投稿(妄想)小説の部屋

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No.203 (2001/03/04 23:52) 投稿者:なかじ寛之

「炎翠月下」7

「柢王! 私だ!! アーシュは?! 無事か!!」

 携帯ですぐさま自宅の番号を呼び出し、自分の部屋でアーシュの面倒をみて留守を預かる柢王にアーシュの様子を聞いた。
 車を運転しながら携帯に緊張した面持ちのティアに助手席の炎翠玉王は心配そうにティアをのぞき込みながら、右手でティアのズボンの裾を小さく握った。

「・・・・・。わかった、すぐに向かう! あと、5分程だ!!」

 携帯を切り。奮え痺れが来る指先に力を集中し、ハンドルとアクセルに力を込めた。

(頼む! 間に合ってくれ!! 私はもう! お前なしでは・・・アーシュ!!)

 ティアの感情が炎翠玉王に伝わったのか、炎翠玉王の小さな手から温かいモノがティアに流れてきた。

 ダイジョウブ・・・ダイジョウブ・・・チィ・・・ア・・・

「!!!!!」

 炎翠玉王から、伝わる言葉!!
 信じられない言葉を聞いて思わずブレーキを踏むティア!

 ティアは驚いて炎翠玉王に見入ってしまった。

「・・・今、言葉を私に伝えたのは君なのかい?!」

 炎翠玉王は首を横に振る。
 どうやら、自分ではないと伝えているらしい。

(まさか・・・アーシュ!!!)

 コクン

 炎翠玉王はティアの心を見たかのようにすぐさま答えた。
そして、ティアの頬と心臓に手をあてて目をつぶる。

 テ・・・ティア・・・アー・・シュ・・・ココ・・・ダイジョウブ・・・

 なんと! ティアに伝わってきたのはアーシュからの言葉だった。
 ティアは一生懸命一言一言伝えるアーシュに感情が溢れた・・・。
 きっと、自分の命を削って伝えてきている・・・。
 ティアは「もう、いいよ。すぐアーシュの側に行くよ」と言葉を伝えようとしたときだった。
 炎翠玉王の様子がおかしいのに気がついたのである。
 すぐに、ティアは炎翠玉王を引き離し助手席に寝かせた。

「ごめんね、私は大丈夫。優しい子だね・・・。疲れさせてしまった。早くアーシュの元へ連れて行くよ。わかってて自分から望んでいるんだね。私の力が何もない・・・悔しいよ・・・」

 ティアの言葉に炎翠玉王は首を横に数回振ると、にこっと笑った。

「・・・・ありがとう・・・ちゃんと、君のことはアーシュに伝えるよ」

 ティアは再びアクセルを踏む力を強めると、炎翠玉王の頭を自分に引き寄せた。
 車はもうティアのマンションの近くである。

 自分のマンションに着いたティアは、炎翠玉王を抱きかかえ、自分の部屋で待つ炎翠月下のアーシュの所へ急いだ。
 車内で炎翠玉王から感じたアーシュのかがり火のような言葉・・・。
 アーシュと波長が同じな一卵性の双子の炎翠玉王を見れば、今のアーシュの状態がわかってしまう。

 炎翠玉王の体温がだんだんと冷たくなっていくのだ。
 ティアは自分の体温をすべてこの子達に分け与えてやりたい気持ちでいっぱいだった。

「・・・もうすぐ、君の兄弟のそばへ連れていってあげるからね」

 エレベーターから出て自分の部屋のドアまで来ると、チャイムも鳴らしてないのにドアが開き柢王が出迎えた。
「遅くなった。・・・・あの子、アーシュの容態は」
「こっちだ。今、桂花がずっとそばについてやってる。けど、だいぶやばい。体温が冷たくなっちまってる・・・。ん? その子は」
 2人はアーシュと桂花の待つ部屋へ急ぐ。
「ああ、アーシュと兄弟の人形らしいんだ。この子もさっきから体温低下が始まってしまってる。アーシュと波長が同じらしくって・・・アーシュを助ける方法がこの子にかかってる」
「何だよそれ・・・。まさか・・・」
「・・・そう、この子があの子と一体になるんだ。私もその先の事はわからない・・・」
 その先は言うな、自分だってわかりすぎるくらいわかってるから・・・と、ティアは柢王に伝える。
 部屋のドアを開け中を見ると、桂花の膝に頭をのせて横になったアーシュがいた。
 柢王に「頼む」と一言伝えながら炎翠玉王を預けたティアは、アーシュの手を握り、声をかけた。

「アーシュ、ただいま。私だよ。・・・君の弟を連れてきたんだ・・・」

 ティアの言葉に反応したのか、ゆっくりと瞳を開くアーシュ。

「・・・・テ・・ティア・・・」
「桂花といい子にしてたんだね。ああ、安心して眠っていいよ。もう、アーシュのそばから居なくならないからね」
「・・・・うん・・・」
 ニッコリ笑いながらアーシュはちっちゃな手でティアの手を握る。

(こんなに、冷たくなって・・・。本当に、炎翠玉王と一緒なんだ)

 ティアはアーシュが眠ったのを確認すると、柢王から炎翠玉王を受け取った。


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