投稿(妄想)小説の部屋

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No.404 (2002/01/15 04:18) 投稿者:ZAKKO

芹沢さんちの慎吾くん《お正月初詣篇》

 寒い寒い、大晦日の夜。
 ちび慎吾君は眠い目をこすりつつ、TVの深夜番組を観ていました。普段なら貴奨さんの雷が落ちるところですが、今日は特別です。
 何故ならこれから、いつものメンバーで初詣に出かける予定だからです。
 慎吾君の隣には既に来ていた正道君が座り、これも見るともなく画面を眺めていました。
 高槻さんも一緒に到着し、今は貴奨さんとキッチンの方でおせち料理の仕上げにとりかかっている様子です。
 慎吾君はチラ、と時計に目をやると、小さく溜息をつきました。
(……12時に、なっちゃうよ……健さんと江端さん、まだかなぁ……)
 そう、まだ健ちゃん達は現れていないのです。慎吾君は日付が変わったらすぐに皆に『おめでとう』を言いたかったので、何だかソワソワしています……。

 12月31日、23時58分。

《 ガンガンガンガンッ!!》

 玄関のドアがいきなり、物凄い勢いで連打されました。
 菜箸を持った貴奨さんの眉が、ピクッ、と跳ね上がります。
「あっ、きっと健さん達だよ! 俺、見てくるね!」
 慎吾君ははじかれた様に立つと、玄関に向かってダッシュしました。はやる気持ちを押えてドアチェーンとロックを外すと、そこには……
「『ただ今より、零時丁度をお知らせいたします。ピ、ピ、ピ、ポ〜ン』……っつーワケで、明けましておめでとさん、シン?」
 自前の時報と共に、笑顔の健ちゃんが現れたのでした。勿論、その後ろには黒いレザーコート姿の江端さんが一緒です。
「健さん、江端さん! あけましておめでとうございます!!」
 満面の笑みで元気良く答える姿を見て、健ちゃんは思わず抱きしめ……ようとしたのですが、丁度慎吾君がクルリと向きを変えて走り出したので、その手は空をきってしまいました。
 クッ、と笑いをもらす江端さんに、すかさず健ちゃんの蹴りが入ります。
「……ま、いっか。『今年初めての挨拶』はGETしたからな〜♪」
 慎吾君が大きな声で貴奨さん達にも挨拶をしているのを聞きながら、ちょっぴり御機嫌な健ちゃんなのでした。

 リビングに通された健ちゃん(←貴奨さんに「何だ、あのノックの仕方は……慎吾よりも子供だな、君は(ふ)」などと言われ噛みつこうとした所を江端さんの手で口を塞がれたりしてました)達がコーヒーを飲んでいる内におせち料理の方も完成し、皆は初詣に出発しました。
 有名どころだと人出が多すぎて、慎吾君が疲れてしまう……そんな、当の本人以外の全員の配慮により、ちょっと遠くの神社まで車でお出かけです。
 鳥居をくぐると両側にずらりと並んだ屋台に、慎吾君が目を輝かせます。
 正道君はその様子に微笑みながら、慎吾君の背中をポン、と叩きました。
「よっし、何か買ってやるよ。イカ焼きか? それともりんご飴か?」
「え! えっと、えっとねぇ……」
「俺はタコ焼き〜♪」と駆けだした正道君の後を、慌てて「あっ、俺も! 俺もそれにする〜!」と言いながら追いかける慎吾君。
「……こういうところのものは、あまり食べさせたくないんだがな」
 非衛生的だ、と呟く貴奨さんに、健ちゃんがあきれた声をあげます。
「な〜に言ってんスか、貴奨さん? 食ったって死にゃしませんって。ガキはあーゆーのが好きなんだ、折角の正月に野暮はナシだぜ!」
 渋い顔をしている貴奨さんに、高槻さんも言い添えます。
「そうそう、向井君の言う通りだよ。何なら、お前も童心にかえって食べてみたらどうだい…?」
 悪戯っぽく微笑む高槻さんの台詞に、健ちゃんが吹きだします。
「『タコ焼きを立ち食いする貴奨さん』……ッ、イイじゃんソレ! ハハッ、俺初夢に見そー!」
「…………高槻」
 大いにウケている健ちゃんに眉をひそめながら、貴奨さんが呟いた時です。両手にたこ焼きの舟を持った慎吾君が、白い息をはずませながら戻ってきました。正道君はその後を、たこ焼きを食べながらゆっくりと歩いてきます。
「あのね、コレ、一番おいしいって教えてもらったお店のなんだよ! ちょうど焼きたてのがもらえたんだ! はいっ」
 あったかいうちに食べてねっ、とニコニコしながら健ちゃんと貴奨さんにたこ焼きを手渡す慎吾君。どうやら、貴奨さんは高槻さんと、健ちゃんは江端さんと『分けっこ』して食べろ、という事らしいです……。
「ほい慎吾、半分」
 正道君から受け取ったたこ焼きを「いただきまーす♪」と頬張る慎吾君。
「あ、あふいけどおいひぃ、んぐ。…ん、正道はもういいの?もうひとつ食べる?」
 高槻さんから『この場の立ち食いは大目に見るとして、歩き食いは行儀が悪過ぎ!』
 とお叱りを受けていた正道君は、楊枝に刺したたこ焼きを差し出してくる慎吾君を見て、目を細めます。
「(半分こな、って言ったのに。美味かったら、自分の分は自分で食うだろ、普通。なのにおまえ、俺に勧めてくれんだな……)……サンキュ」
 その気持ちが嬉しくて、ぱくり、とたこ焼きを口にする正道君。
 そしてその横には、目前の光景に固まる貴奨さんと健ちゃんの姿があったのでした…
 …貴奨さんがたこ焼きを食べたかどうかは、はたして……?

