ひみつの温泉(←なんか妖しい響き♪)
天界には東西南北の四領があり、その中でもとりわけ南領は、地脈の影響で温泉の多い土地である。その南領の東の外れ、東領の境に近く、緑に多く覆われている山と谷とのそのまた奥深くに、怪我をした動物達しか知らないような温泉があった。
「ほら、桂花って。機嫌直せよな? なっ?」
人間界から昨日やっと帰ってきて、久しぶりに桂花と…と期待に胸躍らせた柢王だったが、桂花を天主塔に迎えに行くと桂花は会ったとたん不機嫌で、昨夜は結局指一本触れさせてもらえなかったのである。
「別に吾は怒ってなんかいませんよ。それとも何ですか? あなた自分で心当たりがあるとでも?」
実はいっぱいいっぱい心あたりがある柢王は(汗)、動揺しつつもその桂花の冷たい視線に睨まれて、内心ひゅーっと息を呑んだ。
(微笑った顔も、アノ時の表情も格別だけど、怒った顔も綺麗なんだよなぁ…)←面食い柢王(笑)
「んなのあるわけないじゃん。ほら、お前天主塔で働きすぎて疲れてるんだよな? こんな時は温泉に限るって。確かこのあたりに…」
樹木の影を抜けると、そこは小さいながらも豊富な湯量の温泉があった。まわりには薄紫や白色の小さな花を咲かせる野草が茂り、蝶が飛びかっている。
人の来た形跡はまったくみられない。視界の隅を野ウサギが走り過ぎて行った。
「…こんなとこよく見つけましたね」
「だろだろ? さ、入ろうぜ」
「や〜っぱ、お前また痩せたな。今度ティアにも言っといてやるからさ、あんま根つめんなよ」
「…どこ触りながら言ってんですか、この手は!?」
「まぁまぁ、いいじゃん。ティアの事助けてくれるのは嬉しいけどさ、あんまりティアにばっかかまっても…… 一応俺だって妬くからな」
最後の方はちょっと真剣な低い声で言われて、思わず桂花の抵抗が止まる。
桂花が柢王の顔を見つめると、柢王はじっと桂花を見つめていた真剣な眼を崩して、にしゃらと笑った。
「…ほんと、あなたって…」
「いい男?」
「少なくとも吾が今まで相手をした数多くの男たちの中では、いい男の中に入るかもね」
「…やっぱ、怒ってんのな、お前。もういい加減仲直りしていい? ちょっとこの体制はつらいわ」
「仲直りって、これのことなんですか?」
動き回る柢王の指先にあきれつつも、桂花は嫣然と微笑むと、柢王の肩口を軽く噛んだ。
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「あれ? なんか水音がする。おかしいな、この温泉は誰にも知られていないと思ってたんだけど。傷ついた鹿でもいるのか?」
誰にも秘密の温泉に、疲れた身体(昨夜は天主塔に泊まったのだ/笑)を癒しにきたアシュレイが、ひとりごとをつぶやきながら温泉へ続く森を抜けると…
「何で、こんなとこにてめーらがいるんだっ! しかも何やってやがる!!」
アシュレイは怒りと羞恥でフルフルと震えていた。
「無粋なヤツだな。これだから猿は…」
今まさに事に及ばんとしていたと知れる、普段より色の濃くなった桂花の紫水晶の瞳に見つめられてうろたえたアシュレイは、今度は乳白色の湯から露出している桂花の紫微色の肌と刺青に視線が吸い寄せられてしまった。
「何赤くなってるの? アシュレイ。駄目だよ、嫉くからね」
「ティア!! お前、また天主塔抜けだして来たのかっ!」
「だってアシュレイったらせっかく久しぶりに会えたのに、すぐ帰ってしまうんだもの…。それより、せっかくこんないい温泉があるんだから私たちも入ろうよ。柢王、桂花オジャマするね」
守天は言うなりさっさと服を脱ぎ捨てて、湯の中に入っていく。
白磁の肌の上を乳白色の湯がすべっていく…(←いろっぺー/じゅるっ/ああっ見たいわっ)
「どうしたの? アシュレイも入っておいでよ」
守天はアシュレイに意味深な笑みを見せて言うと、そのまま桂花と話しだした。
目はアシュレイにじっと向けたまま…。
(こ、これって…)
自分だけが服を着ているという状況も何だかいごこち悪いが、服を脱いでいくのをじっと見詰められているのもすごく恥ずかしいじゃないかっ!!
「守天殿、ガキにそれはちょっと酷なのでは?」
「な、なんだとっ!!」
「しかもオヤジはいってませんか? だんだん…」
「そ、そうかな…」
「てめーら、俺無視して話しすんなっ!!」
アシュレイは怒りのあまり服を着たまま温泉に飛び込んで、桂花と守天に掴みかかった。
勢いのあまり、三人とも頭から湯を被って水びたしである。
「な〜んかさぁ、美人三人に囲まれて、俺ってハーレム? って感じ?」
それまで黙って三人のやりとりを眺めていた柢王が、にやけた顔でとんでもない爆弾を投下した。
「び、美人って…、てめー!!」
アシュレイの叫び声をよそに、桂花は無言で湯から出るとさっさと服を着て歩いて行ってしまった。
「…柢王、お前わざと桂花を怒らせたんだろ?」
「あ、わかった? さっすが策士ティア(笑) 俺、昨日からおあづけで早く二人きりになりたいんだわ。ははっ。んじゃあ、そっちもごゆっくり」
柢王は相変わらずの笑いを残して風のように去って行った。(←ちゃんと桂花にフォローするんだよ、柢王〜!! ってあなたのことだからぬかりはないと思うけど/笑)
幼なじみに美人だと言われたショックで呆然と柢王を見送ったアシュレイだったが、ふと気づくと守天がニコニコとまたあの嫌な予感のする笑みをみせている。
「な、なんだよ」
「お前の髪と乳白色の湯がまるでイチゴミルクのようでおいしそう。ふふ、食べちゃっていい?」
「うわっ、へ、変態っ!!」
「だって濡れた服といい、そっちこそ反則だよ。駄目、もう我慢できない。いただきます〜」
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さて、その後二組のカップルがどうなったかはもう皆さんおわかりですよね?
さあご自由に料理しちゃってくださいませ(笑)
(2000/02/23版改訂投稿)