JUST 3
二人がバイクで走り去った後、俺はしばらくその場を動く事が出来なかった。
(池谷先輩・・・)
先輩のいう事を疑うつもりはないけどあの二葉って人、本当に先輩の友達なんだろうか。
小沼さんのイトコだって言うんだから先輩と親しくしててもおかしくないし、実際バイクの傍で並んで立っていた二人は何だか他の誰もが立ち入れない雰囲気だったけど・・・。
一瞬その状況を先輩が不良に絡まれてると誤解したのも事実だ。
先輩、本当はあの人が怖くて無理矢理付き合わされてるんじゃ・・・そこまで考えてすぐにその考えは否定する。確かにちょっとヤバめな雰囲気を持った奴だったけど、先輩を大事にしているのは誰の目にも明らかだった。
(友達ならいい・・・けど、あれが友達に向ける目かよっっ!)
あいつの俺を見る目なんか「人のものに気安く触るんじゃねぇよ」ってカンジで、先輩に対する独占欲がありありだったじゃないか。
(あいつ、絶対池谷先輩のこと・・・)
「くそっ!!」
今さらながらあの二人をそのまま見送ってしまった事を後悔して足を踏み鳴らした。それでもイライラはおさまらなくて、握りしめた右拳の指にきつく歯をたててみる。
「おい、呼び出したのはお前だろう。用がないなら俺は帰るぞ。」
「あ、忘れてた。」
今まで黙って立っていた生徒会長が口を開いてようやく彼の存在を思い出した俺だった。
俺がおどけてペロッと舌を出してみせると相手はあからさまに嫌そうな顔をする。
「やだなぁ、そんな顔しなくたって・・・すんません、とりあえずどっか入りましょうか。」
俺は相手の答えを待たずにそのまま足先を二人が去ったのとは反対方向に向けて歩き出した。
以前、池谷先輩が体育館で気を失いそうになった時(正確にはちょっと違うけど)、俺はこいつが原因だと思って三年の教室まで乗り込んだ事がある。その時、俺はこいつをぶん殴って先輩に何をしたのか聞いたけど、こいつは顔色一つ変えずに俺を追い返したのだった。
その日先輩は休んでて、翌日登校してきた時にはちょっと元気になったみたいだった。
でも、何だかこいつは先輩に何か言いた気なようすで、先輩もそれには気づいていながらもあえて無視してる感じだった。俺もその事について聞いたりはしなかったけど、先輩が自分を追いつめててそこから元気を取り戻した事に関係があるんじゃないかっていうのは分かった。
そしてその後、俺は先輩と喋る機会が多くなったんだ。
今までは俺が一方的に先輩を追いかけてたけど、先輩も俺を見つけるとどんなに遠くにいても声をかけてくれるようになった。
話の内容は大半が小沼さんかアメリカでの生活について・・・。
特に先輩はアメリカの話に興味があるらしく、話し始めるとお互い時間も忘れて、時には本鈴が鳴って慌てて教室に駆け込むなんて事もある程だった。俺も向こうでの話ができる相手が学校にいることがメチャクチャ嬉しくて、そして何より先輩が目を輝かせて話を聞いてくれるのが楽しかった。
でも、放課後なんかに生徒会室で話し込んでいる時こいつが来ると、途端に先輩は困った顔をする。それでもそのまま無理に話を続けて、まるでワザとこいつに聞こえるように話をし、その挙げ句、その場の空気に耐えられなくなるのか先輩は教室を出ていってしまう。
またこいつが何かしたに違いないと思って、今日のホームルームが終わるのを待ってから三年の教室に行ったんだ、こいつを呼び出しに。周りは何やら俺達の事を囃し立ててたけど、お互いそんなものは気にしない。こいつも静かに俺について来ただけだった。
でも、実際俺はさっきの二葉って奴を見てからすっかりそんな事は頭から抜けてしまっていた。
(こいつの事もなんかどうでもいいカンジなんんだけどなぁ・・・)
それでもここまで連れてきた手前そんな事も言えず、とりあえず話だけは聞いておこうかとも思い、どこか入れる場所を探すことにする。
昼時を少しまわったとはいえ、ファーストフード店は学生や会社員でいっぱいだ。仕方なく駅を越えて少し行くと、こじんまりとした喫茶店が目に入った。
「ここでいいっすか?」
無言で頷く相手にやれやれと溜息をつくと、とりあえず俺達はその店に入ることにした。