(番外)天主塔の頭の痛い人々
若い女官が血相を変えて給湯室内に駆け込んできた。
休憩室もかねたここでは、多数の女官がめいめい自由にくつろいで歓談を楽しんでいる。
若い女官が向かったのはその中の一団だった。足早に近づくなり、声を押し殺して言った。
「大変よっ! 桂花様がアシュレイ様とお二人だけでお庭を歩いてらっしゃるわ!」
「・・・なんですってぇ? これは『桂花様ファンクラブ』のメンバーとしてはとても見過ごせない事態ですわねっ」
天主塔内の、つい最近結成されたばかりの『桂花様ファンクラブ』は、少数派ながらも現在着実に会員数を増やしている。
「え〜! やだあ、せっかく柢王様が天主塔にいらっしゃるのに、どうしてよりによって仲がお悪いアシュレイ様とご一緒なのかしら? 柢王様とお二人でいらっしゃる所を見たかったのに〜!」
「え〜、でもぉ、桂花様が執務室で若君と、こ〜んなふうに顔をお近づけになってお二人で書類を見ながらお話ししてらっしゃるとこなんか、『いや〜ん、なんかあっぶな〜い。でも素敵っ♪』ってかんじィなんだけど。」
・・・額を寄せ合って議論しながら見ている書類の内容が、たとえ乙女のドリームなんぞ一分も入る余地もない天界の生ゴミ処理の問題についてだとしても、
「ええ、とってもよくわかるわ、その気持ち・・・っ」
「そうですわ。お仕事中の桂花様って凛としてらして、と〜ってもお素敵よね・・・(←遠い目)」
夢見る乙女(爆笑)はそういうものを本能的に濾過して美化してしまう機能を持っているらしい。
「・・・そうよっ! いつもアシュレイ様が桂花様に対して乱暴な態度をとっていらっしゃるのも、もしかしたら『愛情の裏返し』と言うものかもしれないわっ!」
(↑それはない。絶対にない。)
・・・ついでに想像が(妄想か)論理や倫理をすっ飛ばしておそろしい方向に飛躍させてしまうという困った機能もついているようだ。
「そう言われてみれば・・・桂花様、なんだかとても困ったっていうお顔をなさってたわ。・・・やだぁ、もしかしたらアシュレイ様が強引にお誘いになられたのかもしれないわ」
「『強引に』! ・・・っきゃ〜♪」
「きゃ〜♪ よねっ」
「きゃ〜♪ だわっ」
「きゃ〜♪ ですわっ」
なにが『きゃ〜♪』なんだかさっぱり判らないが、 なんだかとってもイっちゃってるところあたりは守天のファンクラブの会長といい勝負かもしれない・・・。
・・・・本人達が聞けば耳から血ィ吹いて卒倒しそうだ・・・。