投稿(妄想)小説の部屋

ここは、みなさんからの投稿小説を紹介するページです。
投稿はこちらのページから。 感想は、投稿小説専用の掲示板へお願いします。

No.69 (2000/07/21 16:27) 投稿者:

芹沢家の秘薬

 熱でもうろうとする慎吾の耳にある聞きなれたメロディが流れ込んできた。
 どうやらそのメロディはキッチンから聞こえてくるようである。
 聞きなれた筈なのに、何故か思い出せない。
 しかし熱に弱っている彼は、敢えて思い出そうとする気力もなかった。
 それにしても誰がいるんだろう。貴奨は、出かけた筈だし。
 家に誰もいるわけないのに。
「誰だ?」
 ようやくそこに思考が行く。もしかしたら空き巣とか?
 だとしたら、警察呼ばなきゃ。
 慎吾はケイタイを握り、足を忍ばせ、重い体を引きずってキッチンへと向かった。
 そ、そこには。三角巾をし、割烹着に身を包んだ貴奨がいた。
「リーンゴーンリンゴン♪ おいしーいモノが、あればー♪ おいしいモノがあれば! そこはーパラダイスー丸大ハンバーグ!」
 丸大のCMソングだったのか。それより、何で貴奨が歌ってるの?!
 ていうか。何作ってんだよ、貴奨。
 鍋に怪しげな粉を パラパラと振り掛けくちずさむ彼の目は暗かった。
 思わず足が竦む。
「何してるの?」
「・・・・・っっ!!」
 突然肩を叩かれ。驚きの余り涙目になる。
 そこにいたのは高槻さんで。
 いつもどおりの彼に俺はほっと安堵して肩の力を抜いた。
「高槻さーん。おかしんだよ、貴奨。何か歌ってるし。」
 助けて。救いを求めた俺はすでに半泣き状態だった。
「よしよし。大丈夫だよ、アレ薬だからさ。」
 ほら、俺も買ってきたんだよ。コレ。
 彼が手に持っていた袋から取り出したのは。
 か、カラスだった。しかもまだ生きてる!!!
「か、からす」
「ん、そう。カラス栄養つくよ。」
 震える俺にうなづき、カラスを上下に振る。
 彼が振っただけ、羽が落ちた。
「芹沢ー。買ってきたよ。」
「丸ごとか?」
「これしかなかったんだよ。」
 しかもボラれちゃったよ。
 ま、慎吾君のためだから仕方ないけどね。
「ふうむ。取り出しておけ。」
 恐ろしい会話に慎吾は固まりっぱなしだった。
 これが自分の為だというなら要らない。
 何よりも。貴奨の言葉に完全フリーズ状態だった。
 と、とりだす?なにをおぉ?! カラスの何を取り出すんだろう。
 恐ろしくて声もでない。
 ぐるぐる考えているうちに高槻さんまでが割烹着姿になっていた。
 この二人程割烹着が似合わない男達もいないだろう。
 やめてくれ! 視界の暴力だぁ!!
 そんな俺の声に出せない心中の悲痛な叫びは彼らには当然届くハズもなく。
 そのうえ高槻さんは包丁をカラスに振り下ろしたのだ!!
 これ以上はここにいられない。
 俺は必死で逃げた。寝室に飛び込み、カギを掛ける。
 夢だ。これは夢なんだ!!
 自分に必死で言い聞かせると俺はベッドに横たわった。
「眠れ、眠るんだ俺!」
 あたりまえのごとく念じても念じても眠りは訪れない。
 時間だけが過ぎていく。
 ふと窓の外を見やるとカラスがいた!
 あまりの恐怖に俺は気が遠くなるのを感じた。
 目の前が霞んでいく。その後の事はよく覚えていない。
 束の間の健やかな安眠を慎吾はただただ貪っていた。


このお話の続きを読む | 投稿小説目次TOPに戻る