投稿(妄想)小説の部屋

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No.317 (2001/07/24 17:02)投稿者:じたん

2人だけの休日 3

 それからさほど時間もかからず仕事を切り上げた絹一は、かたずけが終わった頃ちょうど風呂からあがってきた鷲尾と交代するように浴室に入った。
 手早くシャワーを浴び終えた絹一は先ほどからジンを飲んでいた鷲尾に同じものが飲みたいと言って無言で渡されたそれをひと舐めし、自分にはとても無理だと言って謝ると、その様子を苦笑しながら見ていた鷲尾がいつのまにか作ってくれていたカンパリを嬉しそうに受け取った。
 クーラーで程よく冷えたリビングにで、小さく流れてくる有線に耳を傾けながら少しずつグラスをあおる。
 とくにこれといった会話もなく、流れていく時間はとても穏やかなもので…少しだけ甘い空気と、久しぶりのアルコールに酔ってしまったのか。
 いつのまにか自分に凭れて眠ってしまった絹一を、鷲尾はしばらく見つめていたが、ジンの残りをあけてしまうとすっかり自分にまかせきっている軽い身体をそっと抱き上げた。
 絹一が一番安心して眠れる場所をベッドに作ってやるために…

 休暇二日目の朝。
 低血圧の絹一にしては珍しく早い時間に目がさめてしまった。
 クーラーでひんやりとした室内に、自分を包み込む熱い体温はとても気持ちよく、離れてしまうのがもったいなくて彼の胸にずっと頭を乗せていた。
 直接響いてくる心臓の鼓動に母親の胎内にいる錯覚を起こしながら、夢見ごごちでうっとりしていた。
 いくら鷲尾でもこんな時間に目覚めることはないだろうと、絹一は小さな悪戯をする気分で彼の胸に額を摩り付けた。
 すりすりとほお擦りしながら、ボタンの外れたシャツの隙間から覗く小麦色の素肌に目が吸い寄せられる。
 きれいに筋肉のついた鷲尾の胸を、シャツの下に想像しながら、そっと彼の寝顔を盗み見た。
(…眠ってる…よね…)
 ほんの少しドキドキしながら、シャツの隙間を指でそっと辿り、3っ目、4っ目とボタンを外していく。
 少年のような無防備な寝顔の鷲尾がいけないのだ。…きっと。
 そんないいわけを自分にしながら、シャツをくつろげてその広い厚い胸に唇を押し付けた。
 張りのある肌を柔らかく吸い上げながら、鷲尾が自分の胸に唇で触れてくるときもこんな気持ちだろうか…と思ってみる。
 思いながら額を摩り付け、ほお擦りをし、唇でまた触れた。
 先ほどから口元に小さな笑みを浮かべ、薄目を開けている男には気付かないままで…そんな無防備な素のままの絹一と自分の胸を辿る彼の唇にくすぐったさを我慢しながら、鷲尾はしばらく彼の好きにさせていたが、ふいに自分の胸に広がる艶やかな黒髪を撫でてやりたくなって、小刻みに動く絹一の小さな頭を手のひらでそっと包み込んだ。
 その途端、絹一の動きがピタリと止まる。
 ほんの少しまずかったかな…と思いながら、鷲尾は絹一の髪を撫でているのとは反対の手でブラインドのスティックをほんの少しまわした。
 細く差し込んでくる朝の光に眉をよせながら、自分の胸に預けられていた絹一の身体を今度は自分のしたにしき込む。
 いきなりの自分の行動にどうしていいかわからなくなってしまった絹一の顔を、身体をずらして覗きこんだ。
「おはよう」
「…………」
 鷲尾の胸から引き剥がされて、先ほどから真っ赤になったままの自分の顔を隠すことが絹一にはできない。
 至近距離で見つめてくる輪塩の目から、逃げることもできなかった。
「…good morning?」
 今はもう自分でさえもが聞きほれるきれいな発音で、鷲尾が悪戯っぽく囁いた。
 きっと自分が目覚める前から、この男は起きていたのだろう。
 自分が鷲尾にこんなふうに触れることは何度かあったが、気付かれたのは初めてだった。
 それとも。実は今までも全部…起きていたのだろうか。
 起きて気付きながらも、鷲尾は自分の好きにさせていたのだろうか。
 心あたりがないわけではない。
 自分がこんなふうにした朝は、必ず鷲尾はそれ以上を求めてきたから。
 朝っぱらから彼を挑発していたのか。今まで自分は。
 そんな考えでぐるぐるになってしまった絹一には構わず、鷲尾はきっちりと一番上までとめられた彼のパジャマのボタンを唇で外し始めた。
 ひとつ外すたび、あらわになっていくシルクの素肌に、赤いボタンをとどめていく。
 へそのあたりから腰に広がり、そのまま背筋を這い上がってくる甘い感覚に絹一の背がビクッと弾んだ。
 その身体をそっと押さえつけながら、鷲尾の唇が再び胸元まで戻ってきた。
 吐息が熱くなってしまうのを押さえられないまま、目の前に迫ってきた広い肩を、絹一の両手がつかんだ。腕を伸ばして突っぱねようとする。
「…イヤです」
「お前だって同じことしたくせに?」
「同じじゃありません」
「ここまでは同じだろう?」
 これで終わらせるつもりのない鷲尾が、少し意地悪く笑うのに、絹一の顔がカッと赤くなる。
 ふい、と横をむいた彼の表情を見つめながら、鷲尾は自分のシャツの最後のボタンを外した。
 そむけた視界の端に、鷲尾のセクシーな腰まわりをとらえて絹一は耳まで熱くなってしまった。
 初めての時だってこんなに恥ずかしくはなかった。
 自分にとって鷲尾と抱き合うことなど今はもう当たり前になっているのに…突っぱねていた自分の手もシーツに縫い付けられ、自分の素肌を辿りながらパジャマを肩から滑らせた鷲尾の唇を、目を閉じて感じた。
 朝の光の中だから。隠れる場所などないのだから。
 せめて熱っぽくなってしまう自分の瞳を見られたくない。
 暗闇で抱かれるよりも、きっと自分は感じてしまうのだから。
 鷲尾の腕の中で乱れていく自分の姿をとろけ始めた脳裏に絹一は映し出していた。
 まぶたが震えてしまうほどきつく目を閉じて。


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