「炎翠月下」5
ティアが、アーシュと暮らしだして、季節は冬の12月に移り、早くも2ヶ月が過ぎようとしていた。
ティアに毎日のように、色々な言葉を教えてもらったり、本を読んだりとても、色々なコトにアーシュは興味を持った。
そんな無邪気で知りたがりのアーシュは、ティアにとって可愛くてしかたがないのだが・・しかし、自分とは違う体のコトを質問されたり一緒に風呂に入った時にアーシュはいっそう、興味シンシンであった。
そして、もっともティアが悩み問題が生じてしまった。
それは、アーシュの成長ぶりである。
日を重ねるたびに、どんどん美しく成長していくアーシュ。
ティアは、楽しみな反面、自分がいつ理性を失ってしまうかもしれないと苦悩し始めていた。
そんなある日、ティアがきちんと断り別れた一人の女性が訪ねて来た。
「っもう、ティア、こういうコトならはっきり言って欲しかったわ・・・」
「・・・すまないね(苦笑)」
「私、てっきり決まった人が出来ちゃったのと思ってたわよ。・・・いい男だったのに、何だか、淋しくなっちゃうわね」
アーシュと出会う前に割り切った体の関係をしていた彼女。
ティアは、何度も苦笑しつて彼女にお茶を差し出した。
「ああ、ありがとう。でもねティア・・・、私、以前この・・アーシュだったわよね。この子みたいな人形の話聞いたことがあるのよ・・・。確か、寿命があるって・・・」
「・・・・!! 本当か、それ!!」
「え、知らなかったの? ・・・いやだ、・・怖い顔でにらまないでよ・・」
「・・・・・・」
彼女からのアーシュに関する話しに愕然としつつ、ティアは汗ばむ手を握りしめた・・・・。
(・・・・そんな、アーシュは、こんなにも元気だ・・・)
ティアの言葉もなく落ち込む姿に彼女は一言
「あまり、気にしないでよ・・・、もしかしたら単なる噂かもだし」
と、申し訳なさそうに言い残し帰っていった。
静かに時が流れる・・・。
客が帰った気配を察して、ひょっこりと自分の部屋からアーシュが出てきた。
アーシュは、何だかティアの様子がおかしいのに気づくとそっと、ティアの顔をちょこんとして首をかしげながら覗きこんだ。
アーシュは、のぞき込んだティアの頬から一筋の涙がつたってきたので驚いたが、ニッコリ微笑みティアに何も言わず、その小さな体で抱きしめた。
「・・・ああ、心配かけたね、・・何でも・・ないから・・。今はこのまま、一緒にいてくれ・・・」
アーシュの優しさに涙が止まらなくなるティア・・・。
ティアの頬を伝う涙をアーシュが手で受けとめる。
2人は、数時間そのまま抱きしめあっていた。
数日後、ティアは1つの決心を固めて、アーシュを買った店の店主グラインダーズを訪ねる事にした。
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「・・・大丈夫か・・? 顔色、悪いぜ・・・ここんとこ一睡もしてないんだろ?」
ふらつく体のティアを目の前にした柢王は桂花とともに訪ねて来た。
炎翠月下のアーシュの耳には聞かせたくない話を聞きに行くのに連れていけないので暫く預かって欲しいと昨夜、柢王の携帯にティアがコールしたのだった。
目の前の親友ティアに溜息混じりに、柢王は苦笑しながらティアの左肩を2度程軽く叩いて大丈夫だ、絶対、良い方法があるはずと、応える・・・。
桂花は、奥の部屋で寝ているアーシュの様子を見にいった。
「とにかく、このまま指をくわえて、ただ待つのなんて私には我慢出来ない・・・。絶対に、助かる方法があるはずだ。・・・諦めるのは・・・あの子を・・・アーシュを手放すなんて、今の私には考えられない。あの女なら、きっと知っているはずだ。・・・・あの子を精魂込めて作りあげたあの女なら。」
ふらつく体とは全然別人のようなティアが向ける真摯なまなざしに柢王は>力強く、親友に向けて心のエールを送った。
奥の方から桂花が2人に、アーシュが熟睡したと合図を送った。
「じゃあ、あの子を頼む。・・・何か、あの子が心配して泣き出すようなら、コレを聞かせてやってくれ・・・。あの子のお気に入りの歌が入ってる。こっちは、私の声で入ったモノがある。それから・・・」
「大丈夫だ、心配するな。何かあったら、すぐに連絡を入れる。」
柢王の自信に満ちた顔に微笑し、ティアは2人にアーシュを任せ部屋を後にした。