投稿(妄想)小説の部屋

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No.439 (2002/04/24 23:18) 投稿者:花稀藍生

天主塔の頭の痛い一日(13)

 目覚めはふいに訪れた。
 甘い香りと体温が傍らにあって、心地よさそうに寝息を立てている。
「・・・・・・」
 南の太子は寝台に体を横たえたまま、しばらくぼんやりと恋人の顔をのぞき込んでいた。
 月光で紡いだ絹糸のような髪にふちどられた、幸せそうな顔をして安らかに眠る、額に尊い御印を
戴いた絶世の美貌を。
(めずらしーの。こいつが、こんなに気持ちよさそーにすうすう寝てるなんてな)
「・・・う〜ん・・・」
 ・・・それにしても、何だか変な夢を見たような気がする。
 ティアと一緒にいるところへ、八紫仙と教育係のジジイどもが集団で来てわけのわかんねぇ事をべらべら喋ったあげく、わけの分からない薬を飲ませようとするから、練兵場の兵士どもに八つ当たりで『華焔咆』を喰らわせているところへ、桂花があらわれて小ぶりの素焼きのポットに入っている薬湯であっさり炎を鎮火させてしまう。何すんだよ! と食ってかかったところへ柢王があらわれて、書類の束で後頭部をスパーン! と張り倒す。そんな脈絡のない夢だった。
「・・・しかしなんか腹のたつ夢だった・・・ん?」
 後頭部に手をやる。ついさっきまで柢王に張り倒されまくった後頭部の痛みが消えている。
 ・・・そもそも、何で柢王に張り倒されたんだっけ?
「んんん?」 
 おそるおそる自分の手を見、顔に触り、赤い髪に手を突っ込んで額の角を探る。
「・・・俺・・・だよな?」
 さっきまでの、とっさの受け身も取れないような身体とは、ぜんぜんちが・・・
 がばっと南の太子は起き上がった。
「・・・夢じゃねえっ! おい、ティア! 起きろ! 元に戻ってる!」
 大声で叫ぶなり、眠っている守護主天の肩を掴んで、がしがし揺さぶる。
 南の太子の大声に隣室で一人起きていた桂花が反応し、柢王を起こして(←というか、声で目がさめた)二人して寝室に駆け込む。
「アシュレイ! もとに戻ったか」
「・・・守天殿は?!」
 寝室では、乱暴に揺さぶられた守護主天が、勢いあまって寝台から落ちた所だった。
「ティア! 大丈夫か?」
「いたた・・・。アシュレイいきなりひどいよ・・・」
 桂花に助け起こされて床に起き上がった守天は、後頭部に手をやって眉をしかめた。
「・・・なんだか、頭が痛い・・・。 ? コブが出来てるよ・・・どうして?」
 そうして3人が見ている目の前で、手光でさっさと癒してしまった。
「・・・守天殿、大丈夫ですか?」
「ああ、桂花。今日はとても楽しかったね・・・え? 大丈夫って何の・・・ ? ・・・あれれ?」
 どこか寝ぼけたような瞳が急速に晴れていく。
「おい、ティアだいじょうぶかよ」
 寝台の上から覗き込んだ南の太子がつんつん頭をつっつく。
「アシュレイ。・・・え〜と、それじゃあ・・・」
 守天は心配そうに覗き込む3人の顔をぐるっと見回してようやく納得のいった顔をし、そして
「ごめん」と、ぺこりと頭を下げた。

「二人とも、もとに戻ったな」
「・・・もとに戻ってますね」
 桂花が安堵のため息をついた。
「じゃあ、これで一件落着だな。・・・おい、二人とも何があっても明日の朝まで俺達を呼ぶなよ。行くぞ、桂花」
 桂花の肩を抱いてさっさと柢王が身をひるがえす。桂花があわてた。
「え? しかし柢王、お二人の体調なども確認しなければ・・・」
「元に戻ってんだ。大丈夫だろ。」
 寝起きのせいか、柢王の目が心なしか据わっているように見える。
「しかし・・・」
「桂花。あんまりぐだぐだ言ってるとこのまま長椅子に押し倒すぞ」
「・・・・・・!」
 人前で何てこと言うんですか、あなたはっ! と思わず突き飛ばしかけた両腕をなんなく絡めとって引き寄せると、ぎりぎりまで顔を近づけ、「どうする?」と笑って見せる。
「・・・桂花、私達のことなら心配ないから、部屋でゆっくりと休んでくれ」
 進退窮まった桂花に守天が助け舟(?)を出す。その隣の寝台の上で、南の太子が目をまん丸に見開いているのに見送られて、二人は退場した。

 寝室の扉を閉めた守護主天が寝台のほうを振り返ると、寝台の上にあぐらをかいて座る険悪な瞳の南の太子と視線がぶつかった。
「・・・アシュレイ、怒ってる?」
「怒らいでか! 人の身体で好き放題しやがって! やい、ティア! おまえには今からよ〜く言って聞かせなきゃいけないことがあるんだぞ! ちょっとここに座れ!」
 そう怒鳴って、自分の座る寝台の前の場所を指でさす。守天がためらっていると、ここだ!という
ふうに前の場所を右手でばんばん叩く。
 寝台の上で、南の太子の前に守天はきちんと正座して座った。
 どんな罵詈雑言も、暴力も覚悟した守天だったが、怒ったような顔をした南の太子の口をついてでたのは、意外な一言だった。
「食事はちゃんとしろ」
「・・・? ・・・う・うん」
「仕事が忙しいのはもうしょうがねえ。けど、よほどのことでない限りはせめて人並みに寝ろ」
「うん」
「・・・それから・・・」
 そこで一旦言葉をきった南の太子は、なかなか口を開こうとしない。
「それから?」
「それから守天ってのは笑ってんのも仕事のうちってのはわかってっけど・・・。・・・いや、だから・・・」
「アシュレイ?」
 のぞきこんだ南の太子の顔は真っ赤だ。ぽりぽりと頬を掻きながら視線をあさってのほうに向けてしどろもどろに喋る。
「・・・いや、今日一日お前の立場になってみて、・・・その、どんだけ大変かが・・・わかった・・・ような気がすんだよな。なんとなくだけど。うん。・・・んで、大変なのに、お前は・・・ちゃんと笑ってんだよな・・・。・・・でもさ・・・いや、だからこそだな・・・」
「アシュレイ・・・・」
 南の太子を見つめる守天の頬がばら色に染まる。
 そっぽを向いて、頭をがしがし掻きながら言葉を続けていた南の太子が、真っ赤な顔のまま真正面の守天に向き直って言った。
「う〜〜〜。・・・だからティア、せめて俺の前では無理すんな。愚痴でも何でも聞いてやるから。しんどいなら笑ってなくてもい・・・のわっ?!」
「・・・アシュレイ! うれしいよ!」
 みなまで言わさず満面の笑みで守天が抱きついてきた。その勢いで南の太子は寝台に押し倒された。
「うわっ! おいティア! 話はまだ終わって・・・ うわっわわわっ、どこ触って・・・わー!」
( お約束〜♪ )
「愛してるよ、アシュレイ♪」
「 ひ、人の話を聞け〜! ・・・!!!」

 ・・・かくしてお約束のオチのもと、天主塔の夜は平和に更けてゆき、長い一日は終わったのであった。

                             『天主塔の頭の痛い一日』 終
                              
                              → 『天主塔騒動始末』に続く?


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