こころひとつ 8
今年の冬休みは、俺、池谷忍が今まで過ごしてきたなかで一番よく勉強したと思う。
最近、親が俺の進路を心配し出しているみたいだから(まだ高校一年生なのに…)俺は本格的に日本の大学へ行く為の準備を始めたんだ。
最近知り合いになった、小沼桔梗ってやつの恋人の、卓也さんてひとはバリバリの東大生なんだ。
その卓也さんはイエローパープルって言うバーでバーテンダーのアルバイトをしているんだけど、そこの支配人でもあり、小沼のいとこの二葉・フレモントの兄でもある一樹さんも東大を卒業している。
俺は、冬休みの間はほとんどを小沼の家で過ごした。
そこで、卓也さんに勉強を教わったり、たまにイエローパープルの事務所で一樹さんに勉強を見てもらったりもした。
俺は、進級が危ないと言う小沼や、最近勉強を頑張り出した二葉と一緒に、とても密度の濃い勉強ができたと思う。
俺は、やっぱり人と勉強するよりは、一人でする方が性に合っていると思っていたんだけど、二葉や小沼と一緒に勉強してみて、人と勉強するのもそんなに悪くはないのかもしれないって思ったんだ。
何時間も勉強を続けていて、とても疲れたとき、二葉や小沼が軽口をたたいているのを聞いたりするだけでも気晴らしになった。
クリスマスはみんなでケーキを買ってパーティーをしたし、元旦には一樹さんの車でみんなで初日の出を見に出かけたんだ。
そんなこんなで、冬休みはすぐに終わってしまった。
最近の俺、池谷忍はいつも二葉・フレモントと行動を共にしている。
冬休みを小沼の家で過ごすうちに、俺と二葉は以前にもましていろいろな事をよくしゃべるようになっていた。
最初のころすごく二葉に対して緊張していたのがウソみたいだった。
最初は戸惑っていた俺も、いつも隣にこいつがいるって言う状況にもう慣れてしまった。
それは神経質な俺にとってはとても珍しい事なんだ。
二葉は何故かとても俺に優しくしてくれる。
二葉には小沼桔梗って言ういとこがいて、小沼とこいつは本当に仲がいいし、二葉はいつでも、どんな時でも誰よりもまず、この小沼桔梗を優先していた。
それは、まだであって3ヶ月もたっていない俺にだって簡単にみてとれることだった。
でも……最近俺は気になっているんだ。
確かに彼は小沼をとても大切にしている。
でも、ときどき…ほんのたまにだけど、俺は…もしかすると小沼よりも二葉に大切にされているのかもしれない…なんて感じちゃう時があるんだ。
俺が親に進められて、最近通い出した進学塾だって、二葉はいつもバイクで送り迎えしてくれるんだ。
親が家にいないときは、一緒に夕ご飯をとろうと言って、わざわざ家の近くまで尋ねてきてくれたこともあった。
なんとなく、人と群れたり、変にべたべたした付き合いの苦手な俺が、二葉相手には微塵もそんな事を感じた事がなかった。
二葉は、いつも俺の気持ちを一番に考えてくれているのがわかる。
たまにスキンシップ過剰なときもあるけど、二葉が相手なら我慢できた。
それどころか最近では二葉に触れられる事に慣れてしまって、ほとんど苦痛を感じなくなっていたんだ。
でも、最近俺は二葉や二葉の友達と過ごすようになってそれまでずっと避けていた現実とも向き合わなければならなくなったんだ。
俺は、最近になって二葉のグループと……俺のもう一人の友人であるハワード・ストームのグループとがどんなに仲が悪いのかを改めて知るようになった。
ハワードとは相変わらず一緒にランチタイムをすごしている。
俺は、以前彼に、二葉と彼野グループが敵対しているということを聞いていたが、現実は俺が想像してたよりもずっとひどかった。
それに、俺は以前はよく知らなかったハワードの悪名高いうわさも耳に入れるようになっていた。
ハワードは…俺の目の前にいるときのハワードは悪いやつじゃない。
俺といるときの彼は無邪気なただの悪ガキのようなイメージだ。
そんな彼と、みんなの間で語られる狂暴であくどい彼は、まるで別人みたいだった。
最近俺は二葉とハワードの事がとても気になっていた。
二葉や二葉の友達といると、ときどきハワードのグループの奴らに絡まれる事があるんだけど、やつらは俺には絶対に直接暴力を振るったり絡んだりはしない。
ハワードがなにか言って聞かせているんだろうか?
俺は、もしかするととんでもない八方美人をしているのかもしれない。
そうおもうと、二葉ともハワードとも仲良くしている自分が、とても悪い事をしているような気になる事があるんだ。
せっかく二葉ともやっと打ち解けたところなのに、考えなしだった俺はまたいろいろ悩んでしまうはめになってしまった。
二葉と友達になるってことは、ハワードに対する最大の裏切りになるんじゃないかってことに、俺は最近になってやっと気づいたんだ。
いや、以前から心のそこではわかっていたのかもしれない…。
俺は人の気持ちのすごく鈍感なところがあるから、人よりももっと注意して人の気持ちを考えて見るべきなんだ…。