投稿(妄想)小説の部屋

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No.71 (2000/07/26 23:14) 投稿者:遠藤さや

「交換日記」〜東京ナイトアウト編〜

『交換日記 〜東京ナイトアウト編 part 1〜』

「イイコト、思いついた!!」
 いきなり、小沼が文房具売り場まで俺を引っ張って走る。
「な、なに?」
「ん〜、いいこと〜〜」
 うれしそうに、手に取ったそれは・・・。
「どうするの、そんな分厚い日記帳」
 小沼が毎日こつこつ日記をつけるなんて、想像できない。
「どうするって、日記つけるんだよ。日記。そ・れ・も」
「それも?」
「俺と卓也の愛の日記!! 名付けて『らぶらぶ交換日記』!!」
「・・・らぶらぶって・・・。卓也さん、やってくれないよ」
「うっ。そうかもしれないけど、やらせるのっ!!」
 どうやら、小沼の決意は固いようだった。

『交換日記 〜東京ナイトアウト編 part 2〜』

 珍しく卓也さんからの呼び出しで、イエローパープルに向かった。
 今日は、小沼も二葉も撮影でいないから。
 お店につくと、カウンターに居た卓也さんに目で合図されて、そのまま事務所に向かった。

『8月1日 卓也 大好き〜〜』

『8月3日 卓也 愛してる〜〜』

『8月5日
 今ね、卓也、となりで眠ってるんだよ。卓也の寝顔って、
 やさしくてかわいいから、好き。明日、これ読んで、びっくりでしょ??
 今日も1日、ずっと卓也が大好きだよ』

 卓也さんが無表情のまま、日記を見せてくれた。
 あきれているというか、なんというか・・・。
 まあ、これじゃあね、日記というより「ラブレター」だ。
「まあ、でも小沼って1日中卓也さんのこと考えているからこんな日記になってもおかしくはないですよ」
「で。忍も俺に日記を書けと?」
「あ、そうですよね。やっぱり交換だから・・・」
「ほらね、卓也。ちゃんと書いてやってよ。めずらしく桔梗がやる気みせてるんだし」
 冷たい飲み物を持ってきてくれた一樹さんが、笑いながら日記をめくる。
「ほらほら、もう3日分もたまってるんだからね、さっさと書く」
 交換日記にこだわってるのか、きっちり8月2日、8月4日とページがあいている。
 一樹さんが日記とペンを渡すと、卓也さんは恨めしそうににらんでから日記に何かを書き始めた。
 俺も内心とても楽しみで、一樹さんの隣に座って、書きあがるのを待っていた。

『8月2日 馬鹿なことを考える前に次の方程式でも解け
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

『8月4日 2日の方程式が解けたら、この英文を訳せ
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

「た、卓也さん・・・・」
 小沼のイイコトも卓也さんはあんまりお気に召さなかったみたいだ。

『交換日記 〜東京ナイトアウト編 part 3〜』

 ここは、イエローパープルの事務所。卓也さんがにやにやしながら、ペンを渡してくる。
「ほら、忍。交換日記だからちゃんと書いてやるんだろう?」
 あう、この人、きっとこの間のことを根に持ってるよ〜。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 小沼と卓也さんが交換日記を始めたのを、どこで聞いたのか二葉が耳にしてしまったらしい。
 早速分厚い日記帳を買ってきて「交換日記」をやりはじめたんだ。
『8月3日
 今日から、忍への愛を叫びまくるから。
 ちゃんと、答えなかったら・・・。どうなるか分かってるよな?
 分かったら、もうラブラブな答えでいいからさ、よろしくな』

『8月5日  I want you I need you I love you !!』

 ・・・・。

 あ、頭痛い・・・。
 二葉、これは日記じゃないってば。
 俺が頭を抱えていると卓也さんが「ほらほら」とペンを差し出してくる。
「もしかして、この間のお返しですか?」
「まあな。おかげさまで、毎日苦労してるんでね」
 にこにこしながら卓也さんが強引に俺の手にペンを握らせる。
「卓也さん、方程式とか英文とか・・・。大人げないですよね、日記なのに」
「日記ねぇ。桔梗のアレも日記と言えるかどうかだな」
「でも、小沼、一生懸命で。気持ち伝わってくるのに? ちゃんと返事してあげたらいいじゃないですか」
「忍がきちんと返事を書くなら・・・」
 卓也さんが日記をのぞきこんでくる。
 そして、唇の端をイジワルそうに上げて
「ちゃんと返事、してやらないのか?」
 と俺の書いた部分を指でトントンとたたく。
「いいんです。日記だから」
 卓也さんの指をそっとどけて、俺はパタンと日記を閉じた。

『8月4日 今日は塾のテストの日
 模試も近いし、まじめにとりくまなきゃ。テストの方は、なんとか出来た。
 ちょっと結果に期待できるかも』

『8月6日 イエローパープルで、卓也さんと話した。
 卓也さんが意外と根に持つタイプだと分かる。
 忙しかったのか、一樹さんとは話せなかった。
 なんか、ちょっとさびしい。』

「ずいぶん「ちゃんとした日記」じゃないか」
 くすくすと笑いながら卓也さんがタバコに火をつける。
「そうですよ、日記ですもん」
「・・・」
「卓也さんのは・・・日記じゃないですよね?」
「・・・」
 ふうっと大きく吸いこんだ息を吐き出して、煙でわっかを作るフリして俺の意見を卓也さんは聞こえないフリをしていた。
「小沼のは日記だと思いますけど? らぶらぶな日記ってアイツも言ってたし」
「そのらぶらぶっつーのをやめて勉強してくれたらなァ」
「方程式とか英訳とかやってました? 小沼」
「いや、ぜんぜん」
「でしょうね・・・」
「しかも懲りてねーからタチが悪い」
「・・・相変わらず・・・ですか?」
「・・・見るか?」
「いえ・・・」
 俺は「ラブラブ日記」を見ることを辞退させてもらった。
 二葉1人でも頭が痛いのに・・・このうえ果てない小沼のらぶらぶ光線に当てられたら、この夏を乗り切る体力がなくなっちゃうよ・・・。
「じゃ、俺、夏期講習あるんで帰ります」
「おう、気をつけてな」
「はい。卓也さん、がんばって「日記」書いてくださいね」
「・・・オウ、忍もな・・・」
 そうちゃんと二葉におしえてあげなきゃね。
 日記がどういうものかって。
 二葉も小沼も分かってくれるといいんだけど・・・。


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