投稿(妄想)小説の部屋

ここは、みなさんからの投稿小説を紹介するページです。
投稿はこちらのページから。 感想は、投稿小説専用の掲示板へお願いします。

No.72 (2000/07/26 23:15) 投稿者:遠藤さや

「交換日記」〜東京ナイトアウト編〜

『交換日記 〜東京ナイトアウト編 part 4〜』

「もう、だいたい小沼がめちゃくちゃな日記にするから俺も卓也さんも困ってるんだよっ」
「え〜〜、なんで〜? 俺は、俺がどれだけ卓也が大好きかってことをわかってもらいたいなあって」
「だからってね〜、アレは日記じゃないよ。二葉も間違ってるし・・」
「あ〜、二葉もラブラブ〜〜? 本当は嬉しいんでしょ、忍!!」
 俺はひじでごつんと小沼の頭をこづいた。
「いた〜〜い」と小沼が叫ぶ。
「でもね〜、俺ね〜、愛のラブラブ交換日記、みんなに広めるんだ〜」
「そのネーミングもやめてよ、ラブラブ交換日記・・・」
 その名の通り、二葉も小沼も「ラブレター日記」を実行してくれる。
 そして、毎晩俺と卓也さんは一樹さんにからかわれながら「返事」を書かされている・・・。
「でも、イイコトだからね、俺、紹介しちゃったもん」
「なんだって!?」
 びっくりする、俺に「えへへ〜」とうれしそうに小沼が文房具売り場のレシートをヒラつかせる。
 レシートには、あの分厚い日記帳が一冊購入されたことを示している。
「だれに送ったの??」
「ナイショ」
 じゃあね〜と笑いながら小沼はバイトに行ってしまった。
 ひとり残された俺は、どこのどなたかはわからないけれど「小沼のイイコト」の犠牲になっちゃう誰かにそっと胸の前で十字をきって祈りをささげた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あれ?なんだろう」
 荷物をあけて見て、びっくりした。
 中からは分厚い日記帳とメッセージカード。

『この日記帳で愛のらぶらぶ交換日記をどうぞ!』

「あ〜、桔梗くんからだ」
 俺は、分厚い日記帳を手にとった。
「交換日記・・・なんだかくすぐったいな」
 ふっとあのひとの声が聞きたくなってしまった。
 声は聴くことが出来ないけど。手紙もくれないけど・・・。
 でもあなたの存在を近くに感じていたくて。
 
 やっぱり交換日記するなら・・・・、
 今は近くに居ないあの人だな。
 でも、彼はこういうことやってくれるかなと心配になったけど・・・。

 せっかくの桔梗くんからのプレゼントだし、俺はさっそく今夜から使ってみることにした。

『8月8日 今日、桔梗くんからこの日記帳をもらいました。
 「交換日記をしてね」とメッセージがあったから・・・。
 やっぱり、あなたとしたくて・・・。気長に待つので、
 気が向いたらでいいから「日記」をつけてください。
 貴奨にはナイショ。俺と健さんだけの秘密の日記だから。 慎吾』
 渡すことの出来ない、でも宝物のような1ページを俺は刻んだ。

『交換日記 〜東京ナイトアウト編 part 5〜』

『9月10日 忍の学校が始まって、あんまり逢えないよな〜〜〜。
 俺に逢えなくて淋しい?? もうすぐ、忍の誕生日だし。
 プレゼント何が欲しい??
 え〜と、とりあえずホテル予約していい??』

「あのね、二葉。いつもいつも言うけど、これじゃ交換日記じゃないよ」
「え〜? でもいいじゃん。俺の愛が詰まってるのわかるだろ?」
「・・・そういう問題じゃないってば・・・」
 はあ、なんだか脱力・・・。
 小沼のほうも相変わらずで、卓也さん苦労してるし。二葉も相変わらず、日記じゃなくて・・・・ラブレターだよ・・・。
 塾までの時間、喫茶店で時間をつぶしながら俺が日記についてどんなに言っても、二葉は聞く耳を持ってくれない。
 もちろん、嫌じゃない。
 俺は他人の感情に臆病だから、こうやって二葉のストレートな気持ちを毎日見れると、安心する。幸せだなって、実感できる。
 でも、俺にまでこんな風に書けっていうのはムリ過ぎるっ!!
 どうしていいかわからずに日記と二葉の顔に視線をフラフラさせていたら、突然二葉が「じゃ、こういうのは?」と日記を取り上げて、なにやら書きこみ始めた。
「なに?」
「この間さ、学校でパソコンいじってたら・・・」
 機嫌よく二葉が日記を書き込んでいる。
(となりに俺がいるのに・・・なんでわざわざ書くのかな)
 でもとても楽しそうな二葉に思わず「くすっ」と俺の口から笑いがこぼれる。
 よっぽど、交換日記したいんだなと思って、俺はすこし考え直そうと思った。
 二葉ほどストレートじゃなくても、すこし、こいつの望むような日記にしてみようかなって。
 卓也さんはまだがんばって数学と、英語、最近は漢字の読み書きにバージョンアップしたみたいだったけど。
 小沼にはあまり効果がでていないみたいだけど。
 二葉の手が何を書くのかじっと見つめていると、どうやら満足してきたのか二葉がちょこちょこっと顔をあげて話してくれるようになった。
「ホームページを見ていたらさ・・・いいアイデアがあってさ」
「いいアイデア?」
 ほらっ、と二葉が日記を見せてくれる。
「なっ。いいアイデアだろ? これなら、二人の愛が深まる!! 間違いナシ!!」

『二人の交歓日記
 俺が一方的にラブラブでも仕方ないじゃん? 
 交換日記じゃなくて、これからは交歓日記なっ!!
 とりあえず、毎日新鮮な交歓をしなくっちゃ、日記の話題にならないから・・・。
 塾、休んで。 俺の部屋いかねー?』

「★!?×◎▲!!!?★」

「なっ。いいアイデアだろう」
 ものすごくうれしそうな、ニヤニヤした顔で二葉が俺の顔をのぞきこむ。
 あ、呆れて言葉も出ないよ・・・。
 チョット見なおして、交換日記やってみようかなって思ったのに。
 二葉のばかっ!

『二葉のバカっ!! 呆れて、もう、相手にできないよっ。
 交換日記でも、交歓日記でも、やりたければ一人でやって!! 
 じゃあねっ』
 
 二葉からわたされた日記にさらさらっと書きなぐって、俺は席を立ちあがった。

「なっ!? 冗談だってばっ。オイ、忍ッ」
 店を飛び出た俺を、二葉が慌てて追いかけてきたけど、ムシ!
 ちょっと、お仕置きが必要だよ、本当にもう。何考えてるんだか。
 今日は、塾を休むよ、二葉ッ!
 休んで、ローパーで卓也さんと相談するよっ!! もう〜、ちょっとでも交換日記やってあげようとか思ったけど、ナシナシ。
 ・・・。
 でも、ガシガシ道路を突っ切ってるのに、顔がニヤニヤしてる・・・。
 二葉の、二葉の日記は恥ずかしいけど・・・なんとなくそれでも幸せ感じちゃってる俺って・・・。

 小沼のラブラブ光線が徐々に卓也さんに効いているように、どうやら二葉のらぶらぶ光線が徐々に俺の心のどこかを刺激し始めているようだった。
 まだまだ素直になれない夏だけど、それでもまた1歩1歩二葉も俺も確実に二人の道を歩いている、そんな気がした。


この投稿者の作品をもっと読む | 投稿小説目次TOPに戻る