JUST 2
「おい、あんたこの人に何してんだよっ?!」
2人の突然の出現に俺は反応が遅れてしまって、気がついた時には伊田が二葉に掴みかかっていた。
その瞬間、二葉の右手の力が強まって俺が痛さに顔をしかめると、それに目ざとく気がづいた伊田がますます怒気を荒げて二葉にくってかかっていく。
「離せって言ってるだろ!! 池谷先輩、大丈夫っすか?」
伊田は強引に俺を自分の方に引き寄せようとしたけど、二葉は決して手の力を緩めようとはしない。逆に俺の腕をグッと引っ張って、その反動で俺はバランスを崩してしまい、二葉に抱きかかえられるような体勢になった。
「なっ?!」
相手の行動の非常識さが信じられない、とでも言いた気な伊田は目を白黒させて二葉を睨みつける。
一方、二葉は冷めた目で伊田を見返すと、俺の肩を掴む手に力を込めた。
俺はハラハラしながら2人を宥めようとしたけどダメだった。
二葉の俺の肩を掴む手は痛くはなかったけど、俺の動きを封じるくらいには強くて、それを許してくれなかったんだ。
「お前こそ誰だよ。人に訊ねる前にてめぇから名乗るのが筋だろうが。」
あぁ? と、伊田に詰め寄る二葉はまるでチンピラだ。
「大体、忍は俺の・・・」
そこまで言いかけた二葉を、まさか・・・という気持ちで仰ぎ見る。
俺の視線を感じて、二葉はチラッと俺の目を見つめ返すと軽く溜息をついて言葉をついだ。
「俺はこいつの友達だよ。」
言い方は穏やかだったけど、明らかに声には敵意がにじんでいた。
俺は、二葉に皆の前で恋人だと言わせなかった事へ後ろめたさを感じながら、心の中で、ごめんね、と繰り返してた。すると、まるで気持ちが通じてるよっていってくれてるみたいに、二葉が肩をなでてくれる。
俺はすがるような目で二葉を見上げると、二葉は目の端だけで優しく笑ったかと思うと、次の瞬間(正確には伊田の方に目を向けた瞬間)獰猛な肉食獣の目になってた。
(マジでやばい・・・)
俺は、肩の上にある二葉の手がもう体を拘束する程ではなくなっているのに気づくと、ゆっくり肩からはずして二葉と伊田の間に割って入った。
俺は思いっきり優しさと余裕さをみせる感じで伊田に話した。
「違うんだよ、伊田。二葉は小沼のいとこで、俺の親友でもあるんだ。何か誤解させちゃったみたいだけど、大丈夫だから・・・ね?」
軽く伊田の腕をポンポンとたたいてやると、伊田は戸惑ったように二葉と俺とを交互に見つめる。
俺は伊田が納得するまで待つつもりで、じっと微笑んだままでいると、やがて伊田は小さく頷いた。
「そっか・・・小沼さんの。すいません、何か俺、早とちりしちゃったみたいで・・・」
本当にすまなさそうな伊田の態度は、まるで大型犬が飼い主に叱られてうなだれてるみたいだった。何だかそれが可愛くて思わずくすっと笑ってしまう。
(タレてる耳まで見えてきそうだな。)
そう思ったのも束の間、二葉の次の声で俺の体は凍りつく。
「伊田・・・だと?」
(しまった!!)と思った瞬間にはもう遅い。二葉のオーラは、敵意を通り越して殺意すら感じそうな程、いつ伊田に殴りかかってもおかしくないくらい凶悪になってた。
「伊田って、お前があの伊田か・・・。おい、後輩ヅラして人の・・・ダチに妙な真似してんじゃねえよ。」
「何の事ですか?」
「何がカウントしないんだって?」
その瞬間、俺の頬が真っ赤になる。
俺はさっきの余裕顔なんかできなくって、それどころか伊田の顔さえ見ることができなかった。だって、きっと呆れてる。
何でもベラベラしゃべる奴だって思われたに違いない。しかも男が男に・・・された話なんて。たとえそれが救急処置だったとしても。
俺は他人に嫌われるのなんか慣れっこだと思ってた(だって別に大事な人さえ自分の事を分かってくれてたらそれでイイって思うようになってたから・・・これってきっと小沼の影響かな)。なのに、なぜだか伊田には軽蔑されたくなかった。ぎゅっときつく目を閉じると目頭まで熱くなる。(嘘っ、何で? 止まれ・・・)
早く涙が止まるように今度は逆に目を見開く。少しでも早く目が乾くように。
「カウントって何の事だ?」
その時、今まで黙って俺達のやり取りを傍観していた朝井が突然口を挟んだ。
(あぁもう、またややこしい奴が・・・)
伊田と二葉はその質問には答えるつもりはないらしくお互い睨み合ったまま動かない。ヘタをしたらこのまま延々続くであろうバトル(?)をうち切る事を決めた俺は三人を無視して口を開いた。まだ目は赤かっただろうけど気にしない事にする。
「二葉、帰ろう。伊田ごめんな。俺今日は二時までに家に帰らなきゃいけないんだ。二葉にも、だから足頼んでたしさ・・・」
その後は伊田にも朝井にも目をやらずに俺はバイクのメットを自分でさっさと被ってしまう。二葉は最初納得いかないようすだったけど、すぐ自分もメットを被ってバイクにまたがった。俺は二葉の腰に手を回してぎゅっとしがみつくと、二葉はすかさず発進させた。
その時メット越しに心配気な伊田の顔と、そのちょっと後ろに怖い顔をした朝井の顔が見えたけど、そんな事もうどうでもよかった。
だって、せっかくの貴重な時間をこんな事で潰したくなかった。
早く二葉と二人っきりになりたかったんだ。