投稿(妄想)小説の部屋

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No.76 (2000/07/28 13:58) 投稿者:おとこ教室組合(ゆうゆ)

おとこ教室 〜新人勧誘編〜

「春ってやっぱりいいよね…こうやって桜も綺麗に咲いてるし」
 忍は空を見上げながら言った。
「ホント…何もかも放り出してお花見とかしたいよね。ほらっ、お弁当とか作ってさ」
 慎吾がそれに同調する。
「あっいいねぇ。そしたらさ、ピクニックシートとか持ってこよっか?」
 さらに桔梗が提案する。
 そのまま放っておくと、いきなりお花見大会にでもなってしまいそうだ。
 彼らの会話を聞き、左手で頭を押さえながら二葉がつぶやく。
「忍も慎吾も桔梗も…そんな空だの桜だのばっか見てないで、手伝ってくれよ。ノルマ全然減ってねぇぞ」
 二葉はずり落ちそうになっていた紙の束をかかえなおした。
 世間はいわゆる新年度の始まり。それにあわせて「おとこ教室」でも新人ゲットのためにビラ配りをすることが決まった。
 そしてビラ配り要員に選ばれたのが…この4人なのである。
 江端から課せられたノルマはビラ1人100枚、計400枚を配り終えること。
 だがこのビラが曲者で、真ん中に大きく「おとこ教室」と書かれているのだ。
 それを見た瞬間、受け取ってくれようとした好意的な人たちは、あわてて手をひっこめて去っていってしまう。
 …誰だよ…このデザインしたの。まったく…名前にセンスが感じられないよなぁ、この教室は。
 二葉はぶつぶつつぶやきながらも、頼りにならない3人を横目で見ながら適当に配っている。
「失礼。そのビラ、いただけるかしら?」
「はいっ」
 後ろから突然声をかけられ、二葉は思わず営業スマイルをしながら振りかえった。
 立っていたのは40代くらいの和装の女性。スマイルにヒビが入りながらも、二葉はとりあえずビラを渡してしまう。
「ちょうどよかったわ…そろそろお稽古事をしようと考えていたの」
 ビラを受け取った女性は書いてある内容をよく読みもせずに、2つにたたんでバッグの中にしまいそのまま歩いていってしまった。
「……お稽古? おとこ教室でか?? しかも女性が???『おとこ教室』は男用じゃなかったのか????」
 クエスチョンマークをおもいっきり飛び散らせ汗だらだらになりながら、その女性を見送った二葉の元へ別の声がかけられる。
「すみませ〜ん。私達にもそのビラくださ〜い」
 二葉のスマイルに惹かれたのか今度は女子高生がやってきた。二葉は思わずビラの束を胸に抱きしめ、後ずさってしまう。
「だ、だ、だって…お前ら、女だよな?」
「セーラー服着てる男の子っている?」
「あんまり見ないよねぇ」
 けらけら笑い出す彼女達に、二葉は戸惑いながらもビラを見せる。
「この教室って男専用だって知ってっか?」
 差し出されたビラを見た彼女達の口からブーイングが上がる。
「え〜なにこれ〜。『おとこ教室』? 私達、遠くから見たらてっきり『おこと教室』だと思ったのに〜」
「さっきのおばさんにも渡してたじゃない〜」
 …そう言われても、このビラは『おとこ教室』としか書いていない。間違えた方が悪いのだ。
「じゃ…そう言うわけで…」
 放っておくとエスカレートしていきそうな彼女達の前から、あわてて他の3人のところへと逃げる。
 が、先ほどまでいた場所には誰もいない。不思議そうに辺りを見まわすと、忍の呼ぶ声が聞こえた。
「ふたば〜、こっちこっち〜」
 声の方向に首をめぐらせると、近くに咲いていた桜の木の下に3人が座り込んでおかしを広げている。
「……(汗)お前ら…なにやってんだ?」
「もちろん花見〜♪ それより二葉、ダメだねぇ。全然ノルマ進んでないじゃん」
「今度は僕らに任せておいてね」
「そうそう。俺達だったらちゃんとはけるよ、そのビラ」
 …だったらお手並み見せてもらおうじゃんっ、と心の中でつぶやく二葉であった。

