投稿(妄想)小説の部屋

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No.74 (2000/07/28 13:56) 投稿者:おとこ教室組合(まりう・まい・ZAKKO)

おとこ教室 〜ランニング編・中〜

 その時、目を閉じてあちこちに顔を向けていたアルが叫んだ。
「…判った! あいつら、あっちに行ったんだ!!」
 彼がビシッ! と指差した方向は…驚いた事に、本当に江端達が走っていった方角であった。
『……何で判るんだ?』
 皆に口々に問われたアルは、えっへん、と胸を張った。
「匂いだよ…俺の鼻はミルの事を嗅ぎ分けられんだ。何たって俺達は吸血…おっとっと。こりゃあ企業秘密だが…あっちに行ったってのは確実だぜ」
 自信満々なアルの言葉に一同は顔を見合わせると…次の瞬間、近くに路上駐車してあったそれぞれの車に向かい、全速力で駆け出したのだった。

 その頃、ランニング組は。

「声が小さくなってきたぞ!腹から声出せ!」
『うーーーッス!』
 講師の江端を先頭に、真面目に走りこみを続けていた。
 …ただ、その掛け声が問題だった。
『 めっざせ〜!(江端) おっとこ〜!(皆)
  しんの〜!      おっとこ〜!
  なっるぞ〜!     いっつか〜!
  しんの〜!      おっとこ〜!    』
 …通行人がギョッとした様に道を空けてくれるので、他人にぶつからずに進めるのだけは利点と言えば、言えなくもない。
 もうかなり走ったせいで、二葉とアシュレイを除いたメンバーはかなり疲れを見せてきていた。
「…ッ、はあッ…、はッ、はあッ…」
 頬を紅潮させて荒い息を吐き、苦しげに眉を潜める忍を見て…心臓をバクバクさせている人物が、一人。
「(…か、可愛いぜ忍…! ちくしょー、その顔は反則だぜッ。ジャージ着てても、ムラッときちまうじゃねーかよーッ!!)」
 平然と走り続けながらも、煩悩爆発中な二葉であった。
 二葉と忍が並んで走る後ろについていた桔梗が、その時、二葉の隣に並んできた。
「ねぇ、二葉! あれって…」
「あ?! 何だッ! たとえキョウとはいえ、忍のこんな顔を見ていいのは俺だけだぞッ!!」
『バカーーーッ!!!』
 まだ現実に戻ってこれていない二葉の答えに、桔梗と忍が両側から背中をばちんっ、とひっぱたく。
「うおッ?!」
 その痛みにようやく我に返る二葉。
「んだよキョウ! ひっでーな、今の手形ついたぜッ?!」
「…忍はっ? ひどいの俺だけっ?! それってひどくない、二葉っっ??!!」
「愛だろ、愛。忍には痛くされたってイイんだよ、俺は。な〜、忍?」
「……ッ。知らないよっ! 二葉、それってセクハラだからな!!」
 プイ、と顔を背けた忍は、スピードを上げて前に行ってしまった。ちなみにその耳たぶが真っ赤だったのは言うまでもない。
「あッ、忍! …どーすんだよキョウ、忍怒って先行っちまったじゃねーか」
「えっ、それも俺のせいっ?! ひどいよ二葉〜っ」
 うわ〜ん、と泣き真似をしながらポカポカと叩いてくる桔梗をかわしながら、二葉はたずねた。
「んで?『アレ』って何だ?」
「えっ? あっ、そうだよ! 二葉が話そらすから、忘れるとこだったじゃんか! …いい? 何気ないフリして、ちらっと後ろの方、見て?」
「後ろ〜? ……げっ!!!」
 肩越しに後ろを振り返った二葉が思わず足を止める。
「止まっちゃダメだよ、二葉!」
 二葉が驚いたのも無理はない。かなり離れてはいるが…そこにはウィンカーを出したまま徐行をする、赤いディアブロの姿があったのだ!
 はっきり言って、目立ちすぎである。
 さらに驚いた事に、その後ろにも二台、徐行で続く傍迷惑な車が見えるではないか……。
「(お前ら、ちょっと過保護すぎ……)」
 桔梗に引きずられる様にして再び走り出した二葉は、思わず大きなため息をついた……。

