投稿(妄想)小説の部屋

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No.261 (2001/06/17 14:23) 投稿者:桜草

上弦の月(1)

 人間界が誕生する以前の話し。
 ここに存在するのは天界と魔界、本来出会うことのない種族が二つの世界を隔てる結界の歪みにより、あいまみえた。
 そして、何百年というときの間、飽くことなく繰り替えされる殺戮。
 その中で出会った神族<柢王>と魔族<桂花>。
 やがて、その魂は一つとなり人間界の始りとなる運命にあることなど知るはずも無い。
 全ては、天界・魔界を創り出した最上界人の手の中で始りつつある。
 魔族の手から逃れ、ここ西の洞窟に入り込んだ柢王。
 そして、桂花もまた同じようにこの洞窟にいた。

『役者が揃ったようだな』
 最上界人の声と共に、天界・魔界の争いに終止符を打つための幕があがった。

 二人は剣を手に、お互いの視線を絡み合わせている。
 ふと笑みを見せ剣をおろした柢王。
 見逃すことなく切りつけてくる桂花の剣を容易くはじき返す柢王。
 だが、再度剣を構えた桂花に対し
「やめだ。やめ! こんなの馬鹿げてると思わねえか!?」
「馬鹿げている?」
「ああ、追手から逃れて来たんだぜ。今さらこんなとこで争ったって仕方ねえだろ」
「何が言いたい」
「共生しないか?」
「共生だと…」
 共生、共に生きる。神族と魔族が…
 桂花はまだ剣を構えたままだ。
 色素の抜けた髪、とがった耳、紫暗の瞳。
 柢王は桂花に目を奪われていた。
「何を見ている!」
「…綺麗なもんはいつまでも見ていたいもんだな。俺は柢王お前は?」
 桂花は答えない。そのかわりに剣を握る手に力を込めた。
 魔族に性別は無いと聞いている。
 だが、目の前にいる者に対しての性別など、今の柢王には関係なかった。
 ただ、目を見張るほど美しい。それだけ…
 桂花は柢王の真摯な瞳に、いつしか剣をおろしていた。

 柢王は自らこの魔族を守るため、洞窟付近一帯に強い気を込め結界を張った。
「共生などと言い出しておいて、一人で逃げたのか。吾を仲間に売りにでも出たのか、どちらにせよ…」
 そう言いかけたとき、今にも倒れそうな柢王の姿が桂花の視界に入った。
 瞬間、桂花の顔色が変わる。
「いったい何が。」
 桂花は柢王を支え、一瞬迷ったあと名を告げた。
「吾は桂花」
 柢王はやわらかな笑みえを桂花にむけた。
 今まで知らなかった肌に伝わる体温、静かな鼓動。
 桂花の胸に動揺が走った、と同時に感じた安堵感。
「この一帯に結界を張った。」
「何故そんなことを…」
「二人きりになりたかったんだよ。お前…桂花とな」
 そう言うと柢王は桂花の腕の中、深い眠りに落ちていった。
「なんて無茶を。吾を信用しているというのか、魔族である吾を」


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