白雪姫10〜鏡の精の陰謀〜
「鏡よ鏡〜鏡よ鏡〜」
「……何か用?」
その日の夕刻。
今夜は卓也王の寝室へ夜這いをかけようと気合を入れた桔梗が、いつものように鏡の精を呼び出しました。
「あれ、今日機嫌いいじゃん」
間を置かず、すっと浮かび上がった悠の姿に、桔梗は不思議そうな顔をしました。いつもは10分くらい呼びつづけなければ出ないこともあるのです。
「いつものやつ言ってよ、世界で一番美しいのは?」
「……そうやって他人の評価で自信つけるのやめといた方が良いぜ」
夜這いをかける日には必ず悠の言葉を聞く為に呼び出していた桔梗は、図星をしっかり突いたその言葉にうっと詰まりました。
「う、うるさいっ!なんだよ突然!」
「俺は親切心から言ってるんだけど。…本当に答えて欲しいわけ?」
「当たり前じゃん、ほら早く答えろよ」
「……白雪姫」
「は?」
「森の奥のフジミホテルで暮らしているお前の継娘だよ」
何を言われたか分からないという風情の桔梗に、悠は重ねて告げました。
「な、なんで〜〜〜〜っ??!!!」
「うるさい」
鏡が割れんばかりの大絶叫に、悠は心底嫌そうな表情を浮かべ。けれども錯乱状態に陥った桔梗はパニックを起こしています。
「なっ…!! だっ…!! なんッ…!!!」
「言いたいことははっきり言えば? 付き合ってられないね…」
「ちょっと待って、な、なんでっ?なんであいつがそんなとこにいるんだよっ?!」
「さぁね」
「悪運の強い奴! でも…森の奥だったら帰ってこれない…よな……」
自信なさげに不安そうな声を出す桔梗に悠は冷たく言い放ちます。
「よくそう楽天的でいられるよな。フジミホテルと言えば世界のVIPも泊まる宿だぜ、白雪姫がそいつらに素性を明かしたら大騒ぎになるだろうな…」
「どっ、どうしよう〜〜〜っっ!!」
「さあね。自業自得って言葉しってるか」
「あーもう!うるさいよっ!!」
親指の爪を噛んでぐるぐると部屋の中を歩き回る桔梗は、長いドレスの裾に足を取られてすっ転んでしまいました。
「ひ〜ん〜〜いった〜い〜〜」
「馬鹿…」
尻餅をついて泣き出した桔梗に、鏡の精悠はやってられないとばかりに溜息をつきました。
「とにかく…白雪姫をどうにかすればいいんだろう」
「……どうにかって?」
「自分で考えれば。」
しばらく息を詰めて真剣な表情で何事か考えていた桔梗妃は、
「……分かった! やる!」
硬い決意を秘めた顔でそう宣言して。
それを黙って見守っていた悠の無表情な顔は、心なしか喜色を浮かべているようにも見えました。