投稿(妄想)小説の部屋

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No.78 (2000/07/29 22:49) 投稿者:桐加由貴

風の条件〜右腕〜

 ふと桂花は我に返った。起きてから、寝具を整えながら物思いにふけってしまっていたから、もう朝食の時間になってしまっている。
 守天が待っているだろう。
 慌てて桂花は着替え、部屋を出た。もちろん、鍵は掛けて行った。

「おはようございます、守天殿」
「おはよう、桂花」
 相変わらずの気品のある美貌が、優しく微笑んで桂花を迎えた。
 二人だけの朝食にしては広すぎるテーブルに、糊のきいた白いクロス。向かい合うように置かれた食器。
「お待たせしてすみません・・・」
「私も今来たところだ。疲れているんじゃないか?」
 いつも桂花には助けてもらっているから、と守天は少し困ったように笑った。給仕の者は表情も動かさないが、守天にすれば、彼らに聞かせる意図もあるのかもしれない。
「おまえに無理をさせると、柢王に怒られてしまうな」
「とんでもない。守天殿こそ、お疲れなのではありませんか? ゆうべも、吾は先にやすませていただきましたが、あのあともお仕事をなさっていたのでしょう?」
 守護主天の激務。それも、桂花がいる時はずいぶん楽に、効率よく進む。だから守天が遅くまで仕事に励むのは、桂花が帰ったあとの仕事の進み具合の遅さを考えて、今のうちに余裕を作っておきたいからだった。
「どうかご無理はならさらないでくださいね、守天殿」
 今の桂花は、守天に対して、柢王の親友ということを抜かした好意も抱いている。だから、彼を気遣うのは本心だ。
 それでも、桂花の中にはいつも柢王に言われる言葉が響いている。
 ・・・ティアを頼む。
 そう言われるのは嬉しい。
 柢王が何より大事に思っている親友。それを託されたのだから、彼の信頼に応えるだけのことをしたい。桂花はいつもそう思っている。
 柢王の力になりたい。彼に必要とされる存在になりたい。
 ただ、きっと柢王は、守天には桂花を頼むと言って人界に行っているのだろう、と予想がつくだけに、今ひとつ自信が持てないだけだ。
 あの人も大変だな、と桂花は皮肉げに考える。桂花にはティアを頼む、と言って、守天には桂花を頼む、と言って出て行くのだから。
 いつも、桂花は柢王の背中に庇われる存在で、柢王の隣に立てる存在ではない。
 彼に愛されて、必要とされて、力になれる。自分がそういう存在だと確信できれば、きっとこんなに不安になることもなくなるだろうに。
 桂花は魔族で、柢王は天界人だ。だから、柢王が桂花でなくてもいいのなら、桂花じゃないほうがいいのだ。
 そばにいてもいいのだ、と信じたい。
「・・・ああ、桂花」
「なんですか? 守天殿」
 こうやって二人で食事をとるようにするのは、守天が言い出したこと。きっと柢王に、桂花がちゃんとメシ食ってっか見張っててくれ、とでも言われているのだろう。
「今日あたり、柢王が帰って来るんじゃないかな。おまえたちの休暇も、あと二日で終わりだろう?」
「・・・ええ、そうですね」
 そうして二人で食後のお茶まで済ませ、執務室に入って、休憩を取ろうとしたころ、噂の人物は窓から入って来た。両手に余るほどの包みを抱えて。

                             続


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