがつらい。
「……コレ、って、俺?」
 そんな小沼と俺の、世界に二人だけな空気を、突然無機質な低い声が打ち破った。
「聞こえない。なーんにも聞こえない。忍、ほら、俺の目ぇ見て。おまえが俺には嘘つかないって知ってるけど。…でも、絶対無理してるって。俺、おまえのこと結構見てんだよ?」
 あ…。
 すごい…。なんか感動で涙出そう……。
 双谷に通ってた頃、おまえ、同じこと言ったんだ。まだ知り合う前に、俺が気づいてないとこで、俺のこと見てて
知ってた、って。そういうとこ、全然変わってない…。
「最近忙しかったし、たまに放心しちゃってたの、自覚ないだろ? 疲れてるんだよ、おまえ…」
 ほんと、俺のこと見てくれてるんだ…。
 クマだって全然消えないしさーっ、と俺の目のあたりを見て悲しそうな声が突然ちょっと怒ったような声に変わる。
 心配されてる実感で、不謹慎だけど、すごく嬉しい…。なんて言ったら、小沼、怒るだろうな。そう思ったら、また口元がゆるんでしまった。
 だから笑い事じゃないだろーっ! って、小沼は俺の額にそっと自分のおでこをくっつけてきた。
「熱は…ないみたいだけど。でも、疲れっていつの間にかたまって突然熱出たりするし…。よしっ、もう今夜はうちに泊まり、決定! ベッドでさ、横になってゆっくり話そ? …ってっ、なにすんだよバカーっっ!!」
「おまえは、俺と、打ち合わせ、だったよな?」
 おでこを俺の額につけたままの小沼の頬をギューッとつまみあげた悠が、一言ずつゆっくり確認してくる。
「…っ、べっ別に今日でなくたっていいだろっっ」
「今日じゃないと駄目だ」
 2時間待たせた挙句、約束を反古にしようとしているやましさで、100%強気に出られない小沼の意見(?)は、悠にあっさり却下された。
「あの、さ、小沼。今日は悠と約束したんだし。それにほら、2時間も待ってもらってるんだしっ。俺のほうこそ、別に今日でなくても…そう明日でも明後日でもっ…」
「二葉の誕生日、明後日じゃんっっ…」
 ようやくほっぺたは解放されたけど、痛いのかな、痛いんだろうな…、小沼の声が涙声だ…。
「…まあ、そうなんだけど」
 ごもっともな小沼の突っ込みに、それでも怒れる大魔神なオーラをかもし出してる悠には絶対逆らわないほうがいいような気がして…。
「もう少し自分で考えてみるから」
 心配そうな小沼にちょっと笑いかけてみる。
「…あいつなら、物じゃなくても」
 突然、悠が言った。
「え?」
「そう! 別に物じゃなくても、って、物でもいいけどっ、大事なのは忍の気持ちだよね。それと二葉の気持ち。二葉、おまえの目の下のくま、気にしてると思うよ? てゆーか、こんなにこき使われてーって、俺、恨まれてたりしてっ…」
 ぎゃーっ、どーしよっ忍〜っ!! と、突然叫んで抱きついてきたかと思うと、不意打ちで間近に迫った小沼が問いかけてきた。
「物にこだわらなくて、『気持ち』だったら、答えは簡単じゃん、ねーっ?」
 考え込む俺に、仕方ないなーと笑いながら小沼は内緒話みたいに耳元でアドバイスをくれる。
 焦れた悠が再び俺から小沼を引き剥がすまでの少しの間だったけど、俺にはすごく楽しい時間だった。
 今日、小沼と話してよかった。
 もちろん、いつも話してないわけじゃないけど。…なんだか気持ちがすっきりしたんだ。
 双谷の頃を思い出したせいかな。
 小沼はもう憶えてないかもしれないけど。
 俺がいるから、つまんない学校でもやめたくないって言ったんだ。でも、あのときの俺こそが、おまえがいたから頑張れた。勝手にひとりで「さびしい」なんて思っててごめん。双谷に入って、おまえと会えて、本当によかった。
 …心から、そう思うよ。


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