ローパーのイベント特別編とは?(前編)side A
8月も終わりに近づいてきたある日の朝、忍は目を覚ました。
「・・・・・・・・・・・・っん〜〜」
いつも通り定位置にある目覚まし時計に手を伸ばし時間の確認をする。
「ウソッ! 12時23分寝過ぎだよぉ〜」
昨日は二葉のバスケの練習に一緒に行くはずが連日の残暑続きで家の外に出られなかったのだ。
いや、1度は外に出たんだけど急なめまいに襲われてその場にしゃがみこんでしまった。結局、携帯から二葉に行けないことを告げて家に帰ってしまったんだ。今になって無理してでも行けばよかったと思ってしまう・・・俺の馬鹿!
今日の天気は昨日とは打って変わってやさしい陽射しと秋のように涼しい風だ。体調もよくなったのでシャワーでさっぱりしてから朝食を軽く取り、母さん達が食べていった朝食の片付けをした。部屋も簡単に片付けて今日の予定を考えようとした時、電話が鳴った。
「はい、・・・一樹さん」
『おはよう忍、体調のほうはどう? 心配してたんだよ』
「1日中寝てたら治りました。ちょっと暑さにやられちゃって・・・。携帯の着信履歴に5件もあったし心配させちゃったんですねあとで電話しときます。」
『俺が忍の心配したんだよ?』
「一樹さん・・・・・」
電話のむこうでくすくすっと笑い声が聞こえる。
『今日は何か予定あるの?』
「家で勉強しようかと・・・予定ってほどじゃありませんけど」
『じゃあ俺と遊ぼうか。7時に迎えに行くからね』
最後にCHUっと音がして一方的に電話は切れてしまった。
7時前に一樹さんは愛車ディアブロで迎えにきてくれた。初めて会った時から乗っているので車のことよく知らない俺でも大切に乗っているの伝わってくる。安全運転をしている一樹をそっと見る、やわらかい金茶の髪に明るいブラウンの瞳、白いなめらかな肌。イエローパープルの支配人をする一樹を外見だけで判断してヤケドをした人間は星の数ほどいるだろう。
「久しぶりだね忍が隣に乗ってくれるの」
「そうですね、最後に乗ったの忘れちゃうくらいかな」
「ふふっ、やきもち妬きの恋人が乗らしてくれないしね」
「一樹さんっっっ! 〜ぁ、どこに向かっているんですか?」
「ローパーだよ。今日はイベントをやることになっていてね気の知れた人しか来ないから忍も安全だと思ってね。それに少し手伝って欲しいことがあるんだ」
「イベントですか? 誰か呼んでいるとか?」
「今日は誰も呼んでないけど特別なイベントなんだ。でも何をするかは教えない〜後のお楽しみだよ。さぁ着いた今夜はハメはずして遊ぼうね」
六本木にあるクラブ『イエローパープル』ローパーはお酒を出すので本当なら高校生の俺は入れないところだ。
「とりあえず1階に行こうかあそこなら食事できるし」
一樹さんは俺の手を引いたまま店に入っていった。入っていくとカウンターの中では卓也さんがタバコをくわえていた。俺たちをみるといつものポーカーフェイスを崩し困惑した表情した。
「・・・・・ほどほどにしとけよ」
「なんのことだい卓也♪ あぁ忍にごはん作ってくれる?」
「おまえも食え!」
わけのわからない会話のあと目だけで卓也さんはあいさつするとすぐに食事の支度に入った。卓也さんはちょっと見は怖いけどハンサムで背も高くて文句なしにカッコイイ小沼ご自慢の恋人でこの店のバーテン&副支配人である。15分も経たないうちに2人分の皿が出てきた。あいかわらず手際がいいなぁ。
「これロックフォール使ったね」
「ロックフォールってなんですか?」
目の前にグラスを出されたので、フォークにからめて一口食べてみた。
「チーズですね・・・青カビかな?」
「ああ、白菜とパスタにロックフォールを白ワインで和えたんだ。簡単だぞ」
「ロックフォールはねイタリアのゴルゴンゾーラ、イギリスのスティルトンと並んで世界三大チーズと言われていてね羊の乳で作られているんだよ」
ヘェーっと俺が言いながら皿を片付けていると一樹さんは箸を(フォークだけど)休めながら俺を見つめてきた。
「フフフ・・・それ食べ終わったら俺と遊ぼうね忍ぅ〜」
この人ににっこり微笑まれて逆らえるヤツはいるのだろうか・・・・・
謎だらけの今夜、1つだけ確信できることは一樹さんにとっては最高に楽しい夜になるということをだけだった。