上弦の月(2)
結界で守られている中、柢王は体力が回復すると家を建て始めた。
食事のための卓と、寝むるための寝台。
「さてと…」
柢王は家の中へ桂花を促した。
桂花は…。
「なんで来ないんだ?」
「吾はここでいい。」
桂花の心のなかに残る、あの時の柢王の笑み、体温、鼓動。
「何のために力を使い結界を張った? 何故魔族である吾の腕の中で眠れる?」
その瞬間強く腕を引かれる。
「何をする!」
「入れよ。お前のために建てたんだからさ。」
「吾の…ため?」
「信用できないなら、俺がここに残る。」
「柢王」
「ん!?」
桂花は押さえきれない思いを伝える言葉を知らない。
だから…
「おっと! こういうときは、ありがとうって言うんだぜ。いきなり抱きつくのは反則な」
そう言われ、とっさに身を引いた桂花を柢王は引き寄せた。
「…柢王」
「俺のこと信用してくれるよな。」
こくりと頷く桂花。
そして慣れていない笑みを柢王にむけた。
「やっと、笑ったな。」
「ここに、二人で住むのですか?」
「まだ何か問題有りか!?」
「寝台が…。柢王、あなたはどこに寝るのですか?」
柢王は髪をかきむしり、困った顔を桂花にむけた。
でも…
「一緒に寝ようぜ。な〜桂花。」
『全ては我の筋書き通り』
最上界人は微笑む。
結界の歪みに新天地を造り、人間という種族を創る。
神族と魔族の融合により創りだされる人間は、善と悪の心を持ち合わせて誕生するだろう。
だが、歪んだ結界は新天地に吸収され、神族・魔族の争いに終止符がうたれる。
三つの層に分かれた種族は二度とあいまみえることはない。
『我の役目もこれで終わる。』
「きょうは上弦の月だ。二人で一緒に満ちていこうな」
そこには、肩にまわされた柢王の腕に抗うことなく体を預けている桂花がいた。
上弦の月
新月から満月に至るまでの半円形の月をそう呼ぶ。
それは出会いから愛を得るまで…にどこか似ている。
柢王と桂花、二人のように…。