 さて一方、江端達が出発した後の道場ではこんな一幕があった。
 腕組みをして教官室の中を行ったり来たりしている貴奨に、光輝が声をかける。
「でかい男が、そんな心配そうにウロウロしてるのって…特に、相手がお前ともなると視界の暴力だな。慎吾君の事がそんなに気になる?」
「…あいつ、昨夜吐いたんだ」
 貴奨の、本当に心配している声の感じに、光輝は微笑んだ。
「何を笑ってる」
「いや…嬉しいな、と思って」
 光輝の返事に、軽く眉をひそめる貴奨。
「早く行ったら? あの子の事は私が見てるから」
 それを聞いた貴奨は、即座に部屋を出て駐車場へと向かった。
 ちなみに『あの子』とは、介護室で寝ている桂花の事だ。
 彼はランニングと聞いた途端に腹痛を訴えていたのだ…演技力と肌の色も手伝って、そうとは悟られなかったが、もちろん仮病だった。
「…紺ジャージですよ、紺ジャージッ! この吾に、あんなモノ身につけろって言うんですか!! 下着姿の方がまだマシだ…ッ」
「……そりゃー、是非とも見たいモンだな」
 道場の様子を伺っていた時に桂花が残っていたのを発見していた柢王は、適当に言い訳をして一人だけ戻ってきていたのだ。
 いきなり窓から入ってきた柢王に、桂花は驚いて身を起こしたが、口をついて出たのはグチの言葉だった。
「(心配して、来てくれたのか…)」
 一瞬だけうかんだ嬉しそうな笑みを見逃した柢王は、ニヤニヤしながらベッドの端に腰掛けた。
「ま、それを見せんのは俺の前だけにしとけ」
「……馬鹿」
 桂花は苦笑すると、愛する男の肩に額を押しつけた。
 その時、介護室のドアの向こう側では。
「まったく…皆可愛くて、嬉しくなっちゃうな…ふふ」
 聞くともなしに聞こえてしまった二人の会話に、光輝が含み笑いをしながら、きびすを返した所であった。
 そして、その少々後。
 追っ掛け組の出待ちーズの間では、次の様な会話が交わされていた。
 一樹と卓也の二人は、何やらじゃれあいながら(と、彼らの目には映っていた)走っている二葉達を見ながら、ディアブロのシートに収まっていた。
 徐行しているせいで、走っている犬にも追い抜かれていく。
「ククッ……あの、二葉が、紺ジャージ……」
 ハンドルに突っ伏しながら、一樹が肩を震わせる。
「おい、前見ろって!」
「ああ、ゴメン…ふぅ。我が弟が、どんな顔してアレを着たのかと思うと、涙が…」
 笑いすぎたせいで浮かんだ涙を指で拭う一樹に、卓也が苦笑する。
「まぁ…二葉が黙ってアレを着たとは思えんが、な」
「忍と桔梗は、何着ても可愛いね」
「多少幼くなる気がするが、それには同意見だな…あ、この事アイツに言うなよ?」
 人差し指を立てて念を押す卓也に、一樹はクスクスと笑いながら頷いた。
 鷲尾の隣には、ティアが乗っていた。
「(アシュレイ…何着ても可愛い…)」
 奇しくも一樹と同じ様な事を思いながら、ティアは前を走る集団の中にチラチラと見える赤い髪を一心に見つめていた。
 その唇には、何とも幸せそうな笑みがうかんでおり…それを見た鷲尾は、小さく口笛を吹いた。
「男でそこに座らせるのはあいつだけ、と決めてたんだが…あなた位の美人だったら、乗せてもいいな」
『ああ、もちろん』と言いながら、魅力的な男は魅力的に微笑んだ。
「顔だけの事を言ってるんじゃありませんよ、俺は」
「…有難うございます」
 甘い眼差しにジッと見つめられ、ティアは胸が高鳴るのを抑えきれなかった。
 この技は…自分でも相当自信があった『眼で殺す』というヤツだ。
 隣の男からは、アシュレイにはまだない『男の色気』がビシバシと伝わってきて…ティアは思わず、プルプルと首を振った。
「(ああアシュレイッ! 私は浮気なんかしないからっ!! 愛してるのはお前だけだからっ!!!)」
 …その心の叫びがアシュレイに届いたかどうかは、定かではない。

 そして『この車には二人までしか乗せたくないなぁ』という理由で一樹と鷲尾においてきぼりをくらったアルはといえば。
 いっその事自分で走ってくか、と思った矢先に現われた貴奨の車に、ちゃっかりと同乗していた。
「……にしても……」
 前の二台に続いて超低速で進む車に耐えられなくなったのか、アルはがっくりと肩を落とし、盛大なため息をついた。
「……なぁ。ちょっとだけ、俺にハンドル渡さないか? そしたらあっという間にあいつらの事、止めてやるぜ?」
 貴奨は隣でしおれている異国の青年にチラ、と目をくれると、彼の申し出を二べもなく断った。
「別に、止める事が目的で彼らを追ってる訳じゃない…大体、お前は運転出来るのか?」
 その貴奨の言葉に、アルが片手で額を押さえ『か〜〜〜ッ!』と天を仰ぐ。
「この、天才レーサーの俺様に向かってよくもまぁそんな事が言えるな、この色男さんはッ!!」
 オーバーではあるが決して不快ではない彼のアクションに、貴奨は苦笑しながら尋ねた。
「で、その天才レーサーとやらは今、免許を所持してるんだろうな?」
 途端にアルは『あ〜、空がキレイだな〜』などと言いつつ窓の外に顔を向けたが…隣からくる無言の圧力に負けて、正直に言わざるをえなくなった。
「…今日は、帰りにミルと中華街でメシ食って帰るつもりで、ついでに俺は酒呑むつもりで、持ってきませんでしたっ!これでいーのかっ?!」
 まるで子供の様なアルに、貴奨は小さく笑いながら『それでは隣でおとなしくしてるんだな』と告げた。
 そして、そんな出待ちーズの注目を集めているランニング組の方はと言えば…
 桔梗が気付いた程に目立ちまくっている高級車軍団に、江端が気付かない訳もなく。
「慎吾」
『一時間もすれば嫌でも道場に戻るってのに…それ位の間も放っとけない程、過保護な奴らだったとはな…』などと思いつつ、江端は隣の少年に声をかけた。
「はいっ、何、ですっ、かっ、江端、さんっ」
 走り続けてる為に荒くなった息を抑えながら応えた慎吾に、江端は『後ろを見てみろ』と告げた。
「えっ? あっ…一樹さんっ、と、卓也さんっ」
 きっと忍君達の事が心配で、様子を見に来たんだな…と微笑ましく思った慎吾は、だが江端の『貴奨さんも来てるぞ』という言葉に、表情を凍り付かせた。
「………え?」
 目を凝らしてよく見れば……いる。
 確かに、一番後ろの車は見慣れた物だった。
 途端に慎吾の顔が真っ赤になる。
「うわ、もう、信じられないアイツ! 何…もうもうっ、恥ずかしい奴ッ!!」
 ……兄の心、弟知らず、であった。


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