投稿(妄想)小説の部屋

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No.231 (2001/04/11 19:44) 投稿者:ZAKKO

芹沢さんちの慎吾くん《出会い編・後編》

「……そっりゃあ、ようござんしたね。もしかしてアレっすか、貴奨さんそん時の貝まだ持ってたりなんかするワケ?」
 甘甘な思い出話を聞かされ(しかも自分がまだ知らない頃の慎吾君の話です)健ちゃんの機嫌がたちまちナナメになります。
 貴奨さんはそれには答えず、優しげな微笑みを浮かべるのみ、でした。
「(っかーーーッ、ムカつくっ!ありゃ、絶対どっかに隠し持ってやがるな……ちッ、シンの初めてはみんな俺のだってのに。そん時俺が居たら、俺にくれたよなぁ、シン?!)」
『何故その場に居なかった、俺! いっその事、もっぺん小っさくなってみろ、シン!』と、かなり無茶な事を健ちゃんが心中で叫んだ時です。
 ふいに、リビングのドアが開きました。
 そちらに顔を向けていた正道君が『ぶはっ』とコーラを噴き出します。
「………てめ、いっぺん死ぬか? ああっ?!」
 正面にいた健ちゃんはコーラの霧をまともにくらい、こめかみをピクピクさせながら正道君の襟元を掴み上げました。
「やっ、ちょっ! あっちあっち!!」
 口をパクパクさせながら正道君が指差す方を健ちゃんが見ると……そこには。
「「「〜〜〜〜ッ!!!」」」
 三人の、声にならない悲鳴が部屋を満たします。
 そう……そこには何と、ぶかぶかのTシャツ姿の『ちびっこな慎吾君』が立っていたのです!!
 何という事でしょう。健ちゃんの心の叫びが、神様に届いたのでしょうか…?
 思わぬ事態に我が目を疑った面々でしたが、目の前には実際に10歳位に縮んだ慎吾君の姿があるのです。信じられなくても、事実は事実として受け入れなくてはなりません。
 我に帰ったそれぞれの脳裏を、それぞれの思いが駆け巡りました。
(……向井君に対する刷り込みを修正する、いいチャンスかもしれないな……)
(よし! この頃ならまだ、あーんな初めてやこーんな初めても……!!)
(慎吾のヤツ、ちびっこになっても全っ然変わんねーっ! ミニチュアっ…! マジで等身変わっただけじゃん、ぷぷっ☆)←笑い事じゃない。

 早速行動に出たのは健ちゃんです。
「シ〜ンちゃん、こっち来な?」
 笑顔で『おいでおいで』をする健ちゃんに、しかし怯えて後ずさる慎吾君。
「……お兄さん、だれ?」
 衝撃の嵐! 慎吾君はどうやら、今までの記憶を失っている様です!
 そこはかとなく漂う《危険な香り》とかすかに発散されている《俺はガキ嫌ェなんだよ!(シンは別だが)》オーラに敏感に反応しているらしい慎吾君は、徐々に健ちゃんから距離をとりつつ、貴奨さんの方へ移動していきます。
「……シン。来いっつってンだろ?!」
 その様子を見て思わずムッとする健ちゃんに、さらに怯えた慎吾君は……
「やだ……貴奨っ!」
 ひし、と貴奨さんに抱きついてしまいます。
「大丈夫だ、俺がいるからな。……ほら……」
 慎吾君の背中を優しく撫でながら、健ちゃんの方を見てフッ、と笑う貴奨さん。本人にはたいした意図はなかったのですが、極悪です。
「……何がおかしーんスかねぇ、貴奨さん?」
 かなりムカついた健ちゃんは、剣呑な笑みを浮かべながら貴奨さんに迫ります。貴奨さんは慎吾君を守る様に背後に庇うと、健ちゃんの視線を真っ向から受け止めました。
 無言で睨み合う二人を見て、慎吾君は今にも泣き出しそうです…。二人の視線の交わる場所で火花が散っている気さえしてきた正道君にも、勿論口ははさめません。
 一触即発か?! という所で現れたのは、江端さんでした。外で煙草を吸っていたので、ちょっと遅くなったのです。
 後から入ってきた大きなお兄さんを見た慎吾君は、本能で『この人は守ってくれる人だっ!』と感じ取り、江端さんの下へと駆け寄ると、腰の辺りにしがみつきました。
 まだ何が何だか解ってなかった江端さんですが、とりあえず二人がこの子供をはさんで睨み合っていた事は理解しました。しかも、この子は何故だか慎吾君にそっくりです……。
 その時。大きな目からとうとうポロッ、と涙がこぼれるのを見て、江端さんは慎吾君を抱き上げました。
「健はともかく、貴奨さんまで…大人げねぇんじゃないのか、二人とも」
 それを目にした健ちゃんが、ビシビシッと青筋をたてます。
「うら、エバタ! 俺のモンに勝手に手ぇ出すんじゃねえ!!」
 しかし、その怒鳴り声に驚いた慎吾君は、かえって江端さんの首に腕をまわし、『ギュッ!』としがみついてしまいます。
「やだ…っ。俺、あの人コワいよ…っ!」
「(ガーーーーンッ!!!)」
 貴奨さんに負け、さらに江端さんにまで。健ちゃんの《ちび慎吾をなつかせて、色々な初めてを俺が教えちゃおう計画》は早くも暗礁に乗り上げました。
 しかし、健ちゃんのいばらの道は、今始まったばかりだったのです……。

 その後、慎吾君は近所の小学校に転入する事になりました。何しろ記憶がないので、もう一度勉強し直さなければならないのです……手続きは全部、高槻さんがしてくれました。
 皆、いつかは元の慎吾君に戻ると信じてはいますが、今の慎吾君は10歳なのです。子供は小学校へ通うのが仕事です。
 ……さてさて、これから一体、どうなるのでしょうか……?


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