 足を伸ばした甲斐があって、お参りもスムーズに済ませる事ができました。都内某所に行っていたら、まだまだ何時間も並んだことでしょう。
 一行は、お正月らしくおみくじをひいてみる事にしました。この内の何人がその結果を信じるのか、という問題は置いておくとして……当然、発案者は慎吾君です。
「ん〜、どれどれ……っしゃ、大吉!」
 パチン、と指をならした健ちゃんは、「お前は?」と言いながら江端さんの手元を覗きこみます。
「お、てめーも大吉かよ。こりゃあ……今年は午年だし、ひとつおウマさんでも買ってみっか、江端?」
「また……思いつきで衝動買いなんてするんじゃねぇぞ。車と違って、生き物なんだからな」
 呆れた様に言う江端さんに、健ちゃんは肩をすくめました。
「へいへい、大蔵省の仰せの通り。……ンじゃ、馬券ってのはどうよ?」
 隣では、高槻さんと正道君が無言のままおみくじをたたんでいます。
「まぁ、こんなところだろうね」
「……………」
 微笑む高槻さんとは対照的に、何やら遠い目になっている正道君。どんな事が書いてあったのかは、それぞれの表情が物語っています……。
「慎吾、おまえのはどう……おい、慎吾?!」
 慎吾君を見やった貴奨さんが、訝しげな声をあげます。それもその筈、慎吾君はおみくじを握りしめたまま、項垂れてしまっていたのです。
「どうした、慎吾?」
 肩に手を置かれてビクッ、とした慎吾君は、ゆっくりと貴奨さんを見上げました。大きな瞳が、不安げにゆらめいています。
「……俺、大凶だって……どうしよう、貴奨……ッ!」
 縋り付く様に見つめられて、貴奨さんは思わず言葉を失ってしまいました。
 こんなのは所詮、気休め程度のものだ。信じる方が疑わしい。そう言いかけたのですが……慎吾君が求めている返事では、ない様な気がしたのです。
 それに、おみくじをひこうと言い出したのは慎吾君なのです……『おみくじなんか』という言い方は、彼を傷つけてしまうかもしれません……。
 ついには、『正月早々そんな縁起の悪い札を入れておくなんて、この神社は一体どういうつもりなんだっ!!』という、今年も兄馬鹿まっしぐらな方向へと思考がいってしまいます。
 健ちゃんは健ちゃんで、大吉をひいてしまった自分が少々後ろめたく、俺のと交換するか、と言いかけましたが……これもまたちょっと違う気がして、結局言葉にできませんでした。
 困っている二人を見て、慎吾君もますます悲しそうな顔になってしまいます……。


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