ビストロ・キスエフ(1)
アイドル伝説クール・ざ・トリオ(番外編<2>)
(登場人物紹介)
【クール・ざ・トリオ】
通称クール。貴奨、光輝、香の3人で組まれたアイドルグループ。
つい最近デビューしたばかりだが、デビュー曲『恋はピンク★ショック』も好調な売れ行きを見せ、トレードマークとも言えるホットパンツが大流行したりと、とかく時代の流れに乗っている。セカンドシングルは伝説のプロデューサー、K・Fによるプロデュースが話題となり、その発売が心待ちにされている。期待の大型新人。(萩原プロ所属)
【キッス・エフエム】
通称キスエフ。桔梗、忍、慎吾、二葉、正道の5人で結成された、もう何年もトップを独走しつづけている超人気アイドルグループ。(桜庭プロ所属)
【向井健】
みずからの孫の可愛さを歌い上げた『孫』が爆発的ヒットをあげ、今や時の人となった脅威の新人演歌歌手。息子健太10歳。孫健吾1歳。
【ヨウコウ】
その素性は全て謎とされるが、世の男たちのカリスマであり、常に熱い男の魂を歌い続けるシンガーソングライター。
【一樹・フレモント】
通称K・Fと呼ばれる、ミリオンセラー製造マシーン。大物プロデューサー。
(プロデューサーK・Fの部屋)
月曜日。
一樹・フレモントは楽しみにしている番組があるため、毎週この日は仕事を早く切り上げて帰ってくる。
「もうすぐ十時か。…そろそろだな」
バスローブの襟元を直しながら、一樹はリモコンのスイッチを入れた。
<パチっ>
『夏生さんは夏に生きるから夏生さんなんです!』
『武蔵…』
『あなたの人生を乗せて走りたい!』
『…!!』
「も〜うこ〜れ以上〜〜〜♪ も〜うこ〜れ以上〜〜♪」
今までやっていたドラマの予告が映し出される中、その主題化となっている、自分のプロデュースした曲が流れるのに合わせてハミングを口ずさみながら、一樹はワインの栓を抜き、ずびずび音をたててテイスティングする。
「予告だけは欠かさず見てるから、このドラマの話題を振られても困らないでいいな」
撮影現場を一度見学に行く予定もあるので、そこは押さえとかねばならない。
「あっ、始まった」
♪ちゃっちゃ〜ちゃっちゃ、ちゃ〜〜♪
『幸せワイン』
『プレゼンテッドバぁイ、サントリー』
「う〜ん、この声を聞くとワクワクするな」
一樹は居住まいを正してテレビに見入った。
ナレーション『とあるマンションに同居する仲良し3人娘、ミーハー娘・光貴子(こきこ)、
ブランド娘・香子(かいこ)、パワフル娘・貴奨子(きしょこ)。
さて、今日はどんな出来事が起きたのでしょうか』
貴奨子(貴奨)『ねぇねぇ、今日これから彼氏がくるから、このワイン、開けてもイイ?』
香 子 (香)『え!あんた彼氏出来たの?』
光貴子(光貴)『嘘でしょ?見栄はって、ただの友達を強引に誘ったんじゃないの?』
貴奨子『ちょっと、失礼ね。そりゃ、彼、通販マニアだったみたいだから、
今日はあのとっておきの腹筋マシーンを見せるって誘ってみたんだけどさ』
香 子『だいぶ前にブームが過ぎ去ったヤツね…』
貴奨子『…でも!毎日どんなワイン飲んでるかで仲良くなったのよ!』
香 子『で?』
貴奨子『で? って…何よ』
光貴子『だからって、その彼氏だかなんだかわかんない人の為に
なんでこのとっておきのを開けなきゃなんないのよっ』
ナレーション『今日はちょっと特別な日。そんな日にはこんなワインはいかがでしょうか…
ナレーションの男がワインの紹介をする中、一樹は今日のオチの予想をつける。
「男はそのとっておきのワインだけ飲んで、さっさと帰った後、携帯が繋がらなくなる…そんなところかな」
(プルルルルル…)
貴奨子『きっと彼からだわっ。お土産にどんなワインがいいかって聞いてきたのよ』
光貴子『だったら、ドンペリにしてって言っといて』
香 子『あんた、高いっていったらそれしか思い浮かばないんじゃない?
だいたいそりゃシャンパンでしょうが。私は遠慮深く千円くらいのでいいから、
一気に5本くらい持ってきてもらってよ』
貴奨子『あ〜もうっ、…ハイもしもし!…え? 急に来れなくなった?
父方のお祖父さんが危篤で?そうか〜、大変ねぇ。
って、ちょっと! じいさんは二人共亡くなってるって言ってなかった?
(がちゃっ)あっ…切れた』
そこで番組はいきなりCMに切り替わり、一樹は意味のないうすら笑うを浮かべる。
「う〜ん、そうきたか。今日もまた絶妙な無意味さだったな〜」
すっかり満足した一樹は、開けたばかりのワインを楽しみながら、ついでに続いて放送される、キスエフのバラエティー番組を見ることにした。
「クール達も、早く自分達の名前の入った番組を持ちたいだろうな。この幸せワインもイイ番組だが、いかんせん時間が短過ぎる」
クール・ざ・トリオの事務所の社長の桜庭が、あらゆるコネを使ってやっと手に入れたクールの持ち番組だった。
クールの次の新曲は、自分がプロデュースすることに決まっている。
一樹も応援したかった。
「ま、なんと言ってもまだまだトップアイドルはキスエフなんだろうな…」