投稿(妄想)小説の部屋

ここは、みなさんからの投稿小説を紹介するページです。
投稿はこちらのページから。 感想は、投稿小説専用の掲示板へお願いします。

No.91 (2000/08/17 02:06) 投稿者:たまっち

ビストロ・キスエフ(3)

(CMを挟んで)

 降りてきた3人は、まずは二葉と忍チームのところへと向う。
「メンバーとは歌番組でご一緒することが何度かありますけど、個人的になにかありますか?」
「ん〜、そうだな〜」
「こんばんは、向井さん、ヨウコウさん」
「よ」
 礼儀正しく挨拶する忍に、健は軽く片手を挙げ、ヨウコウはうむと頷いて見せる。
「俺は特にないですよね。テレビでいつも拝見してます」
「そうだな。何やってんの?」
 せっせと何かをすり下ろしている忍のほうに身を乗り出すと、強烈な匂いが鼻に襲いかかってきた。
 そういえば、忍はでっかいマスクをしている。
「こ、これは…っ」
「ニンニクです。夏ばて気味みたいな事をおっしゃってたので、元気になっていただこうかとおもって」
「…さんきゅ」
 うっと鼻を抑えた健は、顔をそらしながら、健吾が匂いの直撃を受けないように後にかばう。すると、ちょうど背後にいたヨウコウが、ぱっと顔を輝かせて目の前に現れた健吾に頬擦りしようとすると、慌てて健はヨウコウからも遠ざける。
「ったく、油断も隙もあったもんじゃねえな」
「幼い頃のおまえにそっくりだな…」
 相好を崩して呟くヨウコウから、健は更に健吾を遠ざける。
「健吾君はおじいちゃんにそっくりなんですか」
 忍はニコニコと言い、更にニンニクを擦り続ける。
「どんだけ擦れば気が済むんだ…」
 そこに、隣で包丁を動かしていた二葉がアイドル全開の笑顔で爽やかに挨拶する。
「向井さん、ヨウコウさん、こんばんは!」
「おう」
「うむ」
「俺、今度、向井さんとドラマの共演する事になったんですよね」
「まぁな。よろしくな」
 早速気のあったように、にかっと微笑み合う二葉と健。
「そうだったんですか〜」
 メンバーながらも初耳だった慎吾は、顔には出さないが結構羨ましい。
「向井さん、デビューされたばかりなのに、既に火曜サスペンス劇場の顔ですよね。今回はどういうドラマなんですか?」
 主人公と一緒に謎解きをする女好きの男だとか、思いこんだ女性に付きまとわれ、思い余って殺してしまった犯人の役だとか、とにかく健は引っ張りだこであった。
「今回のは9時台の連ドラだし、爽やかなもんだぜ」
「向井さんが、あるホテルのコンシェルジュの役で、俺は、その影響を受けてコンシェルジュを目指すようになる、その義理の弟の役だ。まあ、成長モノだな」
「へ、へえ…」
(二葉がねぇ…。どういう考えがあって、その配役にしたんだろう…)
「ヨウコウさんも出るんだぜ」
「ああ。確か、俺の友人の男の、義理の兄の役(薫さん)だっけ」
 健も混乱しつつも説明する。
「皆義理の兄弟なんですか。複雑ですね」
「結婚して、子供も二人いる役なんだ。俺は結婚もまだだから、役作りが大変だろうな」
 ヨウコウが、ドラマ初挑戦に不安げながらも、その表情になかなかの意気込みを見せる。
「ちなみに、そのヨウコウさんの義弟の役(高槻さん)は誰がされるんですか?」
「各務聖也っていう歌手だったっけ」
「…ああ、あの…」
 曖昧な笑顔で流す慎吾。
(…誰だっけ)
「ともかく、秋から始まるドラマ、『寝かせてみたい』をよろしく!」
 二葉がアイドルスマイルで決めた所で、健たちは正道達のチームへと移って行った。

「こんばんは〜」
「どうも!」
 正道と桔梗の二人は、声を掛け合って餅をついていた。
「せ〜の、よいしょ〜!」
 ぺったん! といい音をさせながら、正道は額の汗を拭う。
 雰囲気を出すために割烹着に三角巾姿の桔梗は、甲斐甲斐しい様子でせっせと水を餅米に絡める。
 なかなか息のあった二人であった。
「お二人とも、もしよかったらちょっとついてみませんか?」
「そーだな」
 ヨウコウは張りきって真っ黒な皮じゃんを脱ぎ、現れた裸の上半身にむきっと筋肉を浮き立たせる。
「夏に餅か〜」
 もち米から漂う熱気が健を切なくさせる。
(熱そ…)
 ペッタンペッタンつきはじめたヨウコウの、躍動する筋肉が美しい。
「鍛えてらっしゃいますよね」
 慎吾が羨ましげに言うと、健は目を細める。
「こいつの自主トレは半端じゃねえからな」
「僕も頑張ろうかな」
「おめぇはそれでいいんだよ」
 ワシャワシャっと慎吾の髪をかき乱す健に、慎吾はドキドキする。
「健さん…」
 俄か二人の世界を作りかけたその時、桔梗の半泣きの悲鳴が響く。
「ヨウコウさん、もうちょっとゆっくり!」
 スゴイ形相で、親の仇のように餅に連打をかますヨウコウの目には、既に補助する桔梗の姿はうつっていない。
 北斗百烈拳のように杵が何本にも見え、全員が目を擦ると、ヨウコウを仕上げとばかりに、ふんっ!! ととどめの一発をうちこんだ。
 ぱきっと響き渡る音を小気味よく聞きながら、ヨウコウは満足げな溜息をつく。
「ふう。これでよしと」
「これでよしとじゃねぇだろがよっ」
 うりゃっとヨウコウを蹴っ飛ばし、健は無残な姿になったウスをあ〜あと見下ろす。
「なんか、ワリイなあ」
「い、いえ…」
 正道はなんとか答えるも、恐怖のあまりとっさに桔梗と抱き合ったまま固まっていた。
 石化した正道に、不意に何かがゴインと音を立ててぶつかってくる。
「いつまでも抱き合ってるんじゃねえ」
 突然現れて低い声で凄んでいった男は、疾風のように去っていった。
「卓也、カッコイイ…」
うっとりと目を潤ませる桔梗を見て、何者かを悟った正道であった。
 足元には頭部を直撃したと思われるスイカが綺麗に割れていた。
「デザートに使うか…」
 いつもどこからか神出鬼没に現れる芳賀卓也という男は、キスエフの専属ダンス教師である。桔梗の危機には即駆けつけ、するべきことをすませると即座に帰っていく。メンバーは彼の行動については気にしないことにしていた。
「痛かった…」

 ウスを1つ破壊して、どうやらすっきりしたらしいヨウコウと、スイカの欠片を味見する健を連れて上に戻った慎吾は、いつもの収録の倍以上は感じる疲れと必死に戦ってトークを展開させ、やっと試食の段階へとうつっていった。


このお話の続きを読む | この投稿者の作品をもっと読む | 投稿小説目次TOPに戻る