おとこ教室 〜ランニング編・後〜
そんな慎吾に、江端はこっそりと耳打ちをした。
「いいか慎吾。次の角を曲がったらな、……って道順で回り道して行け」
そして彼は。角を曲がると同時に、路地裏へと姿を消したのである。
数分後。警備会社の制服を着た男が、頭を下げつつディアブロの窓を叩いた。
「申し訳ございませんがこの先で事故がありまして、皆様には迂回して頂いております。ご迷惑をおかけしますが、ご協力願えますでしょうか」
「事故だと? だが、俺達も初めての所だ…裏道なんぞ知らんぞ」
助手席のウィンドーを下ろしながら顔を出す卓也に、目深に制帽をかぶった男は小さく頷くと、
「解りました、私が誘導致します。…こちらへ」
キビキビとした動きで、車の誘導を始めた。
……勿論、その男の正体は江端であり……気付いた時には、出待ちーズの面々は袋小路へと誘い込まれていたのであった。
『あッ!』と思った時にはもう、男はひらりと塀を乗り越え、向こう側へと姿を消していた。
「……やられた!」
外へ飛び出した卓也が、ため息をつきながらディアブロのボンネットに腰掛ける。
『こら』と言いながら降りてきた一樹も、腕組みをしながら塀を見上げた。
「ちょっと高いね…車も置いては行けないし、ね。声聞いた時、何かひっかかったんだけどな…こういう事か」
この時。次々と車を降りてきた出待ちメンバーズの頭に、江端の存在は『油断のならない相手』として、深く刻み付けられたのであった。
一方、制服姿のまま江端が合流したランニング組の面々はといえば…彼の服装や姿を消している車から全てを察し、自分達の講師の後ろ姿を憧れの眼差しで見つめている所だった。
「本当に江端さんて、抜かりがないんですね…」
「ホントだよね〜! あの、切れ者集団を一瞬でまいちゃうんだもんっ!」
「こんな時の為に、あんな物(制服の事)まで用意してたなんてね!」
「……どっかの路地裏で、本物の警備員が裸で転がってるかもって……何で思わねーんだよ、お前ら……」
実は真実をついていた二葉の言葉は、見事なまでに無視された。
いじけた二葉は、一人寂しく空をあおいだ。
「畜生、夕日が目にしみやがるぜ……」
哀愁ただよう後ろ姿に、合掌。
負けるな二葉! 明日はホームランだ!!