相談(1)
塾をやめた。
中学の時からずっと通っていた塾で、講師も俺にめをかけてくれていたけど、自分にはもう必要ないと思ったからだ。
理由は、2つ。
ひとつは、もし来年アメリカの大学を受験するなら、日本での大学受験を目標にしている今の塾にいても、しかたがないということ。それから、留学にお金がかかるなら、塾の費用をそれにまわしたい、ということだった。
特にこれといっていい思い出はなかったけれど、それでも長い間通った塾だ。
手続きをした帰り道、なんとなく寂しい気分になってた俺は、久し振りにロー・パーに行ってみようと足を向けた。
今日は母さんたちは帰ってこない。店の美容師を引き連れての社員旅行で温泉にいっているから。少しくらい遅くなったり、もしくは小沼のうちに勝手に泊まってもバレやしないだろう。
店に入ってみると、平日のまだ早い時間だからか、わりとすいていた。
一樹さんが、俺が一人で店に来たのに驚いて声を掛けてくる。
「どうしたの。今日は二葉や桔梗は撮影で海外でしょ。忍は最近なかなか一人で店には来ないから、びっくりしちゃった。でも嬉しいけどね。どうかしたの?」
「やっと塾をやめたんです。前から決めてたけど、なんとなく寂しい気分になっちゃって…」
「ああ、そう。それじゃあ、ゆっくりしておいで。カウンターにいるといいよ。そうだ、そこにいるお客様に紹介してあげる。」
「えっ? いや、いいですよ。そんな…」
「気にしない、気にしない。絹一さんといって、ものすごく語学に堪能なひとなんだ。もしかしたら忍のいろいろな不安を聞いてくれるかもしれないよ。それに、ものすごく美人だから、忍とならべてみたいしね。」
いつもの本気だかなんだかわからない顔でにっこり微笑まれてしまうと、俺にはもう抵抗なんて出来やしない。
それに実際、そんなひとならいろいろ相談にのってもらうのもいいかもしれない。
俺はそう考えて、一樹さんのあとをついていった。