Wish and believe
一年間、恋人に逢うのを楽しみにロスで過ごした。
忍がきたら、連れて行ってやりたいとこも沢山見つけた。
離れて、身にしみたよ…
あいつのちょっとした動作や仕草、その全てで俺が成り立ってる、あいつがいなきゃ、俺はぬけがら同然…ってな。
なのに…
一年ぶりに逢う恋人は別人になってたんだ。
兄貴に連れられてロスにきた忍は全ての記憶を無くしてた。
俺とのことも、全て…だってよ。
なぁ、知ってるだろ、忍…
俺は弱い奴なんだよ。やっと逢えたってのにおまえを目の前にして、すがることもできないのかよ!
俺はどうすりゃいいんだ!?
「…辛そうな顔…してるね…」
「忍!?」
「一樹さんが言ってた。俺達は…」
そこで忍は言葉を止めた。そりゃそうだよな、男同士で恋人だなんて…今の忍には考えられるわきゃないよな。
「この街で、産まれたの?」
「ああ…」
「この学校には一年前から通ってるんだよね?」
「ああ…」
「じゃあ、まずはここを案内してくれる!?」
忍は精一杯俺に気を使ってる。
本当は俺のこと怖くて仕方ないはずなのに…
記憶を無くしてるってのに、こいつ本来の性格は残ってる。
優しいんだよな、忍は…
「なぁ…」
「…なに!?」
「おまえの記憶、俺とのことも全部取り戻してやるからな。」
忍の肩に手をおくと震えが伝わってくる。
だからさ
「怖がるなって、俺達アツアツのカップルなんだぜ!」
ってウィンクしてやった。
「そう…みたい…だね、ごめん、何も覚えてなくて…」
「いいって、おまえのせいじゃないだろ。でも、自分の名前位覚えておけよ、呼ばれたらすぐ反応しろ、いいな」
「…うん」
「言ってみろよ。」
「なっ、なにを!?」
「名前だよ、おまえの」
「…池谷…忍…」
「それから?」
「えっ!?」
びっくりしたような目が俺を一瞬だけ見て逸らされた。
「俺の、名前」
「…二葉・フレ…」
「ストップ! 二葉だけでじゅうぶんだ。」
俺達のロスでの生活はこうして始った。
まだ大学は始ってないから、忍が不自由しないよう案内してやる。
俺から一歩さがってついて歩く忍…
始めて見る景色に心なしか目が輝いてる。以前の忍のように…
俺、おもわず肩を引き寄せちまった。
「二葉!!」
「ごっ、ごめん…忍。」
視線を落とし、俯いてしまった忍。
そうだよな、忍は人前でベタベタされんのキライだったんだよ。
そう…キライなんだよ、忍は…忍は…
あん時の声はびっくりした声じゃなくて、怒ったときの忍の声だ
記憶は無くても、すぐに戻らなくても
でも、1からやり直したら…!?
俺達が出会った頃からやり直したらどうなんだ…
もう一度アタックすりゃいいんだよ。
絶対うまくいくって!!
その前に一樹がいたっけ…まっ、あいつには逢わさなきゃいいんだよな。って、ムリかもしんねぇけど。
でも、俺と忍はうまくいくって!!
そーだよ
焦ることないじゃん、忍は今ここにいる。
たまに見せる動作や仕草は以前の忍そのまんまで、俺の心の支えになってる。
電話での連絡はわりとマメにしてたんだぜ。
だから、忍の様子を見るのと帰国のことで兄貴が俺達のとこに来たのは2週間してからのことだった。
「忍の表情がかわったね。明るくなってる…」
「だろ、俺の愛情で支えてるからな。」
「大人になったね…二葉」
そう言いながら兄貴は俺じゃなくて忍の側に行き、髪や頬を撫でてる
「一樹…さん」
「俺好みの忍に戻ってきてるね。」
「一樹!」
「はいはい、じゃあ忍、二葉と仲良くね。」
…ったく兄貴は、油断も空きもありゃしない。
「兄貴、皆に伝えてくれよ。忍は俺にまかせろ!ってな」
兄貴は『フッ』と笑って手をひらひらさせながら帰って行った。
別れの言葉は『忍、何かあったら電話しておいで。コレクトコールでいいからね』
って、まったく…
まぁ、そこが兄貴のいいとこでもあるんだけどな。
これから始る俺と忍…
うだうだ考えても仕方ないじゃん。
信じるしかないんだよな。
「なっ…忍」
一瞬、忍が微笑んだように見えた。
それはほんの一瞬
見間違えかもしれないって思うほど一瞬だったけどな…