 そうは言って任せたもののやはり不安になってしまい、二葉は少し離れた物陰からこっそりと3人を見ていた。
 その3人はさきほど見せていたあののほほんとした雰囲気とはうってかわったような表情で、行き交う人の流れをチェックしているようである。
 −なんだ‥‥あいつら?
 そのうち忍が1人の男の元へすっと動いた。どうやらターゲットを決めたようである。
 ひょろりとした長身で、いかにも勉強ばかりしていましたというような青年の前に周りこむと、極上の笑顔で話し掛けた。
「すみませ〜ん‥‥ちょっといいですか?」
 二葉がくらりとくるようなその微笑で話し掛けられた青年は、驚いたように足を止めまじまじと忍の顔を見つめた。
「おにーさん、学生さんですか?」
 忍はにっこりと笑いながら、持っていたビラを青年のほうへ差し出した。青年は頷きながら反射的にそれを受け取ってしまう。
「ちょうどよかった。おにーさんにぴったりの所があるんですよ?ここ。おにーさん、今のままでも充分かっこいいって思うんだけど、もうちょっとがんばるだけでもっとかっこよくなれるんですよ?」
 にこにこしながら忍が説明をしている。
「『おとこ教室』って言って‥‥ちょっとすごい名前なんですけどね、ここではもっとかっこよくなれるようなトレーニングをいろいろ行って‥‥‥‥」
 その姿を見つつ二葉は他の二人を探すと‥‥同じように笑顔で説明をしている慎吾と桔梗が眼に入った。
「そそ。今よりももっとかっこよくなりたいって思わない? おにーさん、もうちょっと磨けば‥‥もっといけるって思うんだけどなぁ」
 そう桔梗が説明しているのが聞こえれば‥‥
「一緒にがんばりましょうっ。おにーさんならできるって思って‥‥失礼ですけど声をかけたんですよ」
 と慎吾も勧誘をしている。
 そんな状態がしばらく続き‥‥気がつけば、彼らの手にあったビラはほとんどなくなっていた。
 二葉はそれを見て‥‥少なからずショックを受けた。
「な、なんでだっ!? 俺の配り方より‥‥なんであいつらの方がうまくさばけるんだ?」
「ふ‥‥分からないか?」
 突然隣から声がして、二葉はびっくりしながら横を見た。
 そこには‥‥二葉と同じように物陰からこっそりと3人を見ている江端がいた。「なんだよっ。分かるってのか?」
「もちろん」
 ふっと微笑みながら、江端は二葉を見た。
「あれが、おとこ教室での特訓の成果だ。なにも、毎日厳しい体力トレーニングをやるばかりではない。時にはあのように『人を惹く』というワザも必要なのだ」
 そして二葉が抱えたままのビラを指差し、3人のほうへ視線を流す。
「見てみろ。お前とあの3人の違いを。ただやみくもに配るだけだはない。どういう人間がビラを受け取りやすいか、どういう人間なら話を聞いてくれるか。それらを瞬時に見極めることも必要なのだ」
「‥‥‥‥くっ‥‥」
 残っているビラの数を指摘されれば、二葉はぐうの音も出ない。黙りこくってしまった二葉に、江端はさらに続けた。
「そして極めつけは‥‥人を惹きつけるという魅力も必要なのだ。まぁ‥‥お前にはできなかったようだがな」
 それだけ言い捨てると、江端は配りつづけている3人の元へ歩み去って行った。その江端の後姿を見ながら、二葉はがくっと膝を落とした。
「今回ばっかりは‥‥俺の負けだぜ‥‥‥‥。『おとこ教室』‥‥あなどれんな‥‥‥‥」


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