投稿(妄想)小説の部屋

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No.530 (2004/08/20 21:52) 投稿者:青嵐

こころひとつ 5

 俺、池谷忍が再びハワードと昼食を取るようになったのは、二葉・フレモントと知り合う少し前の事だった。
 ハワードは、2人っきりでいるとき以外は絶対に俺には話し掛けてこない。 
 なんとなく、それが俺たちの距離だったんだ。
 そんなハワードが初めて俺の教室を尋ねてきたのは、11月の始めだった。
「おい、忍。ちょっとこっちこい。」
「・・・どしたの?」
 ハワードは俺の質問には答えずに俺を教室から連れ出した。
 ううっ、今はランチタイムなんだ・・・廊下でたむろってるやつらなんかの視線がいたい・・・。
 俺はそれほど驚きはしなかったけど、ぐいぐいひっぱられる右腕が痛くて顔をしかめてしまう。
 それに気づいたハワードは、わりぃ、と言って手を離してくれた。
 俺よりもクラスメイトや廊下でであった奴たちの方がずっとびっくりしていたみたいだ。
 きっと俺がカツアゲでもされるんじゃないかって今ごろ話してる奴もいるんじゃないだろうか?
 そうおもうと、なんだか不思議な気がした。
 友達のいなかった俺の唯一相手をしてくれたのが、学年一の不良と恐れられている彼だなんて。
 ハワードは俺を視聴覚室前へ連れてくると、悪ガキみたいな笑みを浮かべて俺を見た。
 「作っちまったんだ。マスターキー。」
 そう言いながら、楽しそうに鍵穴にキーを差し込む。
「そっ、そんな事どうやったんだよ・・・もう。ばれたらまずくない?」
 心配になって、思わずとがめるような事を口にすると、ハワードはノープロブレムと言って笑った。
 一緒にメシ食おうぜ?そういって彼は何事も無かったかのように、以前屋上でそうしていたとおりにふるまった。
 なぜ彼が俺を誘ってくれるのか聞いてみたい気がしたけど、なんとなく、それは聞いては行けないような気がして、そのことについては俺はできるだけ考えないようにしていた。
 その日からまた、ハワードと一緒にランチタイムを過ごすようになったんだ。

 それからしばらく経って、俺は二葉の紹介で小沼桔梗って言う奴と仲良くなった。
 桔梗は俺が今までであったどんな奴とも似ていなかった。
 彼の事は信じて言いのだと、そんな風に思える相手だった。
 俺は過去に、手ひどく友達に裏切られた経験がある。
 もう忘れよう、そう思ってもその記憶はなかなか消えなくて、きっと俺は人間不信に陥っていたんだと思う。
 友達を作るのが怖かった。
 またあんな風に傷つくくらいなら、友達なんて要らないって、そんな考え方はものすごく不健康だって分かっていたけど俺にはそういう自分と戦うことができなかった。
 そんな俺は、桔梗のようなものすごく正直な生き方に・・なんていうか安心したんだ。
 彼はウソを言わない。
 彼の態度に、偽りや演技はない。
 彼が怒っているときはすごく怒っていて、彼が泣いているときはすごく悲しんでいるんだ。
 そういった彼の素直さは、きっと俺がもう無くしてしまったものなんだ。
 なんで小沼が俺なんかと仲良くしてくれるのかはわからないけれど、いつのまにか彼とおれは大の仲良しになっていた。
 俺は、しょっちゅう彼の家に泊まりに行く。
 それと平行して、二葉・フレモントともすこしずつ話すようになっていた。
 二葉のことはまだよく分からない・・・。
 二人っきりになると何故か緊張してしまうんだ。
 理由は、理由はきっと、二葉の・・・視線だ。
 二葉に見られると、俺はいつも落ち着かなくなってしまう。
 多分俺の態度や声も、硬くなっているんだと思う。
 そんな俺に気づいているのか、いないのか・・・相変わらず二葉はとても優しい。
 俺が緊張して固くなっているとき、二葉は何も言わないけれど少しさみしそうな目をする。
 違うんだ・・・二葉が嫌いなわけじゃないんだ・・・。
 
 二葉と俺の微妙な空気に気づいたんだろうか、小沼が変な事を言い出してきたんだ。
 それはいつもみたいに俺が小沼の家に泊まっていたときのことだった。
 俺はソファーで一樹さんに借りた本を読んでいた。
 二葉も床のクッションに座って、雑誌をめくっている。
 さっきまで卓也さんっていう恋人のために夜食を作っていた小沼は、つけていたエプロンを取ると、俺の横に擦り寄ってきた。
 なんだか嫌な予感がして、顔を上げて奴の顔を見ると、奴は目をきらきらさせて俺を見た。
 「ねー忍、俺いいもんもらっちゃったんだ。」
 そういって奴が見せたのは、最近関西にできたばかりのアミューズメントパークのチケットだった。
 いっしょに行こうとでも言うんだろうか?
 俺は少し考えた。
 俺は実は人ごみがすごく苦手なんだ。
 小さい頃、満員電車や、遊園地と言った人の多いところに出かけるたびに、俺の体には異変が起こった。
 たとえば、10分おきくらいにトイレに行きたくなるだとか、すぐに吐き気がして、苦しくなってしまうだとかだ。
 病院へ行くとそれは心理的なストレスからくるものだと教えられた。
 小学校の高学年になるころにはそれはもう治ったかのようにみえたが、慣れない友達と出かけたりすると、胃がいたくなってしまったりするのは、あいかわらずだった。
「何? 一緒にいこうってこと?」
 俺がそう聞くと、小沼は二葉を指差した。
「俺はもうこないだ卓也と行って来ちゃったんだ。だ・か・ら、二葉と行って来なよっ。」
 そう言ってにこにこ笑う小沼は、俺がものすごく困った顔をしていても全然動じない。
 どうしようかと二葉を見ると、二葉は何も言わない・・・。
 二葉は俺となんか遊びに行きたくないんだろうか・・・?
 「そんなの二葉の都合だってあるし・・・。」
 そう言って俺は口篭もる。
「もし二葉がいいって言うなら忍は行く?」
 何てこと言うんだ、こいつは・・・。
 その時二葉が口を挟んだ。
「俺は別にいいぜ。一緒に行こ?」
 でも、とまだ何か言おうとした俺は、その後小沼に必死に説得されて、結局、今度の日曜日に、二葉と2人で遊びにいくことになったんだ。


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