投稿(妄想)小説の部屋

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No.68 (2000/07/19 23:26) 投稿者:桐加由貴

風の条件〜枕の下の短剣〜

 軽くて、丈夫で、実用性が高い短剣。柢王が買ってくれたものだ。
 これを枕の下に入れて眠るのが、桂花の天主塔での習慣である。
 ・・・きっと柢王は気づいていないだろう。桂花が、そうしなければ眠るのが怖いことなど。
 天主塔での一人の夜はいつも、枕の下にこの短剣を忍ばせる。
 柢王が買ってくれた剣。それを・・・こんなふうに使っていることを知ったら、彼は悲しむだろうか。彼にとって、天界人は同胞なのだから。
 だが桂花の同胞ではない。間断なく投げつけられる悪意と敵意、蔑みの視線。それにさらされているうちは、身から武器を放すのは覚悟がいった。
 身を守るため。そう、桂花は自分に言い聞かせている。だがそのすぐそばで、耳に囁きかける声はいつも暗く、乾いていた。
 そんなものを身につけてなんになる? 例え天界人に襲われようと、おまえが天界人を傷つけたら問答無用で処分されるというのに。
 守天も柢王も、かばってはくれるだろう。だが、今の彼らには、桂花をかばいとおすだけの力がない。だから柢王はあの査察のとき、桂花には何も言わなかったのだ。
 柢王の足枷にはなりたくないと、桂花はいつも思っている。何かと気を配ってくれる守天にも、迷惑をかけたくはない。そもそも桂花は、人をいたずらに傷つけることに喜びを見出すような性格ではない。
 だから、ゆえなく天界人を傷つけるつもりはないのだ。
 だけど。
 桂花は傷つけられても、身を守ることもできない。許されていない。
(吾は誰に許されなければならないんだろう・・・)
 枕の下に短剣を忍ばせてみたところで、それをふるうことはきっとない。なら、なんのために忍ばせておくのだろう。
(柢王・・・)
 十日間の休暇。人界で、彼は李々に会えただろうか。例え李々が生きていても、もう桂花は彼女に逢うことはできないけれど。
 一緒に魔界を逃げ出した美しい女。
 突然消えてしまったひと。きっともう、生きてはいないひと。
 もう、彼女に逢えないのに、だから柢王のしていることは無駄なのに、なぜ彼は桂花を置いて人界に行ってしまうのだろう。
 周り中天界人のところに桂花を置き去りにして。
 桂花は、李々を探してほしいとも、彼女に逢いたいとも、言ったことはないのだけれど。

                              続


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