投稿(妄想)小説の部屋

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No.269 (2001/06/20 20:37) 投稿者:じたん

SYANNPANN NIGHT

 不夜城なんて誰が名つけたんだか知らないが、この新宿にはぴったりのネ−ミングだと俺は思う。
 男と女とニューハーフ。ほかにも多種多様な人間の坩堝。
 誰が別れようが,死のうがこの街には関係ない。
 洪水のような光の流れる街。それと同じだけの闇も抱えてる。
 富と貧が表裏一体なんだ。

[おい、わ・・いや黒沢」
「間違えるなと言っただろう?」
「わりぃ。」
 やれやれ。何度間違えれば気が済むんだか・・・。言う気も失せるぜ。
 ったく・・・。
「今日、仕事の後で少しだけ時間取れねぇか?」
「なんだ? デ−トのお誘いとかいうんじゃねぇだろうな。本庄。」
 こいつの店、ゴールドパームが新宿に出店した時、俺は助っ人をしてやったことがある。
 ほんの一月の間だったが、ホスト連中を引っ掻き回して躾直しってやつをしたんだ。
 塔の立った若い連中は最初はききわけの悪いガキみてぇだったけど、今じゃマジメに働いてるし、実力もある。
 それなのに、なんで俺がここにいるかって言うと・・・説明すっと長くなんだよな・・・。
「ほんの2時間ぐらいなんだよ。つきあってくれンだろ?」
「・・・バカ。その顔は俺に通用しねぇって言っただろ。」
「頼むよ。な?」
 しょ−がねぇな。
「・・・2時間たったら帰るからな。」
「サンキュ」
 相変わらずにやにやしやがって。
 俺はサングラス越しに本状の奴をねめつける。・・・こいつにそんなモンは無駄だけどな。
 本庄は言いたい事だけ言うと、さっさとオ−ナ−ル−ムにひっこんだ。
 フロア-をモニタ−で監視してるんだ。
 ま、一応オ−ナ−だしな。
「黒沢さん! お願いします!」
 おっと、呼ばれちまった。

 俺がなんでまた黒沢の名前でここに来てるのか。
 最初っから話すと2週間前の事から説明しなきゃならない。
 まあ、ようはまた本庄からSOSが入ったって事なんだが。
 本庄の電話があったさらに2週間前。奴は母親を看取った。
 ずいぶん長い事入院していて、それなりに覚悟はしていたらしい。
 で、奴が葬式だなんだと広島に帰っていた4日間。俺はオ−ナ−代理の任を預かった。
 別にこれといったゴタゴタも無く、俺はそこで御役御免になるはずだった。
 ところが。
 俺が自分の仕事を始めるかって時に泣き付いてきやがったんだ。
 沿道達がどうしても少しの間いて欲しいと言ってると。
 別に仲がいいわけでもなんでもねぇのに、と思ってたんだがな。
 仕事、見せて欲しいと。
 最初は、なに甘ったれてんだか、と思ったんだが。
 あの沿道が真摯な目ぇして詰め寄ってきやがって。
 まあ・・・2週間ぐらいならいいかな・・・とな。
 俺も・・・ずいぶん甘いよな。
 俺が甘やかすのは・・・一あいつだけかと思ってたんだがな・・・。

 でも、今日は最終日なんだ。これで、晴れて御役御免だ。
 店がCloseを迎えて沿道や安達たちとも挨拶が済んで。
 誰も居なくなったフロア-で煙草を取り出す。
 本庄はまだ来ないようだ。簡単な残務整理があるんだろう。
 思い切り煙りを吸い込んだところで、胸ポケットに入れておいた携帯電話が鳴った。
 この電話も今日限りなんだ。俺には本来必要ないものだからな。
 この時間に掛けてくるということは、店が引けて落ち着くのを知ってる奴ということになる。
 客にもあまりこの電話のナンバ−はオ−プンしていない。
 電話番号の表示画面を見て、俺は自然と自分の口元が笑ったのを自覚していた。
「・・・鷲尾さん?」
 遠慮がちな、アルトよりも少し低い声。
 俺の・・・腕の中では・・・もう少し高くなるんだ・・・。
「・・・よお。どうした?」
「いえ。・・・あの、今日でおしまいでしょう? もう帰れるんですか?」
「いや。ヤボ用が出来てな。あと2時間ぐらい駄目なんだ。」
「そうですか。」
 なんだか残念そうだな。
「なんだ?」
「俺も・・・今仕事が終わったんです。」
「そうか」
「鷲尾さん。」
「ん?」
 受話器の向うからため息のような絹一の息使いが聞こえてくる。
 まったく・・・無意識でやってるんだからな。・・人の気も知らねぇで・・・
「・・・あなたの部屋で・・・待っていてもいいですか?」
(今日は・・・どうしてもあなたに会いたい。・・・だめですか?)
 絹一の、言葉にはしない囁きが聞こえたようで・・・。
「・・・先にシャワ-浴びてろよ?眠くなったら・・・」
「いえ。・・・待ってます。」
「ああ。じゃあな。」
「はい・・・。」
 電話のきり際に、唇を鳴らす小さな音がした。

 本庄が俺を連れていったのは、店から少し離れたバ−だった。
 うるさいガキなどもいない落ち着いた店内は光を最小に絞ってあるせいか、まるで隠れ家のようだった。
「お前がこうゆう店に出入りしてるとはな。もっと賑やかなところが好きなのかと思ってたぜ。」
「そうか? 一人で飲む時はこうゆうところに限るんじゃねぇか?」
 奴はバ−テンにシャンパンを二つオ−ダ−すると、意味ありげに俺を見た。
「彼女とうまくいってんのか?」
「・・・さあね」
 その時、俺は微笑んでいたんだろう。・・・さっきの電話を思い出して。
 奴は、それ以上は聞いてはこなかった。
「助かったよ。色々と。・・・ありがとうな」
「なんだか気持ち悪ぃな。」
 ふっ、と奴は笑うとシャンパンで乾杯しようと言った。
「花もありがとうな。おふくろ、きっと喜んでるよ。」
「このシャンパンの意味はなんなんだ?」
「ああ・・・命日じゃねえけど、おまえの親父さんに。」
「知ってたのか・・・。」
「まあな。」
 本庄は俺を見て小さく笑うと、シャンパンを一気した。

「これは、彼女にプレゼント」
 本庄の奴はそう言って、帰り際俺にシャンパンを一本持たせた。
「待ってんだろ?」
 こいつ、聞いてやがったな。
「振られんなよ!」
 背中で聞いた奴の声に、ボトルを軽く持ち上げて別れを告げる。
 帰ったら、絹一とこれを飲もう。
 酒のつまみに俺の小さい頃の話でもしようか。
 あいつはどんな顔をするだろう。
 あの、綺麗な微笑みを浮かべてくれるだろうか・・・?


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