P,S・・・
「・・・それで?」
絹一はシャンパングラスを右手に持ちかえると、左手で髪をかきあげた。
素肌の肩にサラサラと流れ落ちるのをつい目で追ってしまう。
「鷲尾さん?」
「ああ・・・それでな、そん時俺は運良く賭けに勝って逃げおおせたのさ。」
そこで鷲尾は自分のグラスを絹一のグラスにかち合わせると、残りのシャンパンを一気に飲み尽くした。
そのままベッドのサイドテ−ブルへ置く。
ベッドヘッドに背を預け、うつ伏せて自分を見つめている絹一の髪を優しく梳いた。
「鷲尾さんて、昔から運の強いほうだったんですか?」
「そうだな、ここぞってときには女神は俺の腕の中にいたような気がするな。」
悪戯っぽく呟いたその鷲尾らしい言い方に、絹一の口元が柔らかく微笑んだ。
「お前はどうなんだ?」
「え?」
突然聞き返されて、内心戸惑う。
「お前を抱きしめる女神はいるのか?」
鷲尾は絹一の手から殆ど飲み尽くされたシャンパングラスを取り上げると、自分のグラスの横に置いた。
「さあ・・・どうかな。わかりません。」
「そうか」
ふっ、と瞳が笑いあう。
「ま・・・そん時は俺が抱きしめてやるよ。」
「・・・気障」
絹一はほんの少し鷲尾を睨んだ。そのまま視線を外す。
いつもの鷲尾の冗談なのに、一瞬どきっとしたのだ。
まるで、鷲尾のクライアントになった気分だ。
「おい・・・怒ったのか?」
「いいえ。」
彼女たちの気持ちが少しわかっただけです・・・とは言わない。
「じゃあ・・・なんだ?拗ねてるのか?」
鷲尾は小さく笑いながら絹一の頭の後ろに手をやると、自分のほうに引き寄せた。
「俺の腕の中に女神がいても、お前から求められたら俺はお前を抱きしめるぜ?」
だから、俺が欲しかったら自分から手を伸ばせ。
全く・・なんて男だろう。こんなセリフをサラリと言ってしまうなんて。
「どの口ですか? そんなセリフを恥ずかしげも無くいってのけるのは」
睨む絹一の目元がうっすら赤い。
「うるさかったら、塞いでみれば?」
鷲尾はそういって顎を突き出した。
どこまでいっても鷲尾のぺ−スからはのがれられそうもなくて。
でも、捕まっていることは嫌ではなかった。
絹一はゆっくりと唇をかさねていく。
簡単に女を落す唇を、気が済むまで封じ込めると、絹一はそっと離れた。
すり抜けようとしたその唇を、鷲尾は追いかけた。
「なあ・・・」
額に額を押し付けて、絹一の逃げ道をさりげなく断つ。
「さっきの俺・・・どうだった?」
あまりといえばあまりな質問に、絹一の顔が真っ赤に染まる。
声も出ない絹一を内心楽しでいるなどおくびにも出さず、真摯な口調でくりかえす。
「嫌だったか・・・?」
あなたに応えた俺を知ってるくせに・・・と言ってやりたいけれど。
そんなこと、口にできない。
「そんな事・・・聞かないでください。」
「余裕が無かったんだよ。」
生々しいセリフに絹一の耳は熱くなった。
「ホストに有るまじき・・・ってな。」
「知りませんそんな事。俺は・・・あなたしか知らないんですから・・。」
それは、今はあなただけだから、と鷲尾には聞こえた。
「・・・すごい殺し文句だ。」
「そんなんじゃ・・・・っ・・ン・・」
これ以上聞いたら自分のほうが参ってしまう。
鷲尾は内心苦笑しながら目を閉じた・・・。