投稿(妄想)小説の部屋

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No.405 (2002/01/15 04:20) 投稿者:ZAKKO

芹沢さんちの慎吾くん《お正月初詣篇》続き

 そこで動いたのは、やはりあの人です。
「……大丈夫だよ、慎吾君」
 砂利の上に跪いた高槻さんは、慎吾君の頬を両手でつつむ様にしながら、目線をあわせて微笑みました。
「大凶っていうのは、もうそれ以上に悪いものはない、って事なんだから。慎吾君が色々な事に一生懸命頑張れば、今年はもういい事しか起こりませんよ、って意味なんだよ……?」
「……ホント?」
 ちょっぴり不安な気持ちもありましたが、高槻さんの手の温かさと優しい微笑みに、慎吾君の表情があかるくなります。
「凄いじゃん慎吾! 大凶なんてめったに出ないんだぜ? もう、超レアカードってカンジ。おまえ今年はツイてるぜ、きっと!」
 正道君がウィンクしながら、クシャクシャっと慎吾君の髪をかき混ぜる様に撫でます。慎吾君は「何、それ〜?」と言いながら、笑い声をあげました。
 と、笑顔になった慎吾君を、ふいに江端さんが抱き上げました。
「な、なぁに? 江端さん?」
 江端さんは、びっくりする慎吾君に笑いかけました。
「見てみろ、慎吾。あっちこっちの枝に、紙が結びつけてあるだろう。あれは全部おみくじなんだ。もし悪い奴が出ても、ああすれば神様が力を貸してくれるんだぜ」
 おみくじも神様も信じてなさそうな男は、自信満々に言いきります。
 今まで気にしていませんでしたが、言われてみれば確かに、境内の植木の枝のそこここに白い紙切れが結ばれていました。
「そら、神様によく見える様に、一番高い所に結べよ」
「うわぁっ、江端さん、有難う! 凄いや!」
 江端さんは力強い手で腰のあたりを掴むと、軽々と慎吾君の身体を宙高く掲げました。慎吾君は上の方の、まだ誰も結んでない所におみくじを結びつけます。
「神様、俺、勉強も運動も、お手伝いも頑張ります。だから、見ててね!」
 一時はどうなるかと思われましたが、どうやら問題解決の様です。
 和やかムードの中、いつもの如く出遅れてしまった貴奨さんと健ちゃんは……脳裏をよぎった『一年の計は元旦にあり』という言葉に、思わず星空を見上げてしまうのでした……。

 これから初日の出を拝む、という手もあるのですが、夜明けまでにはまだまだ時間が
あります。一行はとりあえず、ここで別れる事にしました。
 健ちゃんと江端さんは自分達のマンションに。高槻さんと正道君は、薫さん達に挨拶するのと家の集まりの為に、自宅に戻るのです。
「そんじゃま、どちらサンも、今年もひとつヨロシクって事で」
 皮ジャンのポケットに両手を突っ込んだまま、健ちゃんが皆を見回します。
 その言葉を皮切りに、銘々が改めて挨拶をし、解散しようとした時です。眠そうな目をこすりこすり、慎吾君が皆を呼び止めました。
「あっ、ちょっと待って! ……あのね、これ……」
 そう言うと、ダウンジャケットのポケットから小さな袋を取り出し、一人ずつに手渡していきます。
 神社の名が刷られた紙袋の中には、交通安全のお守りが入っていました。それは慎吾君が、お参りの前にトイレに行くふりをしてこっそり買っておいた物だったのです。
「えっと、皆、お仕事行く時とかいつも、車やバイクに乗るから。去年はいろいろ有難うございました。今年もよろしくお願いします!」
 大真面目に言って、深々とお辞儀をする慎吾君。
 それを見た全員の胸に、あたたかなものが拡がっていきます……。
「サンキュ、慎吾! 俺もうバッチリ安全運転だぜ〜〜♪」
 慎吾君を抱き上げて、その場でくるくると回る正道君。
「俺りゃ、去年は車ぶつけられたしなァ? んでも、今年はシンのおかげで大丈夫だな!」
 目のなくなっちゃう笑顔で、慎吾君のおでこに自分の額をコツン、とぶつける健ちゃん。目を細くした江端さんは、黙ったまま大きな手で慎吾君の頭を撫でてくれます…。
「有難う、慎吾君。凄く、凄く嬉しいよ」
 可愛くて仕方ない、といった表情で慎吾君を抱きしめた後、貴奨さんの耳元に囁く高槻さん。
「……お年玉は『新年会』の時にあげる事にしたんだったよな? って事は、これは慎吾君が日頃のお小遣いを貯めておいて、皆に買ってくれた訳だ……ほんとに、何て可愛いんだろうね。おまえには勿体無い位だよ……」
 もういっその事、私にくれない? と言って笑う高槻さんに、貴奨さんは極上の笑顔で答えました。

「羨ましいだろう。……だが、誰にもやらん」

 手をつないで駐車場へと向かう二人の後姿を見ながら、高槻さんは呟きました。
「あんなの見せられたら、私も弟が欲しくなっちゃうなぁ」
 すかさず「俺がいるじゃん!」と自分を指す正道君に、高槻さんは小さく溜息をつきました。
「慎吾君みたいな、可愛くて健気な子がいいんだよ」
「………………(泣)」

 帰り道。貴奨さんの車の助手席で、とうとう慎吾君は眠り込んでしまいました。その口元には、うっすらと笑みが浮かんでいます……夢の中では、まだ皆と一緒にいるのかもしれません。
 ……今年もきっと、相変わらず楽しい年になる事でしょう……。
 慎吾君にとっても、他の皆にとっても。


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