投稿(妄想)小説の部屋

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No.217 (2001/03/14 19:05) 投稿者:綺羅

桜爛漫・・・2

「絹一、今日は用事は無いのか?」
 ギルの言葉で絹一は画面から目を上げた。
「特にはありませんよ」
 絹一は苦笑して応えるが、ギルは諦めない。
「なあ、最近鷲尾とはちゃんとデートしているのか? 今日は残業なんてしないで早くあがったほうがいいのじゃないか?」
「ギル、心配は嬉しいのですが、鷲尾さんとは昨日一緒に買い物や食事もしましたよ」
 二人で過ごすのが久しぶりだったとは、おくびにも出さない絹一だ。
「そうか、でも何でよりによって今日でなくて昨日なんだ?」
 ギルは今日にこだわっている。
「恋人同士が過ごす記念日だぞ」
「ギル、1ヶ月前も同じ事を言いましたよ」
 絹一はその日ギルによって、定時に会社を出されたのだ。
「それに、今日は鷲尾さんには仕事が入っていますから、俺が早く帰ってもひとりですよ」
「鷲尾はいつまであの仕事を続けるんだ?」
 憤慨しているギルを絹一はなだめて仕事に戻った。
 ギルが常に身内同様に可愛がってくれるのを、絹一はありがたく思っている。
 が、時として行き過ぎるきらいの心配には、手を焼いても居たのだ。
 それでも、以前より素直に好意を受けられる絹一だった。

 花見が賑やかに行われていた時間をはるかに過ぎ、静寂があたりを包んでいる。
 車のライトに鮮やかに浮かび上がる満開の桜。
 咲き誇る桜の花に、絹一は魅せられていた。
 鷲尾は花の中に佇む絹一に、魅せられていた。
「鷲尾さんは桜の樹が、全て男だと知っていましたか?」
「いや」
「絢爛に咲き乱れるこの花も、一夜の雨に潔く散ってしまいます。武士道に通じるものと、昔の人は解釈したようですね」
 鷲尾には桜は儚い印象の方が強い。
「潔く散るか、俺には向かない言葉だ」
「そうですね、貴方は簡単に諦めたりしない人ですものね」
絹一の言葉に鷲尾が笑う。
「道は常に探すものだ。現状に甘んじているやつに明日はこないさ」
「貴方は・・・鷲尾さんはいつも前向きだ」
 微笑みながら、絹一はぶるっと身体を震わす。
 鷲尾が絹一を背中から抱きしめた。
「冷えてきたな・・帰るか」
 絹一は回された腕にそっと手を添えた。
「ええ、でも、もうちょっとだけ・・・」
 鷲尾に抱きしめられた絹一の背中が温かい。
 人ごみが苦手な絹一の為に、わざわざ真夜中に車を出してくれる鷲尾の気遣いが嬉しいのだ。
 ベタベタと甘える関係じゃないが、鷲尾は誰よりも絹一を理解していた。
「カイ・・・」
 ちいさなささやき、それだけで充分だった。
 鷲尾が回した腕を緩めて二人が向かい合う。
 絹一が鷲尾の背中に腕を回し、鷲尾が絹一の腰を抱き寄せた。

 その日が二人が出会った日であったと絹一が気づいたのは翌日だった。


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