「炎翠月下」8
「炎翠玉王、大丈夫かい? 君もだいぶ体力が低下してる・・・。本当を言ってしまうとね、私は>君も助けたい。一番良い方法が自分ではわからないんだ・・・。情けないよね、どちらにしても君に頼ってしまう・・・・。でも、このまま放っておいたら君の命まで無くなってしまう」
(・・・ダイジョウブ、シンパイナイ・・・。エンスイゲッカト、トモニイキル)
炎翠玉王はティアに抱きつき、何度も何度も繰り返した。
身体の熱はどんどん低下していく炎翠玉王なのに、言葉とともに伝わってくる温かさがティアには辛かった。
しばらくして炎翠玉王はティアに
(・・マタネ)
と伝え、ティアから離れると、アーシュの傍らに寄り添うようにして横になった。
アーシュとこうして並んでいると、本当に人間の双子の兄弟のようだ。
2人の寄り添うようにして眠るこの幸せそうな時間が、アーシュの存続に関わってこようとは思いもよらなかったティアだった。
ただじっと見守るしかないティア・・・。
一途に2人の子達を見守るティアの後ろ姿に柢王と桂花は一心に願う。
親友がこれ以上、心を傷ついてしまったら、今度こそ駄目になってしまうと・・・。
ティアにとって、本当に必要な人がこの子達であり、幸せになって欲しいと。
1時間ばかり静寂と緊張が流れた時だった。
炎翠玉王の身体が青白く光始め、アーシュの身体が自然と持ち上がった。
炎翠玉王から出てきた光がやがて膜となり、アーシュの身体を包み込んでいく。
「アーシュ!」
とっさに、アーシュに触ろうと手を伸ばしたティアは、指先を弾かれる。
「ティア! 大丈夫ですか!!」
「ばかっ! むやみに手を出すんじゃない!!」
柢王と桂花に後ろへ引っ張られるティア。
「わかってる! だけど!! アーシュが!! ・・・・?!」
青白い光に包まれたアーシュの周りに、ふあふあと白いモノが近づいてアーシュの姿が変わり始めた。
髪の毛はゆるゆると伸び、身体もしなやかに大きく伸びる。
顔つきも徐々に子供から大人へと端正な顔へ。
睫毛が長く、口元には色っぽさもさることながら美しくみずみずしい。
「・・・・アーシュ・・・?!」
ティアの言葉に反応したアーシュが、ゆっくりと両目を開き始めた。
「・・・・ティア・・・」
アーシュの言葉とともにティアは自分がどうなっても良いと我慢出来ずにアーシュを抱きしめた。
「ああ!! 君なんだね! お帰り・・・・アーシュ!」
「ティア・・・ただいま」
無事に、炎翠玉王と融合をはたしたアーシュを自分の腕の中で抱きしめたティアは嬉しさが声にならない。
成長したアーシュに抱擁しながら涙を堪えるティアだった。
バタン・・・
ティアのマンションの地下駐車場に置いてあった自分の愛車に乗り込む柢王と桂花。
2人とも今さっきの光景がまだ余韻として身体に残っていた。
「何だろうな・・・・。自分まで嬉しくなっちまうような感じだ」
ふうっ、と長く深呼吸した柢王が車のボックスから煙草を取り出して口にくわえながら、>身体をシートにもたれさせた。
桂花はすかさず車内に装備されてるライターをつけ、柢王の煙草に火をつけてやった。
「ああ、サンキュー」と、煙草を火に近づける柢王。
ライターを元位置に戻すと、桂花は前髪をかき上げて柢王に寄り添った。
「ん? どうしたんだ」
「いえ、私も貴方と同意見だなって思っただけですよ。私も嬉しいです・・・」
「・・・そうだな。やっぱり愛してる奴が自分の身近にちゃんといるのはそれだけで喜ばなくちゃいけないよな。俺には、お前がいる・・・」
「柢王・・・」
お互いの確かな存在に幸せを感じながら、2人は寄り添う。
ゆっくりと愛車にエンジンをスタートさせた。
一方、ティアとアーシュなのだが、ひとしきりの抱擁の後、炎翠玉王の消えてしまった辺りを
見つめ、ちゃんとアーシュの中に生き続けている事を確認し安心した。
ティアはきちんとした事の成り行きをグラインダーズに電話で報告した。
電話の受話器を戻し、再びアーシュの身体を抱きしめてこれからの2人の事を話始めた。
アーシュには小さかった時の記憶があるのかと、ティアが質問すると
「ちゃんと、記憶に残ってる・・・お前の温かさも」
と、ティアに応えた。
2人の今後に、一体どんな事が待ち受けているのかわからない・・・。
だけど、今は素直に幸せをかみしめる。
炎翠玉王と融合したアーシュはその後、ちゃんと人間として成長し、ティアと幸せな日々を過ごしていった。
END