投稿(妄想)小説の部屋

ここは、みなさんからの投稿小説を紹介するページです。
投稿はこちらのページから。 感想は、投稿小説専用の掲示板へお願いします。

No.93 (2000/08/17 11:13) 投稿者:藤水 一世

ブレイク・ブレイク・カップル

「そのときはもう二度と会わないからな」
 そう言われた瞬間、息が止まりそうになって、それから、頭の中が一気にクリアになった。
 別れたら、二葉には会ってもらえない。友達にも戻れない。
 そんなの嫌だけど、だって俺だって二葉のこと好きなのに、
 好きすぎて辛いくらいなのに、・・・でもそっちのがいいのかもしれない。
 これ以上醜い自分を二葉に晒すのはいやだ。
 ちょっとのことにも嫉妬して、我侭ばっかり言って、悠のことにもこだわって、きっと二葉を疲れさせてる。
 そのくせ二葉の気持ちには鈍感で。
 これ以上嫌われたくないよ。
 だから、俺は言った。
「いいよ。会えなくなってもいい。二葉、俺達別れよう」
 俺の腕をつかんでた二葉の力がゆるんだ。
 目が、信じられないと言ってる。
 ごめんね。大好きだよ、二葉。
 心はそう叫ぶけれど、声にはならないままに、唇は別の言葉をつむぐ。
「でも、一樹さんや小沼とは縁切りたくないから。だからどうしても二葉の視界に入るところに行く事になると思う。・・・そのときは俺をいないものとして扱ってくれていい」
 二葉が呆然としたまま、訊いた。
「俺が嫌いになったのか」
 好きで好きでたまらないよ。もう二葉以上に好きになれる人なんか、現れない。
 ごめんね。
 俺のエゴでこんなにも大事な二葉を傷つけてる。
「忍!」
 焦れたように二葉が呼んだ。
 嫌いなんて言えないよ。嘘でも言えない。
 だから俺は、二葉の首を引き寄せて、唇を重ねた。
 ごめんね。自分の事しか考えてなくて。大好きだよ。
「ばいばい」
 言い捨てて、俺はカバンとパソコンを取り上げてその場から離れた。二葉の方は見なかった。二葉に背を向けたとたん、止まってた涙がとめどなくあふれた。

 一樹さんは、忍が選んだことならそれでいいと言ってくれた。
 二葉は大事な弟だけど、忍も大事だから、俺が泣かないでいるならそれが一番だって。
 小沼は俺が二葉と別れたことで、俺達も疎遠になっちゃうんじゃないかと泣きそうだった。
 彼らにとっても大事な二葉を俺は傷つけたのに。
 なんでこんなに優しいことを言ってくれるんだろう・・・

 三学期。俺は生徒会に副会長としてかかわることになった。
 いそがしくて死にそうだけど、そっちのほうがいい。
 なにもしてないと二葉の事を思い出す。
 会いたいと、好きだと、それしか考えられなくなっていく。
 いそがしくてローパーにも顔を出せなくて、二葉どころか一樹さんや小沼にも会えない有様だった。
 けれど携帯は持つようになったから、時たま小沼から「会いたいよ〜遊ぼうよ」って感じのメールが入ったりする。
・・・二葉があれほど持てって言ってた携帯。
 親の仕事で必要になって、そのおまけで持たせてもらえることになっただけだけど、それでも、携帯を見ると、二葉の希望をつっぱねてた自分を思い出して辛くなる。
 メモリには、一樹さんと小沼と親の番号しか入れてない。
 彼ら以外には誰にも、俺の番号は教えてない。
 それが、俺なりの、二葉に対する誠意。
「池谷! やっぱり明日の休み、俺んちで企画書作るって話、おまえ来なくていい。俺ひとりでも十分できる。そんな疲れた顔してんだから、明日はゆっくり休めよ。今日でテスト終わったんだから無理しなくていい」
 朝井が言う。でも従えない。どんなに体が悲鳴あげてても。
 なにかしてないと二葉を思い出す。
 夢にさえ出てくるからあんまり眠れない。
 学年末試験直後に、生徒会主催の三年生の送別会がある。
 だから俺達はテストが終わったからって休む暇もない。
 明日の休日も、朝井の家で仕事をする事を決めていた。
 朝井はこなくていいって言ったけど、俺は行くつもりだった。

 その夜、一樹さんから電話があった。
 明日、久しぶりに店に顔を出して、と言われた。小沼も来るからって。
 断りきれなくて、17時に約束をしてしまった。
 ・・・二葉は来ないから大丈夫、って言われて、安心したようながっかりしたような。

 次の日、当初の予定通り朝井宅を訪れた俺を、朝井は諦めた顔で見ていた。
「俺なりに心配してんだぜ。今にも倒れそうな顔色しやがって。ここ一週間、睡眠時間絶対3時間切ってるだろ」
 そう言われて、鋭いなあと笑いながら出されたお茶を飲んだ。
「俺の事は気にしなくて大丈夫。さ、仕事しよう」
 なのに。
 1時間もしないうちに俺は強力な睡魔に襲われた。
「池谷? 眠いのか? 寝てていいぞ、無理すんな」
 その朝井の声を最後に、俺は意識を手放した。

 夢うつつに聞いた声。
「・・・なんだ、池谷、携帯持ってたのか。悪いけど出るぞ。さっきから誰からか知らないけど鳴り止まないんだ。・・・はい。もしもし? ・・・小沼? ・・・ああ、うん、池谷なら俺んちにいるぜ。疲れが限界に来たみたいで、今寝てる。え? 約束してたんだから寝てるはずがない? 俺が何かしたんじゃないかって・・・鋭いな。こっそり睡眠薬飲ませたよ。見てられなかったからな。・・・いや、迎えになんか来なくていい。俺が責任もって送るから心配するな。・・・あ? 心配しなくてもなにもしねえよ。寝てるやつに手を出す趣味はない。寝顔はさすがに血迷いそうなくらいかわいいけどな。切るぞ」

                      続く・・・?


このお話の続きを読む | この投稿者の作品をもっと読む | 投稿小説目次TOPに戻る