投稿(妄想)小説の部屋

ここは、みなさんからの投稿小説を紹介するページです。
投稿はこちらのページから。 感想は、投稿小説専用の掲示板へお願いします。

No.41 (2000/06/17 01:32) 投稿者:真城理

白雪姫9〜毒蛇と甘言〜

 さて、その頃ナイトアウト国王宮では。
 一樹から行方不明の報告を受けた桔梗妃は内心舌打ちはしたものの、白雪姫がいなくなったのには変わりなく、すぐに上機嫌になりました。森の中で迷ったら、わざわざ手を下さずともきっとすぐに野垂れ死にするに決まっています。探しに行かなくてはとあせる一樹を宥めると、桔梗妃は悪知恵を働かし妖術で白雪姫そっくりの人形を作り、一樹を後見役に隣国へ遊学に行くという名目で姫の不在を誤魔化したのです。巧妙に作られたその人形は見た目は姫にそっくりで、新婚ボケしている卓也王はすっかりだまされ、まったく問題は起こっていませんでした。
 でもつまらなさそうにしている人は約一名。
 鏡の精悠が暇を持て余していました。
 白雪姫を追い出した後、鏡の主桔梗妃は卓也王にべったりで鏡を覗くのは週に数回程度。
 その度にからかって遊びはするものの、どんなにからかっても相手は新婚さん。最後には惚気られて聞く方はたまりません。
「なんか楽しいことないのか…」
「つまらなさそうだな、悠」
 そう一人ぼやく悠の前に現れたのは毒蛇の妖怪、桜庭でした。
「なんだ、あんたかよ」
「そんな顔をしてたら別嬪さんがだいなしだぜ」
「…」
「お前がつまらないのは、執心の王子さまの姿が拝めないからだろ。大人しく桔梗の鏡の精に納まっていたのもあいつがいつもべったり傍にいたからだよな。だけど結婚なんかしてくれたから大いに予定が狂ったってところかな」
「うるさい」
 図星を刺されて内心むかっときた悠です。けれども表情をぴくりとも変えず、うっとうしそうな顔をして見せました。
「そんなくだらない話をしにくるくらい暇なのか」
「つれないねぇ、折角興味があるだろうと思ってわざわざ寄ってやったっていうのになぁ」
 毒蛇の妖怪はにやりと笑いました。
「お前の御執心の王子さま、お出かけだそうだぜ。場所を教えて欲しいかなと思ってね」
「そんな情報教えてくれるのはどんな下心があるんだ?」
 用心深く悠は尋ねました。この妖怪桜庭、強い妖力を持っているだけではなく、その力に比例して性根の悪どさも並大抵ではありません。素直に話を聞くと痛い目にあうのは重々承知している悠でした。
「なぁに、前々からお前には世話になってるからな。今回の情報は今までの利子みたいなもんだと思ってくれていいぜ」
「……」
 悠が気に入っている桔梗の従兄弟は一度こっそりと覗いているのがばれてからというもの、自室はおろか身の回りには鏡を置かないという徹底振りで悠を避けまくってくれています。おかげでたまにしか姿を見ることができないのですが、場所がわかっているのならこちらのもの。運がよければずっと観察することができるかもしれません。そしたら彼のあんな姿や、こんな姿も…。
「聞かせてもらおうか」
 誘惑に負けてそうたずねた悠に、桜庭は性根の悪い笑みを浮かべ、告げました。
「国境の森の奥にあるフジミホテル。そこにお前の愛しの王子さまはお出かけさ、せいぜいばれないように気を付けな」
 そう言うなり桜庭は姿を消しました。二葉の姿を見ることができるかもしれない。それを知った悠はすぐに行動を起こしました。
 鏡から鏡へ。
 一瞬のうちに移動した悠は、あっという間にフジミホテルの鏡へ移動しました。
 客室は三つ。そのうち二部屋にはもう先客がいます。ということは空いてる部屋に泊まるのだなと、見当をつけた悠は、その客室の鏡に身を潜めました。
 しばらくするとドアが開く音がして悠は戸口に注意を向け、そしてあっと驚きました。二葉を案内するように入ってきたのは死んだとばかり思っていた白雪姫。内心驚く悠の目の前でさらに衝撃的な情景が繰り広げられました。倒れそうになった白雪姫を二葉が抱きとめ、何事か語りかけたのです。
 どうして自分には嫌そうな顔をして徹底的に避けまくる彼が、同じ顔をした白雪姫にはやさしい眼を向けているのか。
 …許せない。
 そう呟いた悠はしばらく楽しそうに話している二人の姿を無表情で見つめ、やがてすっと自分の鏡に戻って行きました。


このお話の続きを読む | この投稿者の作品をもっと読む | 投稿小説目次TOPに戻る